第30話 今はまだ栄養食扱いでも……
この泉が「精霊の泉」と呼ばれ、たくさんの個体が集まってくるのには、弱った精霊を癒す不思議な力があることが関係している。
貧弱なものや、力を使いすぎたもの、同じ属性の魔素を長期間吸収出来なかったものが、癒しを求めて集まってくる。
そんな彼らにとって、時折やってくる魔法学院の生徒たち……体内に内包する魔力が人族の中でも多い生徒たちに引かれるのは当然の成り行きなのかもしれない。
精霊が信頼し敬愛するエルフ族の学長が近くにいることに加えて、この事が学院で精霊との契約を交わしやすくしているのだろう。
長く好循環が続いたことで自然と良質な環境が整い、この稀有な場所生まれたのだと考えられる。
ヴィヴィアンに寄ってきている一体も、 精霊の湖の癒しの力を求めてきた個体だったのだろうか。
あいにくここでは、好みの火属性の魔力は思うように吸収できなかったようだ。
弱った個体だったからこそ、彼女の魔力に反応したのかもしれない。
――精霊に気に入られないと契約出来ないにもかかわらず、彼らの好みは不明だ。
運要素の高い契約なので、精霊玉がいつ、幸運値の低い彼女から離れてしまうかと心配でドキドキしていたのたが、今のところ逃げ出す素振りはなかった。魔力の摂取に夢中なっているようだ。良かった。
尚も慎重に火属性のピンクの毛玉に魔力を与えながら、驚かせないようにそっと話しかけては優しくナデナデしていると……ついにヴィヴィアンにもその時が来たっ。
ピカァァァッーー!
フレデリックの時と同様、毛玉が発光する。
精霊から放たれた暖かな光が、一瞬だけ彼女をフワリと優しく包み込んで……。
次の瞬間にはフッ消え、そのときにはもう精霊との契約が成立していた。
まさか、初めての試みでヴィヴィアンまで契約出来るとは思わなかった。
――何度も言うが彼女の幸運値はまだレベル1のままなのである。
頑張ってパーソナルレベルを上げてていっても、幸運値だけはピクリとも動かなくて、これが悪役令嬢仕様かと、日々、シナリオの悪意をヒシヒシと感じていたところだ。
運要素が強く作用するはずの精霊契約で、こんなに早く彼女を受け入れてくれる精霊が見つかるとは……うれしい誤算である。
「ヴィヴィアン嬢、やりましたね! 成功ですよっ」
「……え、ええ。まだ、信じられないですけれど」
「これで破滅フラグの回避に向けて、確実に一歩前進出来たんじゃないですか?」
「そうだといいのですが……」
「きっと大丈夫ですよ。よかったですね」
「はい、ありがとうございます。高い幸運値持ちのフレデリック様が、一緒に居てくださったおかげですわ。
「はははっ。まあ、高い幸運値持ちの者の運は周囲にも作用すると言いますから、多少の影響は否定しませんけど。でも一度で成功したのは、貴女の努力が報われた結果だと思いますよ」
「……そう、でしょうか?」
「はい。その証拠にこれで前進できたのは二度目ですから。魔法学院への転入と、今回の精霊契約と。いずれも、ヴィヴィアン嬢が自ら行動し努力を続けていなければ、出来なかったことです。幸運値レベルは上がってないかもしれませんが、結果は出てる」
「ええ、そうですわね。今回もシナリオの強制力が働いたらどうしようかと思っていましたが大丈夫でしたし」
下位精霊の精霊玉とはいえ、契約を結ぶためには何度も通わなければならないだろうと覚悟をしていたのだ。
「きっと何もせず、流されるまま生きていたら危なかったのかもしれません。確実に未来が変わってきてるんですよ。これは守護精霊にも期待できます」
「そうですわね、希望が持てます。そのためにもまずは、この子との信頼を関係の構築を頑張りますわ」
「その意気ですよ。リリーとの未来の為に、僕も努力します」
先程、無事に契約が成立し、ヴィヴィアンの肩の上に乗った精霊玉からは満足げな気配が伝わってきている。どうやら彼女の魔力で満たされ、機嫌がいいみたいだ。
その様子から、何となく今のところは精霊玉に栄養食扱いされている気はしたが、出会いはそうでもこれから交流を深めて信頼関係を築いていけばいいことだからと、あまり深く考えないことにした。
下位精霊とはいえ、こうして契約できたことで、これからヴィヴィアンの幸運値は少しずつ上昇していくはず。
この世界にラッキーアイテムのような魔道具はないが、精霊がそれにあたるようなものなのだから……。
「本当に、この学院に転入できて良かったですわ」
「ええ、僕もですよ」
魔法学院への転入と、今回の精霊契約と……悪役令嬢絡みでは本来、この二つの出来事が起こるシナリオは無かった。それが運命にあがらった事で発生した。
結果として、こんなに心強い相棒を手に入れることが出来て、破滅フラグ回避の手段を手に出来たのだ。
ヒロインが寵愛されるこの世界は、 悪役令嬢である彼女には生きにくいが、抵抗の仕方が分かって来たことが嬉しくて、気持ちが少し楽になったヴィヴィアンなのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます