サバイバル訓練四日目

 「才能っていうのはね、実際のところ、優れている分野がそれぞれ違うだけ。みんなある意味では、無知で無能なんだよ」


 どこかの誰かに言われた言葉だ。


 父だろうか、母だろうか。分からない。どちらも違う気がする。


 とにかく俺は、何か一つでもいい。一つでもいいから、誰よりも秀でた能力を持ちたい。


 いつも俺はそう思っている。


 魔剣士コザは生い茂る森の中で目を覚ます。


 彼は誰よりも努力家で、自他ともに認める負けず嫌いの性格だ。


 そのため、何かと嫌われることが多いのだが、それでも慕ってくれる人はいる。


「おはよう。コザ」


 勇者のヒロ。


 俺の数少ない友人の一人。


 彼は勇者でありながら、誰よりも謙虚で、堅実で、誠実な男だ。


 俺は、彼の事を親友だと思っている。


 もちろん喧嘩もすることもあったが、それでも俺は、彼の事を尊敬し、同時にライバルだと思っている。


 俺にとってヒロは・・・。


「おはよう!ヒロ!早速マリアを探しに行くぞ!」


 俺は声を張る。


「そうだね。急いで朝食を食べて出発しよう」


 ヒロはいつも冷静だ。状況を常に分析している。


 だから、俺はヒロにいつも助けられている。


 ヒロがいなければ、今頃俺はこのサバイバル訓練を辞退することになっていただろう。


 ちなみに、今日はサバイバル訓練四日目だ。


 マリアが連れ去られて、もう30時間以上経っている。


 早く助けないといけない。


 焦りが募る。


「さてと、じゃあ出発するか!」


 俺たちは走り出す。


 森の中へと。


「行こう!コザ!」


 今日は今まで一度も足を踏み入れていないエリアに行く。


 森の中央部分だ。


 東から南、そして西へと探索はした。


 だが、誰もいなかったのだ。


 魔物どころか、このサバイバル訓練に参加しているはずの生徒までも。


 明らかな違和感を感じつつ、俺たちは中央へと足を進める。


「マリア・・・無事でいてくれ・・・!」


 道中、ヒロが悔しそうに拳を握りこんでいる。


 悔しいのは俺も一緒だ。


 あの黒騎士、手も足も出なかった。


 あの一撃を防げてなかったら、間違いなく拠点に転送されていただろう。


 そういえば、俺たちって、いつから王女の事をマリアって呼ぶようになったんだっけ?


 考え事をしていると、不意に声が飛んでくる。


「君たち!サバイバル訓練は中止だ!直ぐに撤退だ!」


 よく見ると担任のレイ先生だ。


 俺たちは足を止めて、


「先生。落ち着いて聞いてください」


 ヒロが話し始める。


「マリアが連れ去られました」


 レイ先生の顔は途端に驚愕へと変わり、


「王女様が!?それは本当なのか!?」


 ヒロの肩を掴んで叫ぶ。


「本当です。連れ去られるところはこの目で見ました。ただ・・・俺たちは何も出来なくて・・・」


 俺は先生に説明するが、自分で自分が情けなくなってくる。


「その、連れ去った相手は、黒い鎧の魔物か?」


 先生が聞いてくる。


「そうです。僕達では手も足も出ませんでした」


 ヒロが、歯を食いしばり拳を握りこむ。


「もう、この森の東西南北は探しました。あとは中央だけです」


「先生!手伝ってください!レイ先生がいれば奴にも通用するかもしれねえ!」


 事実、俺たちだけだと手も足も出なかったが、レイ先生はかなり強いらしい。


「うーん・・・」


 先生は顎に手を当てて考える。


「わかった。森の中央へ行こう。案内してくれる?」


「はい!わかりました!」


 俺たちは向かう。森の中央へ。


「そういえばね、君たち以外の生徒は全員、拠点に転送されてしまったんだ」


 不意に、先生がとんでもないことを口走る。


「えっ!?」


 どういうことだろうか。


「全員、黒い鎧の魔物に襲撃されたらしい。だから、今回のサバイバル訓練は中止だ」


「そうなんですね・・・」


 ヒロが少し寂しそうに、


「でも、仕方ないですよね。急いでマリアを助けて、帰りましょう!」


「おう!」


 俺は気合を入れなおす。


 マリアを助けるために。


*

「なんだ・・・?これは・・・?」


 俺たちはその景色を目の当たりにして、愕然としていた。


 木々はなぎ倒され、所々にクレーターが出来ている。


 気が付けば、太陽は真上に来ている。


 太陽の光がじりじりと照らすその惨状は、まるで・・・


「まるで、隕石でも落ちたみたいだ・・・」


 ヒロが呟く。


「これは・・・もしかしたら黒い鎧の魔物は、『災害級』なのかもしれないね・・・」


 レイ先生は状況を分析している。


 『災害級』魔物。


 聞いたことがある。


 その名の通り、まるで災害でも起こしたかの様な被害をもたらす魔物だ。


「こんなことって・・・」


「これは、僕の手にも負えない案件だ。助けを呼ぶよ」


 先生は何かボールのようなものを取り出し、ボールから飛び出ているボタンのようなものを押す。


「これで助けが来るだろう。さて、王女様を探しに行こう」


 先生は安心したのか、少しだけ笑顔を作り話し出す。


「そうですね!行きましょう!」


 俺たちは歩き始める。


 クレーターの中心部へ。


*

「何もない・・・よな?」


 俺は二人に聞く。


「そうだね・・・。あるのはあの小さな洞窟くらい」


 気が付けば、視界の端に洞窟のような、ほら穴のような、穴があった。


「とりあえず、あそこに行ってみよう」


 俺たちはその場所へと向かう。


 すると、


「マリア!」


 マリア王女だ。


 俺は急いで駆け寄り、抱き起す。


 良かった。まだ息はある。


「まだ、生きてます!」


「良かった!急いで腕輪の装飾を5回叩いて!」


 レイ先生が叫ぶ。


 叩くと、マリアの体が光に包まれて、どこかに消えた。


「これが、魔道具か・・・」


「さあ、君たちも急いで拠点に戻って!後は私が何とかするから!」


「はい!」


「わかりました!」


 俺たちは自分たちの腕輪を叩く。


 不思議な感覚に包まれ、気が付いたら森の入り口にいた。


 見渡すと、先生たちが周りを囲んでいる。


 こうして、俺たちのサバイバル訓練は終わった。


 結果は、ただ一人を除いて、全員リタイア。


 その一人は・・・。


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