干物と天邪鬼

「……章。話って何?」

「そうよ。いきなり私達だけ呼び出して……一体どういうつもりなの?」

「ちょっと二人に聞きたいことがあってさ」


 僕は食後二人を自室へと招いていた。その理由はとても単純で、二人からはまだ僕に関する話を聞けていないからに他ならない。


 僕が二人から主に効きたい内容は一つだけ……


「え、ええとね。その……二人は僕の事……どう思ってるの?」


 僕との関係性だ。もし二人が僕との間に彼氏彼女の付き合いなく、ただの幼馴染ならば問題ない。でも万が一……万が一二人も他の皆と同じことを言おうものならば……その時は……うう......頭痛くなってきた。これ以上考えるのはよそう......


「……章の事?」

「そ、そう。僕の事」

「……好きだよ? 章はいつも私の面倒みてくれるから」

「そ、それ以外は特にない?」

「……それ以外?」


 葵の反応は鈍い。つまるところこの子と僕が付き合っている可能性はゼ……


「……章は私の事面倒見てくれると言ったくらいしかないよ?」

「おいおい……」


 過去の僕よ。女の子にその言葉は明らかにアウトだろう……一生ってそれはもう付き合おうとかそういう次元を超えている。何ならプロポーズと何ら変わりない。


「……章?」

「な、なんでもない……」


 お、落ち着くんだ。何処か抜けた表情をしている葵のことだ。きっとこの言葉にそれほど深い意味を見出していないはずだ。


「章。この子の言う事気にするだけ無駄よ。だってこの子は嘘つきだから」


 またそれか……この幼馴染達はどうしてこうも他の子たちを嘘つきというのかな……


「……秋葉、失礼」

「失礼で結構よ」

「……むぅ」


 葵は頬を可愛らしく膨らませている。表情を動かすのが面倒と言っている彼女が反応するのは、秋葉の発言が余程気にいらなかったのだろう。


「……そういう秋葉の方が嘘つきの癖に」

「はぁ? 私がいつ嘘ついたっていうのよ」

「……秋葉はいつも章の前で嘘ついてた」

「そ、そそそんな事ないし‼ 私は正直者だし‼」


 正直者という割には目がやたらと泳いでいる。まあ彼女はツンデレさんだから大方自身の気持ちとは、真反対の言葉を僕に浴びせていたのだろう。でもそれはすなわち僕に対する嘘をつきなれているということでもあり、それとは逆に彼女の言葉の裏は真実というケースもある。そうなるとこの子が一番面倒臭いかもしれない。


「章。あんた今私に失礼な事考えたでしょう?」

「考えてないよ‼ 全然‼」


 どうしてこうも僕の思考は読まれるのか……何? そんなに僕って読みやすい思考しているの?


「そ、それよりも秋葉は僕の事どう思っているのかな?」

「章の事? そうね……好……じゃなかった普通よ‼ 普通‼」

「普通……ね」


 てっきり嫌いとでも言われるかと思っていたがそんな事は無いらしい。まあこちらとしても嫌いと言われるよりは普通と言われるほうがかなりいい。


「ま、まあ‼ そんなあんたでも‼ 仮にも私のなんだからもうちょっとしっかりしなさいよね‼」

「……章は私のだよ?」

「は!? あんた何言ってんの‼」

「……やっぱりそうなったか」

「やっぱり? ちょっとそれどういう意味よ‼」

「……説明求む」


 う~ん。ここで二人に話すと話が余計拗れる様な……話さなかったら話さなかったで殺されそうだし……それに秋葉以外の幼馴染達の反応を見るに、互いが互いに嫌いあっているようだから話しても問題はないような気がする。


「実は……その……他の幼馴染達三人も似たような事を言ってまして……それで……」

「あ、そういうこと」

「……納得」


 納得しちゃうんだ。そうなんですか……


「それであんたは誰のいう事を信じているわけ? 勿論私よね?」

「……私に決まっている」

「ないない。他の三人ならまだしもあんたみたいな干物女だけはないない」

「……鬼よりは干物の方がまし」

「鬼って私の事!? ちょっと一体どういう意味よ‼」

「……天邪鬼あまのじゃく

「な!? なななななな!? 私の何処が天邪鬼っていうのよ‼」


 全部が全部天邪鬼だと思いますけど……言わないでおこう。それにしてもこの言い争い。いつ終わるんだろうなぁ……

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