第5話 異世界ファンタジーにおける倫理・道徳

◇これまでのお話

 『ファンタジー』と『フィクション』をごっちゃにしたファッキン・センテンスは空に還りました。よかったですね。



 2話の続きみたいな話をします。

 異世界ものを書くにあたって、作中の倫理観を提示する必要がある、的な事を書いた記憶がありますが、あれこれ書いてるうちにもう一つ壁がありました。

「どこまで現実の倫理・道徳に準じたらいいんだ?」という疑問です。

 例えば殺人。まあ現代日本では駄目に決まってますね。でもそれも、終戦後に培われた価値観ではないでしょうか? もっと言えば自殺、特攻隊の例は言わずもがな、戦後でさえ覚醒剤を服用してバリバリ働くのが美徳とされてきました。自分の命も他者の命も等しく尊重されなければならない、という思想はごく最近、医療を始めとした技術の飛躍的な革新によってもたらされたものなのです。

 次に挙げるのは窃盗、これも現代日本では犯罪です。しかし義賊という言葉がありますね。不当に富を独占する富裕層から盗って貧しい人にそれを渡す。繰り返しますが現代でそんな事をしたら犯罪です。金品を受け取った人も、警察の取り調べは免れないでしょう。ところで話は変わりますが、RPGなんかだとシーフ、即ち盗賊は普通に仲間に出来る場合がありますよね。そういう世界では泥棒は罪にならないのか? そんな事はないでしょう。まるっきり思考回路が異なる存在乃至世界観を一から作り上げるのは容易ではありません。「盗賊なんかパーティーに入れたらせっかく手に入れた希少なアイテムをパクられるかもしれない」と考える輩もいる事でしょう。では彼らは何故平然とその辺に居られるのでしょうか? これは私見ですが、盗賊のいる場所は「そもそも順法意識の希薄な環境」ばかりではないでしょうか。

 Wizardryの主な舞台であるダンジョンは、一般人や治安組織の人間が来る事はありません。前者は危険に対処出来ないし、後者が介入した場合ダンジョンごと封鎖される可能性がある、と私は考えます。罠や危険がいっぱいで、無事に戻って来られるかも怪しい環境。盗賊稼業を生業にしている人物なら、普通の街よりかえって居心地が良いかもしれません。官憲の目はないし、罠や隠された仕掛けにも対処出来る技能があり、お宝を見つけて儲けるチャンスもある。

 あるいはDQみたいに、街から街へと旅をしている環境も彼らにとっては好都合です。短期間の逗留なら何か悪さをしてもとんずらすれば良いわけですし。警察のような組織が仮にあったとしてもそれぞれ管轄がありますし、それらの横のつながりは情報伝達技術が発達した現代社会においても未だ希薄です。いわんやそんな技術のない世界なら、よその街にばっくれて知らん顔をしていれば無問題、てなもんです。

 恐らく、世に溢れるファンタジーのほとんどは現代的な倫理規範をベースに作られているのでしょう。でないと感情移入しづらいし。しかし「そうではない物語」を書く場合は十分気を付けなければならない、というのが今回の論旨です。

 「そうではない物語」の一例として、オーウェルの『一九八四年』という作品を挙げてみましょう。これはファンタジーではなくSFですが、傑作なのでまだ読んでないという人はこの駄文の閲覧を今すぐ放棄してでも読んでください。

 『一九八四年』には、パーソンズという一家が登場します。主人公ウィンストンのご近所さんで、二人の子供は党の教育に染まっていて、大人相手でも秘密警察ごっこをやります。子供達は貰った盗聴器の玩具で父親の寝言が反逆的であると告発し、その父は逮捕されてしまいます。この作品の舞台・オセアニアでは反抗的な思想を抱く事さえ重罪とされ、党の掲げる正義の為なら親だろうと差し出す事は正しい行いというわけです。主人公はこの思想に懐疑的で、そこから起こした行動が物語を作っていきます。

 ただ一つ注意すべき事として、話の本筋から外れて正義や倫理の議論を展開させてはいけないというものがあります。現実の社会をベースにした世界ならともかく、時代や環境によって倫理は如何様にも揺らぎます。舞台が完全なる異世界である場合、そもそも現代的な倫理観に準ずる必要は全くないのは上で述べた通りで、階級や役職によっては殺人さえ認められる世界だってありえるのです。そこで「何が正しいのか」を議論しても、「でもそれ(読者視点だと)フィクションじゃん」の一言で全て片付いてしまうでしょう。何が正しいかなんて、究極まで還元すれば個人の意識の問題ですし、そういう話をやりたいのではない人はその辺を調整しつつ書くのが良いでしょう。

 こんな事は書く前に気付けよ、と自分でも思いますが、自分の内だけで悶々と煮詰めるだけでは駄目で、外部にアウトプットして初めて得られる視点もあるのです。「やってみなくちゃ分からない、分からなかったらやってみよう」とは某女児向けアニメの言葉ですが、これはある種の真理で、行動によって新たな知見を獲得出来るという事です。

 まあ得られた知見が小説書く以外の実生活で何の役に立つかというと











あれはなんだ! ああ、窓に! 窓に!

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