第45話 仕様



 だが、これだけ見た目が違うのだから、少なくとも同一の効果がある魔道具だとは思わないはずだということだ。


「ではブローチとかカフスとかがあっても、面白かったかも知れませんね?」


「それでもいいんだけどね。今の私達が使うにはダメだと判断しました」


 フレデリックの提案に、シリルは首を振る。


「え? ダメなんですか」


「ええ。この魔道具は、直接肌に触れていないと発動しないものですから……」


 そこから皆で、彼から詳しい通信用魔道具の説明を聞くことになった。


「まず、核となるのはダンジョン産の巨大コウモリ、ビッグバットの魔石らしい」


「あら、もしかして使う魔石はダンジョン産じゃないといけないんですの?」


「そうらしいよ。これが近年まで量産化出来なかった理由らしいんだけどね」


 ヴィヴィアンの疑問に、シリルが答える。




 長年の研究の結果、今まで分からなかったことが色々と分かってきたそうだ。


 その中でも一番の障害となっていた、ダンジョンに入ると通信不良になってしまう原因が解明されたことが大きい。


 今までは、同じような手順で作っても、地上では普通に通信できるのに、ダンジョンの中にはいると突然通信できなくなる……という不良品が大半だった。


「ダンジョンの中だけダメだったんですか」


「そう。稀に成功するのもあったらしいんだけどね。だから職人レベルの差なのではとも言われてきたそうだ」


 そんなわけで冒険者達も、ダンジョン探索用にと高いお金を払ってまで買い求める必要性を感じなかった。


 辺り外れのある通信器具は、全く信用されていなかったのである。




 それが、とある出来事が切っ掛けで、成功への法則が判明したのだという。


 ある冒険者達がダンジョン産のビッグバットの魔石を直接、魔道具職人のところへ持ち込み、通信の魔道具の制作を依頼したことによる。


 彼らはパーティーメンバー内での地上の連絡用にと注文したそうなのだが、冒険者なので当然、ダンジョンの依頼を受けることもある。


 そこで、今まで地上でしかで使えないと思っていた通信器具が、ダンジョン内でも同様に通じることに驚く。


 ひとつふたつならともかく、パーティーメンバー六人全員の通信器具が全て、当たりだとは……そんな偶然はあり得ない。


 そう判断したリーダーが制作を依頼した魔道具職人に話したことで、送受信共にダンジョン産の魔石だけで作ると、ダンジョン内でも地上と同じく通じることが分かったのだ。


 地上とダンジョン内で取れる魔石にそんな違いが出るのは、今のところ通信機器に使う分だけである。


 このことは、当時の魔道具職人たちに衝撃を与えたらしい。




 研究意欲を刺激された職人たちは活発に意見交換を行い、短期間で様々な改良点を見つけ出していく。


 通信距離を伸ばす方法も見つかった。


 その方法とは、これまでとは違う魔石の組み合わせ方のことある。




 この世界の魔石は、内包魔力が高いほど色が濃い。


 そして魔力が高い魔石ほど、高性能の魔道具が作れると言うのが常識だった。


 なので今まではセオリー通り、色の濃い方の上から順に選んで組み合わせ作っていたのだが、それよりも同じ濃度のものを揃えて使う方が、雑音無くきれいに遠くまで送受信出来るということが分かったのである。


 そして、そこに新しく発明された強化の魔方陣を組み合わせて性能を上げる方法の開発も進んで、安定して付与できるまでになる。


 そうしてついに、念願の量産化が可能になったのだという。



「ただ、改良を重ねた今もまだ、ダンジョンの中と外を繋げられるような万能型の通信器具は、出来上がっていないらしいけどね」


「それでも画期的ですわよね?」


 シリルの話を聞いたヴィヴィアンが尋ねる。


「そうだね。これで、ダンジョン内で行方不明になった冒険者を捜索する手段が一つ増えたことになるし……」


「それはとってもいいことですわ。今まで主な捜索は、人海戦術だけだったと聞いておりましたし」


「うん。順調に普及すれば、救われる命も出てくることでしょう。それに、使い方が簡単なのもいい」


「そうなんですの?」


「ええ、そうなんです」


 使い方は通信したい時に、魔道具に直接触れながら自分の魔力を流すだけでいいのだという。


 それだけで、あらかじめ設定したリンク先に声を届ける事が可能だというので、確かに簡単であるとヴィヴィアン達も思った。




「私達の装着するものに、ピアスやブレスレットなど肌に直接触れるのを選んだのは、これが理由かな」


「ああ、成る程。わざわざ触れなくても使えるようにというのは、使用中だと見て直ぐ分からないようにするためでしたか」


 シリルの説明に、フレデリックが納得したように頷いた。


「そうだね。これなら普通に話しているのと変わらないでしょう? 危険を排除出来ると判断しました」


「さすがシリル様ですわ。よく考えられていますのねぇ」


「ええ、本当に。シリル様とご一緒できてよかったですわ」


 リリアンヌとヴィヴィアン、二人の美少女からの心からの賛辞に、普段はあまり動かない表情を少し緩めたシリル。ちょっと嬉しそうだ。





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