第40話 王立学園!



 キタキタキタキタキタ――――――!!!



 いやついに来ましたね、テンション上がるね、これ!?


 だって、スチルを切り取って具現化したらこんなん出来ましたよっ、ていうくらい忠実に再現された豪華な校舎……というか城が目の前に聳えているんだよ。


 生で見れた時には感動もするって!


 ここが夢にまで見た乙女ゲーム『恋の華が咲くまで~学園編~』の舞台、王立学園です!


「うわぁぁっ、ここが舞台かぁ。本物だぁ……素敵過ぎ!」


 入園式に参加する新入生たちが、胸の前で両手を組んでうるうると瞳を潤ませ、感動で震えていたわたしを、訝しげに見ては遠巻きにして通り過ぎて行ったのにも気づかなかったよっ。


 後からちょっとはしゃぎ過ぎたと反省した……。




 王立学園って王家所有の離宮のひとつを改築したもので、貴族街と庶民街の間の賑やかな区間にあるんだよね。


 確か、双方の生徒が通いやすいという立地が良さから学園にしたっていってた。


 広大な敷地内にはこれまた絵になる豪華な学生寮も併設され、通学が困難な遠方の生徒や留学生、貴族が推薦した優秀な平民にも解放されているって設定だったっけ。


 他にもステンドグラスが美しい荘厳な神殿や、南国産の色鮮やかな鳥達が放たれた温室、おしゃれなカフェスペースや、ゆったりと落ち着ける雰囲気の図書館、色とりどりの花が咲き乱れる可愛らしい庭園の数々……。


 そこでイケメン達とのロマンチックな恋愛イベントが……むふふふっ。


 これは後で絶対、あちこち探検しなきゃ!


 見取り図はバッチリ覚えているから迷うこともないと思うしね。


 いやぁ、本物の聖地巡礼だよ!? 実際に体験出来るとは思わなかったよねっ、最高か!




 しっかし間近で見ると迫力あったなぁ……え、ここって城塞なのって感じ!?


 学園を囲んでいる壁も高いしこんなに立派だった? 延々と先までつづいているよ……端が見えない。


 お堀とかまであったんですけどっ。覗いてみたら並々と湛えられた水の下には魚影が映っているし、白鳥みたいな優美なフォルム水鳥も優雅に泳いでた。


 まぁ、どちらも大きさが半端ないんですけどね……いや本当、デカ過ぎだって!



 ――何あれ!?



 遠近感を疑うほど大きさが変なんですけどっ。


 水鳥とか超怖いよ、私と一緒くらいなんじゃない? 絶対、人を背中に乗せて空を飛べそうな勢いだよっ。


 コイサク大好きなわたしも、さすがにあんな細かい背景までは覚えていなかった。




 まあ、それはともかく!


 ちょっとした例外はあるけど憧れの王立学園は広くて綺麗で豪華で、恋する乙女には嬉しいキラキラ仕様だったってことです、うん!


 でもさ、こんな雰囲気のある場所で大好きな攻略対象たちとキャッキャウフフしながら学園生活を過ごす訳でしょ? ……あれこれ想像してたら……フフフッ、もう堪んないよねぇ? わたしにとっての攻略対象って、アイドルみたいなものだから。今から実物に会えるんだよね……ううっ、ドキドキするっ。



 普段はあまり考えないんだけど、この世界へ転生したのって前世で何もいいことなかったわたしへの神様からのプレゼントじゃないかなって。


 だってほら、誰からも愛されるヒロインキャラに生まれ変わっているでしょ?


 せっかくだし、めいっぱい楽しんでやろうと思ってるんだけど……。




 大人気だった乙女ゲーム……『恋の華が咲くまで~学園編~』、通称コイサクは全年齢対象のゲームで、いろんな攻略対象と様々なシチュエーションで恋人になるまでの過程を楽しむってやつだった。


 今のわたしの年齢は(中の人の年齢はともかく)十三歳。


 十八禁ばりの、いやん~ばかん~うふんな展開にはならないはず……なんだけど。


 でも、ね? 今は未成年だし無理だけど、この世界では十五歳で成人だし、せっかく可愛く生まれ変わったんだからもっと楽しみたいじゃん? 


 例えば夕暮れ時の教室で攻略対象のイケメンと二人きりになっちゃって、甘い雰囲気になって。


 そ、そ、そのまま勢いで流されちゃったりする事なんかも……あったりなんかしちゃうかもしれないじゃんっ、ね!?


「……キャッ、やだぁ。どうしよっ、もしそんなことになったら……」


 思わず胸がキュンキュンしてときめきが振り切れそうになったけど。


 真剣に悩んで……いやいやいや、ダメじゃん自分って気がついた。


 だってわたしはもう、この世界のヒロインなんだから。


 きちんと愛されキャラを演じなきゃっ。


 ゲームのヒロインはそれはもう純真無垢で天真爛漫な女の子、そんな俗っぽいこと考えてなさそうなキラキラ具合だった。


 そうだそうだ、浮かれ過ぎてストーリーから逸脱しないように気をつけなきゃいけないんだった。


「はぁ、好きすぎてまた妄想が暴走しちゃった……」


 次々に妄想が広がって、ついポロッと口からこぼれちゃうんだよね。正気に返ったとき、気恥ずかしくて身悶えそうになるくせについやっちゃう。


 ちょっと反省……と言うかこのところテンション上がりっぱなしで毎日反省している気がする……気をつけなきゃ……ショボン。


「よしっ、まずはヒロインになりきろう! そして頑張ってイケメン達を攻略して、今世こそ充実した学園生活を送るぞ――!!」



 その為にはまず、攻略の予習をしなきゃね!





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る