第15話 今度は貴方ですか……



 結論から言うと、自主欠席や遅刻の言い訳とかは全く必要なかった……。


 魔法学院の先生方は自らの研究に没頭するタイプが多いらしく、生徒の動向に無関心だったのだ。

 学びたければ、そっちから積極的に教わりに来いよというスタイルで、学ぶ気がない学生にはそもそも興味がない……放置されるだけなんだとか。ここの卒業が厳しいといわれている理由が少し、わかった気がする。




 というわけで、その日は時間が許す限り、気になる科目があると各教授の部屋へと突撃し、一年間の授業参加資格をもぎ取るという行為を繰り返すことになった。


 二人とも上位貴族出身で個別の家庭教師に教わっていた内容が高度だったこともあり、初日の問答だけで進級資格をくれた教授もいたのには驚いた。しかしでそのおかげで一年目は比較的、自由時間が取れそうだった。


 と言うのも、進級にはポイント制が導入されており、必要な点数を一年間の内に教授陣から獲得出来れば進級資格を満たせるからだ。


 授業内容がより専門的になる来年以降はこうはいかないだろうが、少しでも早く守護精霊と契約しておきたいという目的があるヴィヴィアンにとって、これは嬉しい誤算だった。




 予想よりも案外平和で余裕を持って迎えることが出来た、その日の放課後……。


 寮の門限までにはまだ少し暇があったので、自由時間を有効的に生かすためにも早速、冒険者登録を済ませておこうかということになった。



「へぇ……ヴィヴィアン嬢が冒険者登録をされるのですか?」


「ええ、そうなんですの。守護精霊との契約を確実にするためにも、レベル上げをしたいと思いまして」



 この国では冒険者登録自体は十歳からできるらしい。


 初めは街中のお使いや薬草採取、弱い魔物退治くらいしかできないらしいから、稼ぎは無いようなものだけど、魔法学院の生徒には平民や下級貴族の子弟など、金銭的に余裕のない者が一定数いる。

 聞くところによると、魔法学院の入学費用を稼ぐために、登録できる年齢になったら即、冒険者登録をしてバリバリ稼いでいる生徒もいるようだ。


 弱い魔物でも倒せるようになると確実にパーソナルレベルが上がって強くいなれるしお金も稼げるんだから、多少の危険はあれど、結構美味しい仕事といえるだろう。


 その彼らに比べればスタートダッシュで遅れているのだ。一日も無駄にできない。


 それを聞いたフレデリック様が感心したように頷いた。


「あぁ、成る程。合理的ですしいい考えですね。僕も魔物退治はしようと思っていたんですが、冒険者ギルドに登録することまでは考えていませんでした。あの、よろしければ僕も、ご一緒させていただいていいですか?」


「ええ、それは構いませんが……リリアンヌ様にはきちんと了解を取ってくださいませね!」


「わ、分かってますよ、はい。今度こそ、大丈夫ですから!」


 ……本当かしら?




 そうして少しの不安と共に、フレデリック様と連れ立って冒険者ギルドへと来たわけですが……。


「久し振りだね、ヴィヴィアン嬢」


「……っ!?」


 冒険者ギルドの前には、氷の魔王様が降臨なさっていたのでした……。


 どうしてあなた様がこちらに……冒険者ギルドの前にいらっしゃるのですかシリル様!?


「お、お久し振りですわ、シリル様。本日は、このような場所で何を?」


「うん、それは私のセリフですよね? それにフレデリック、君に会うのも久しぶりだね」


「あ、はい。お久しぶりです。シリル様」


 ワタワタと挨拶を返すわたくし達を、銀フレームの細い眼鏡をクイッと軽く押し上げ、じっと視線を合わせて観察してくる。


 眼鏡男子は結構好みなんですけれども、この凍えそうな視線はいけません。若干周りの空気が冷たくなったのは気のせい……ではないでしょうね。その視線で見つめられますと、昔から落ち着かないのですわ……ゾワゾワします。



 これは、シリル様も誤解が……と、解けてなさそう……ですわ?





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