2.氷霊憑き

 神秘の霊薬エリクシル、生命の水、第五精髄せいずい、賢者の石。

 まだ錬金術が魔術と分かたれていなかった古代から、人は鉛を金に変え、万病を癒やす神秘の霊薬を世界中で求め、探究してきた。

 ある魔術師は宝石を融かし焼き、その灰を絞った油から不老不死薬を作り出そうとした。またある国王は、一人の優秀な冶金師やきんしを塔に監禁し、水銀と竜の胆嚢たんのうから若返りの妙薬を発見させようとした。

 そうしたすべての試みが、万物と、それを形作る元素の特性や霊的性質に対する人間の知識を深めていった。蓄積した知見はやがて体系化され、学問として確立される。これが現在、あまたの有用な調合薬や魔呪具を生み出している錬金学の由来である。

 けれども物質への理解が進んだぶん、錬金学は、その究極の目的を妨げる大いなる困難をも明らかにした。自然物質の性質や反応性は、あまりに多様で複雑だった。どんな傷病もたちどころに癒やす万能薬の調合、あるいは命を不死に変質させる力の抽出ちゅうしゅつといったものが、どれほど奇跡的な試みであるかを人々は思い知ったのだ。

 賢者の石を研究する錬金術師は、だから今の時代ほとんどいない。まともな人間ならもっと現実的で実際的な品物の錬成に努めるし、大学の権威ある術師ならばなおのこと不死薬の研究に手出しはしない。

 あらゆる生物の病を癒やし、定命の肉体を不死に変える――宇宙の真理の本質をそのうちに宿す薬の錬成は、達成すれば確かに永久とわの栄光を得られる蜜のかかった神秘だが、求める者を破滅させる禁忌の劇毒でもあった。過去、研究に没頭するあまり、狂死、憤死、社会的な死を迎えた優れた術師は数知れない。

 にも関わらず、依然として奇跡の霊薬への憧れは民間に根強く残っている。多くは壮大な野心の尽きない権力者たちのあいだで。または文明から多少距離があり、常に自然と魔の脅威にさらされ続ける田舎の生活者たちのあいだで。

「こいつ、ほんとに神秘の薬くれんの? ぜんぜん錬金術師っぽくない」

 噛みつくように言った少女の腕を鋭く引いて、クルトは叱責しかけたが、結局苦笑いした。

「こら、助けてくれるかもしれん相手なんだぞ。ちょっとは殊勝にしろ。……しかしまあ、一理あるな。テュエン、なんだその格好は」

「今、作業場で砂糖を作っているんだよ。奥は蒸し風呂なんだ」

「おまえ、砂糖まで自作するのか」

「少し事情があってね。それより、どんないきさつだい? 神秘の霊薬エリクシルが欲しいなんて。どこの娘さんなのかな」

「名前はミルレットだ」軽口の多いクルトだが、行動はいつも結論から入って速い。「南へ下る街道沿いの農村の子供で、シヴォー家のぶどう農園で働く小作民の娘だ。そうだったな?」

 問われても、ミルレットという娘は黙ってギラリとテュエンを睨みあげただけだった。まるで毛を逆立てた野良猫さながら、不機嫌をむき出しにしている。

「この娘は上の街で盗みをしようとして、とっ捕まったのさ。川沿いの錬金工房で、おまえも知ってるか? スールニョンの大釜おおがまという店」

「ああ、あの新しくできた派手……、いや、目立つ工房だね」

「その派手な店だ。まぁこのナリで上の街に行ったもんだから最初から目をつけられてたに違いないが、案の定、盗みをやろうとしたんで引っくくられた」

「しかし、きみは下町の管轄だろう? 配属替えがあったのかい?」

「たまたま騒ぎに行き会ったんだよ。この威勢のいい娘はな、捕り手に食ってかかったもんで袋叩きにされかけててな。つい引き取っちまって、そのままうちの軽牢に入れとくところだったんだが」

 リシュヌーの街は、谷川を挟んで上の街と下町に分かれている。

 北西側の上の街は領主サントラジェ大公の王城をはじめ、貴族屋敷、富裕者の商館の集う古くて由緒正しい市街だ。逆に南東の下町は雑然とした庶民の新町で、出稼ぎの者や貧しい者も多かった。それで上の街の人間には、なにかと下町を侮る態度を持つ者も多い。

「よく引き渡してもらえたね。上の街の警吏けいりは縄張り意識が強いんだろう?」

「家名を笠に着て威張ってやったんだよ。ま、こういうときには便利だよな」

 街の治安を維持する衛士は大半が平民で構成され、それを貴族の子弟が長について取りまとめている。クルトは自身の希望で、あまり旨味のない下町の衛士隊長に就いているが、彼の家柄はこの公国でも大公に次ぐ爵位を持つ五名家のひとつだった。

 だが、クルトは私生児だ。あまり外聞のよくない家の事情があり、十九の歳までは下町で暮らしていた。だから彼は心情的に貴族よりも平民寄りで、下町の人々も自分たちの事情を分かってくれるクルトを頼りにしている。

 上の街の貴族の舎弟である衛士は、相手が貧民とみて過剰な制裁を加えかけたのだろう。割って入った友が一喝して彼らを黙らせた場面を想像すると、テュエンは胸がすいたが、微苦笑してやれやれと首を振った。

 侠気のある親友の頼みはいつも断れない。ただ、だいたいこういう経緯でクルトが持ちこんでくる依頼には厄介なものが多いのだ。今回は錬金学の聖域にして禁域、神秘の霊薬の注文である。

 それで、とテュエンはずり落ちてきたシャツの袖を捲りながら尋ねた。

「この子は工房へ霊薬を盗みに行ったのかな。置いてなかったろう」

「あたしを馬鹿にすんな。盗みに行ったんじゃない、買いに行ったんだ!」

「逃げながらいくつか店の物をくすねただろう」クルトが少女の腕を引き、「それに買いにったってな、お嬢ちゃん。王侯貴族だって神秘の霊薬を買う金なんか持たんぞ」

「知るもんか! あいつらがあたしを野良犬みたいに追っ払おうとするから悪いんだ! うちにはこれしかお金がないし、万能薬がいるんだ! それであんた、薬くれんの!? 持ってるなら早く出してよ!」

「誰か病気の人がいるんだね、ミルレット。きみの家族かな」

「……妹」

 テュエンがゆっくり尋ねると、興奮していた少女はやや俯いて答えた。

「エリクシルじゃないと治らない?」

「知らないけど、父ちゃんが言ってたんだ。神秘の霊薬があれば、って。錬金術師が作ってて、どんな病気も治せるんだって。貰ってきてって頼んだら、農民には高くて絶対に買えないって言った。でもリシュヌーには錬金術師の店がいっぱいある。だから」

「それで、一番目につく錬金工房に入ったんだね。霊薬を売ってほしいと頼んだのかな。店の人はなんて?」

「……頼んでない。貴族街の店は、貧乏人には絶対売ってくれないと思ったから。でもそんなすごい薬なら、きっと立派な瓶に入ってる。見れば分かると思った」

「じゃ、初めから盗む腹積もりだったんじゃないか、お嬢ちゃん」

「違う!」

 ミルレットは歯を剥き出してクルトに叫ぶと、スカートのポケットに手を突っ込んだ。小さな茶色の麻袋を握りしめた拳を衛士に突きつける。

「ちゃんと、お金は置いてくつもりだった! これしかないけど、足りないかもしれないけど、これで全部なんだ! しょうがないじゃないか!」

「…………」クルトは指で頬を掻き、掴んでいた少女の腕を放す。

 軽く眉を上げてテュエンに肩をすくめてみせ、「こういうわけだ」口をへの字に曲げた。「霊薬とは言わずとも、おまえならよく効く安い薬を持ってるんじゃないかと思ってな」

「私は医者じゃないんだけれど……」

 困ったように息を吐き、テュエンはミルレットに巾着袋を下ろさせた。

 凶暴な野生の獣じみた少女の興奮は、どうやら家族を失うかもしれない焦りと恐怖によるものだったらしい。最初に、と前置きしてテュエンは子供に話しかけた。

「神秘の霊薬というのは、伝説の薬なんだ。どこの国の錬金工房にも置いていないし、どんな錬金術師も作れていない幻の薬なんだよ」

「う、嘘だ! あたしが農民の子供だからって……」

「本当だよ、師匠は嘘なんか言ってないよ! 神秘の霊薬があったら、おれの翼だって治ってるもん」

 それまで黙っていたレムファクタがふいにテュエンの後ろから主張した。ミルレットは声をかけられたのに驚いたのか、有翼人種に驚いたのか、少年の背中に生えた歪な矮翼わいよくをまじまじ見つめる。テュエンは微笑んでレムの肩に手を置き、

「この子は私の弟子だ。私と霊薬の作り方を探している。私は帝国の都にいたこともあったけれど、そこにもエリクシルは無かったよ。でも万能薬じゃなくても、薬は他にもいろいろあるからね。妹さんの病気に効く薬を、私が知っていたら作れるかもしれない」

「ほ、ほんとに……?」

「お医者さんには診てもらったのかな」

「一回だけ……。ただの風邪って言われた。絶対に違うのに……」

「そうか。どんな症状なんだろう。熱はあるかな? 咳や、鼻水が出るとか」

「冷たい水を飲みたがる」

「冷たい水……?」

 頷き、少女は思い詰めた色の瞳でテュエンを見上げた。

「変なんだ。妹は寒い寒いって言うくせに、誰かがそばで見てないとすぐ身体を冷やそうとするんだ。だから母ちゃんはもう何週間も仕事に出られてない。コーニアはいつも真っ青で、ほとんど寝たきりになってる」



 サントラジェ公国の領土は、南部に連なる冬のたてがみ山脈に沿って南西から北東へと長く延びている。最南端の平地は気候も暖かく、小麦やぶどうもよく育ったが、国土の大半を占めるのは冷涼な山峡の高地だ。リシュヌー周辺でぶどう栽培に適するのは、南からの陽光がよく当たる北側山地の傾斜面に限られていた。

 気候の厳しさゆえ収穫量こそ少ないものの、この地で育つぶどうにはナッツに似た独特の風味と甘さがある。しかも広大な山地はハーブや魔性ましょう鉱石、魔物を含めた多様な生物資源が豊富だ。それらの素材をもとに調合される薬用ワインは国の特産品であり、帝都でも知られた交易品だった。

 そうしたワイン醸造所ワイナリー併設ぶどう農園の一つで、ミルレットと父母、妹の四人家族は働いていた。賃金は安くとも住みこめる住居はあり、農園の管理者は小作人を魔物や盗賊から守ってくれる。家族は懸命に働き、それなりに幸せな暮らしを営んでいた。

 秋の収穫に始まるワイン醸造じょうぞうの繁忙期も過ぎると、ぶどうつるの剪定や土の掘り起こしがあるとはいえ、農民は副業の時間も持てるようになる。冬場、ミルレットと妹のコーニアが仕事を兼ねた遊びとしていたのが、農園周辺での山林歩きだった。

 冬に育つ霜茸しもたけや飢えで死んだ山崖羊シャモアの角などは、錬金材料として街で高く買い取ってもらえる。めったに見つからないとはいえ、宝探しの趣もあるそれは農閑期の楽しい仕事であり、その日も姉妹は、ぶどう蔓の編み籠を持って渉猟に出ていた。

 高地の春の訪れは遅い。山陰や木の根元には融けきらない雪も残っていた。日が暮れれば寒気はまだ油断できないほど強まるが、農園での仕事が始まる前の最後の山歩きだったので、姉妹はいつもよりぐずぐずと長居した。

「コーニア、帰ろう!」

 さすがに日が陰って寒くなり、ミルレットがどこかにいる妹に呼びかけると、

「お姉ちゃーん……」

 返事が聞こえ、直後ミルレットは駆けだしていた。

 不安げな妹の声色。続いて響いたのは高い悲鳴だった。

 息を切らして木立を回り込み、下生えをかき分ける。窪みを少し下った底で、コーニアは呆然とした表情で立ちすくんでいた。

「どうしたの?」

「今ね、氷のお化けがいたよ。近づいてきたけど、消えちゃったの」

 コーニアの顔色はやや青ざめていたものの、特に怪我などは見当たらなかった。二人は無事に帰宅して、翌日もいつもどおりに起床した。

 だが妹は、確かにその日から体調を崩しはじめたのだ。

 とにかく「寒い」と訴えた。重い頭痛や、腹痛を起こす日も増えた。なのにコーニアは冷えた水を飲みたがり、飲みながら青い唇でぶるぶると震えるのだった。

「やっぱり病気だって母ちゃんが言って、隣のおじさんに薬を分けてもらったけど、効かなかった。父ちゃんが農園の管理主様に頼んで医者をつれてきてもらったけど、わからない、風邪だろうって言って薬を置いてった。でも、ぜんぜん良くならないんだ」

 ミルレットはそう言うと、雪焼けした顔に不安の色をいっぱいに浮かべた。恐ろしい秘密を打ち明けるように、少女は口元を歪めてテュエンに訴えた。

「昨日の夜、あたし寒くて目が覚めたんだ。ドアから風が吹き込んでて、びっくりして起きたらコーニアが家から出ようとしてた。服を脱いで、肌着まで脱ごうとしててさ。引き留めたらコーニアは暑い、暑いって言う。でも父ちゃんが大声で名前を呼んで、それでコーニアは目を覚ました。あの子、寝ながら歩いてたんだ。それから寒いって泣きだした。――ねえ、絶対に風邪じゃないでしょ? コーニアは氷のお化けに呪われたんだ!」

「……たぶん、きみが正しいと思う。それは氷霊ひょうれいに憑かれたんだ」

 えっ、と声をあげたのはクルトだった。

「氷霊って、あれか? 魔物の、元素精霊エレメンタルのことか?」

 そうだと頷くテュエンに、衛士は顎をしごいて首をひねる。

「確かに昨冬は寒かったから、山から降りてくることはありうるが……。だが俺は何年か前に氷霊の討伐隊に参加したんだ。あれは冷気を撒き散らして、そのへん全部を氷漬けにするやつだろう。人間に取り憑くなんて話は聞かなかったぞ」

「ごく稀にあるらしいんだよ。もっと山奥のミストゥッリ地方では、きちんと伝承として語り継がれているんだ」

 テュエンは皆に少し待つよう言い、裏の作業場へ戻った。

 煮立っている大鍋の面倒を見てから、奥の書棚に目当ての紙綴かみとじを探す。ほどなくして『ミストゥッリ地方』と表題のある薄い冊子を手に取ると、カウンターへ戻り、緑色の表紙を全員が読める位置に置いた。

「私は、講学館の図書館に顔を出しづらいからね」苦笑してクルトへ前置きしてから、「しかし、独学で錬金術の研究をするのは難しい。それで他の方法で新しい情報を得られないかと考えたんだ。これは私が知人の渉猟兵イェガーに頼んで、ミストゥッリで集めてもらった伝承を書き留めたものだ。土着の薬や民間療法の言い伝えを中心に聞き込んでもらった」

「へえ、さすがにマメだな。で、その伝承の中に氷霊憑きの話があったと」

「うん。ええと――ああ、ここだ。このページに書いてある」

 クルトだけでなく子供らも、几帳面な文字の書き込まれた紙面を覗きこんだ。字の読めないミルレットのため、クルトは声に出して読みあげた。

「――ミストゥッリ地方において氷霊は〈ヨクル〉と呼ばれる。とくに寒さの厳しい冬、雪の吹き溜まりや凍結した川などに、崩壊した巨大な雪華のような姿で現れ、自身を構成する氷気を発散して消える。

 稀な出来事として、春先に現れる氷気の弱いものは人に憑く。バイデルン村には憑かれた羊飼いの話が語り継がれている。男は三月みつきのあいだ雪と氷を食べたがり、寒さを感じていても日中は山陰を薄着でさまよい続けた。夜は眠りながら歩き、熱のあるものに触れるのをひどく嫌がった」

 記述には続いて『やがて体温を失い、昏睡して死に至った』とあったが、クルトはそこで読むのをやめた。かわりに、どうだ、とミルレットに聞く。

「このとおりか?」

 少女は目を見開いて長身の衛士を見上げ、熱心に何度も頷いた。

「僻地の伝承は迷信も多いんだけれど、これは本当だったようだね」

 テュエンも考え込むように眉をひそめ、

「過密になった精気が凝って元素精霊になるのは自然なことだ。人工的には錬金術でも一般的に行う課程だけれど、通常は単に外部へ力を放出するものが精神に影響を及ぼすというのはよく分からなくてね。しかも憑かれた人は冷気を自ら求めるなんて……。

 でも、そういえば砂漠の風霊は、強大になると擬似的な意思を持つ風魔ジンになる例は聞いている。春先に現れる弱い氷霊も、もとはその類いの強力な精霊だったのかもしれないね。力は弱っても意思は残っていて、出遭った生物の魂や気脈の均衡を崩してしまう、という説明はありうると思う。そして失った力を取り戻そうと、氷霊が冷気を欲していた意思だけが――」

「テュエン」

 クルトに呼ばれて視線を上げると、衛士も少女も似たような渋面でこちらを眺めていた。興味津々の呈なのは一番弟子だけで、レムファクタは師匠の裾を引くと、屈託なげに結論を促してくる。

「師匠、それじゃあ薬は作れますよね? 原因が分かれば大丈夫ですよね」

「ああ、すまない。ええと、それどころかミストゥッリ地方の人々は治療薬を見つけてるんだ」

 おお、と感嘆するクルトの前でページをめくり、紙面を指さす。そこには冊子を整理して書き付けた達筆――テュエンの筆跡――とは別の、強く明瞭な線で描かれた草花の絵があった。

 描線は荒々しくて上手いとは言えないが、大まかな特徴は捉えられ、文字による補足説明も入っている。それだけ別紙に描かれたものを切り取って貼り付けてあるのは、テュエンが情報収集を頼んだ人物のスケッチをそのまま保存したからだ。

「ミストゥッリ地方の人が白鷹草しろたかそうと呼ぶ植物だ。春から夏にかけて咲く白い花を、鷹や鷲がわざわざ空から降りてきて食べるらしい。たぶんそれを見た誰かが薬効に気づいたんだろうね。調合は簡単で誰にでもできる。けれども、ひとつ問題がある」

「ミストゥッリまで山を登らないと手に入らない、か?」

「いや、クルト。実はこの草は雑草で、リシュヌー近辺の野辺にも生えてるんだ。ただ、薬効が高いのは夏につけた花だけらしい。ミストゥッリ地方の人たちは夏に花を摘んでおいて、加工保存したものを薬にしているようだ」

「じゃあ、今咲いてる花は薬にならないの?」

 怯えたようにミルレットが言い、テュエンはすぐに否定した。

「大丈夫、薬にはなるんだよ。けれども効き目が薄いから、とてもたくさん集めないといけない。それに、たくさん飲まないといけない」

「師匠。うちの店の乾燥ハーブには、ありませんでしたっけ……?」

「残念ながらうちには置いていないんだよ。私はこの植物に薬効があると、学府で聞いたことがなかったしね」

「なら、手当たり次第に採集するしかないか。人手は任せろ。心当たりがある」

 腕組みして言ったクルトを、テュエンは「その前に」と片手で制した。

「講学館に貯蔵がないか確かめてみよう。私が知らなかっただけで、リシュヌーの錬金術師には薬草として認知されているかもしれないから。もし融通してもらえたら、今日明日中にでも薬を作れるよ」

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