宇宙戦艦のサイボーグ

 一刻も早くこの不都合な真実を消し去ろう――そう決意した俺は


「カスミ。この体を操作するにはどうすればいい?」


 羞恥で焦る気持ちを内心に隠しつつ、努めて冷静にそう尋ねた。


<代替人型インターフェースの起動準備は完了しています。マスターの意志で即、起動可能です>


 珍妙な格好で横たわる俺の分身に視点を合わせて軽く意識を向けると、見えないパスで自分の意識が繋がるのが分かる。


 そのまま意識を強く向けると突如、視点が切り替わりカプセルのガラス越しに部屋の天井が見えた。試しに眼球を動かすが特に異常も無く普通に視界は良好だ。

 初めから当たり前のように馴染んだ新しい身体に多少戸惑っていると、目の前のカプセルのガラス蓋がゆっくりと開いた。


 俺はカプセルから体を起こして立ち上がり、新たに得た身体の二本の足で安定して直立する事が出来るか確認した。

 そして次に腕と手のひらが問題なく動くかを確認するために肩から腕を回したり、手のひらを閉じたり開いたりしながら身体を動かす。


「よし」


 俺は身体の運動機能に支障が無い事が分かると最後に口から肺で呼吸できるか確認し、声を出して発声に問題がないか息を吐きながら声帯を震わせる。


「あーあーあー、アメンボあかいなあいうえお」


 ともかくも、この身体を動かす分には問題無さそうだな。


 そして……


「ふんっ!!」


 服の首に両手をかけると一気に胸元からへそのあたりまで力任せに引き裂いた。

 続けざまにド派手な金ぴかベルトに手をかけて外そうとするが……


「んっ!! ふんんぅ! は、外れねぇ……」


 腹の下から脇腹まで腰に密着しているベルトを見回したが切れ目がなく、外し方がサッパリわからない。

 ふと、カプセルの脇を見ると黒い布が置いてあるのに気付いた。

 取り敢えず手に取って広げ……あ、何か落ちた。


 床に落ちたのは怪傑ゾロのような目の形に穴が開いた素敵マスクだったので、フルスイングで蹴り上げて部屋の隅に吹き飛ばす。

 そのまま黒い布を広げると今度は裏が真っ赤なマントが御開帳。

 無言でマントを真っ二つに引き裂いて、片方の布切れを腰に巻いて雄々しく主張する股間の起伏を覆い隠した。


<マスターの行動が理解不能です。分身であるインターフェースの体温が上昇し、発汗作用が顕著になっていますが――>


「だまらっしゃい!!」


 上半身の裸体を晒しつつ、両手を伸ばして軽く広げ、体を後ろに向けて腰を捻ったブ○イトさん立ちで一喝し、カスミを沈黙させる。

 そう、時代がどう移り変わろうとも親父には息子を殴らなければならない時があるのだ!


<…………>


 落ち着け、こんな時は深く息を吐いて冷静になるんだ……


 そして俺は膝に手を当てて中腰で床を見つめながら深呼吸をして荒れ狂う南極海のように乱れた心を凪ぐように努めた。


「ふっ、ふっ、ふーーーー。ふっ、ふっ、ふーーーー」


 今、この身体で呼吸しているのが人間の肺と同じ仕組みで動いている器官かは判らないし、そもそも呼吸自体する必要があるかも不明であるが、ともかくそうして深呼吸をしていると頭に上った血が引いていき、冷静な思考が戻ってきた。

 まあ、この身体は分身なので本体としての頭脳はどこか別のところに存在しているのだろうが気の持ちようである。


<…………>


 暫くして冷静になるとカスミの無言のプレッシャーが痛い。

 ちょっとキツく言い過ぎたか。

 今は何をするのもコイツを頼る他無いからしかたないのだが、ホント大丈夫だろか…………


 こうして俺は天然でズレているのか良く分からないこのAIとのコミュニケーションに不安を残しつつ、なんとか再び自分の肉体を得て現世に再降臨を果たしたのであった。

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