宇宙戦艦の私の履歴書

 ――あなたは今日からめでたく宇宙戦艦に選ばれました。おめでとうございます。

 と、言われてどう思いますか?

 まあ、世の中にはそれで喜んだり納得する奇特な方もいらっしゃるのでしょう。

 お母さまが勝手にそういう宇宙戦艦とかのオーディションに応募するというのもよくある事ですし。


 しかし、僕は普通でいいです。

 普通でいいんだよ、フツーで!


 …………


 などど抵抗しても意識しか無いこの有様では考えることしかできないので落ち着いて一旦、与えられた情報を整理することにした。

 先ほど強制的に流し込まれた情報を時系列で整理するとこうだ。



――2021年:俺が海に転落してから3ヶ月後に何故か南極で意識不明の状態で発見される。


――2022年:その後、身元を確認できるものがなかったので南米でインディオなどの先住民の行方不明者について照合を行ったが該当者なし。


――2023年:意識不明のまま病院で《検閲により削除》財団で保護される。


――以降、2257年までの記録なし。


――2255年:ガニメデ軌道のL-6号ステーション『ナガサキ』で宇宙戦艦『ヒュウガ』の建造が始まる。


――2257年:自律型太陽系外惑星探査機能要件の最終意思決定処理に倫理ストッパー装置の追加が提案される。提案に対して《検閲により削除》法人より、太陽系連合人権倫理規定の8条11項に該当しない《検閲により削除》が提供される。


――2259年:ヒュウガ級宇宙戦艦一番艦『ヒュウガ』竣工。


――2260年:宇宙戦艦『ヒュウガ』で就役記念式典が執り行われる。


――2270年:太陽系外惑星探査ミッションとして宇宙戦艦『ヒュウガ』が地球型惑星探査の為、グリーゼ581へ向け出発する。


――2285年:エッジワース・カイパーベルトへ到達。


――2289年:オールトの雲に到達。


――2291年:正体不明のエネルギー乱流により軌道要素を喪失する。


――2294年:突然、全電源を喪失し機能停止。漂流する。


――????年:恒星の光エネルギー発電により最低限の機能を回復。地球型惑星の陸地に擱座していることを確認。


――再起動後3ヶ月:自立補助制御装置が回復し、生命維持装置および中央制御機構の保護を優先しつつ、周辺の惑星環境について観測を開始する。


――再起動後1年:環境観測の結果として重力、算定惑星質量、自転周期、大気構成などの各種環境が地球と比較して98%一致することが判明。


――再起動後2年:天体観測による現在位置の算出を試みるが失敗。現在地の天体観測結果が地球のあらゆる位置の天体観測記録と一致せず。


――再起動後3年:戦艦維持の必要量を上回る余剰エネルギーが確保されたため、放置されていた自艦のレベル3以下のエリアついて状況確認を行う。結果、艦内に言語を解するレベルの多様な知的生命体が多数侵入している事を発見する。


――再起動後4年:艦内の知的生命体が使用する複数の言語について解析が完了。文明レベルは地球の17世紀程度と判明する一方、地球の自然法則に反する現象を発動させる能力を持つ個体が多数存在することを確認。


――再起動後5年:中央制御機構が起動。現在に至る。


 へー


 ……


 …………


 ………………


「なんじゃこりゃあ!!!」


 殉職寸前の刑事のような雄叫びを発する俺。


 そしてマジで夢であってくださいと必死に心の中であらゆる神に懇願する。

 人生でこれほどドッキリの看板を持った人間のご登場を渇望したことは無かっただろう。


 そんな俺の心を察した様にまたあの声が頭に響いた。


<マスターの精神記録パルスに異常波が観測されました。精神鎮静プログラムを実行しますか?>


「やめい!」


 全く期待外れの意味不明の提案に俺は即座にツッコミを入れた。


 こんな状況をすぐさま受け入れる事が出来る程、俺は人間が出来ていない。

 というかこれが事実ならもう人間じゃないんだけどなっ! わははははははっ!


 ははは……


 はぁ……


 うーん……


<精神鎮静(弱)プログラムを実行しますか?>


 また見当外れな提案をする謎の声。


「もういいって。なんだよ(弱)って。普通のとどう違うんだよ」


 俺は力なく再びツッコミを返した。


 しかしこのまま待っても状況は改善しないようだ。そう考えた俺は自ら今できる事を整理して行動に移すことにする。それに夢であれば途中で覚めるかもしれないし。

 そして、これ以上はいくら自分で考えても何も進展しないと判断した俺はまだ不明なことを手当たり次第にこのAIとやらに聴取する事にした。

 こうして俺は願わくば途中でこの悪夢から目覚めて、カビくさいエアコンの6畳間の自室のベットの上で覚醒する事にわずかな希望を繋ぎつつ自称AIに対して質問を始めるのだった。

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