第3話

 エルトール伯爵領。

 私が転生してきた事を自覚した翌年にフレベルト王国は、大飢饉に見舞われた。

 エルトール伯爵領も飢饉に見舞われ、多額の借金を抱えた。

 飢饉から4年が経過した今でも借金返済に追われている。


 出費を減らすために多くの使用人を解雇した。

 残っているのは50歳を過ぎて再就職先が難しい家令のセバスさんと、メイド長のアリエルさんだけ。

 給金も減ったため二人には、お父様からエルトール伯爵家の邸宅内に部屋を宛がわれて住み込みで仕事をしてもらっている。

 食事の時間も一緒。

 人手が少ないから私も配膳の手伝いをする。

 所謂、家族同然の付き合いというやつだけど、貴族のような格式ばった生活よりもいい。

 配膳が終わったあと、お母様を呼びにいくのも私の仕事だ。


「お母様、夕食の用意が出来ました」


 椅子に座って妹を抱いているお母様は、「わかったわ」と、答えてくる。

 妹のセリーナは、お母様に抱かれて寝ていてまるで天使のよう。

 お母様譲りの金髪。

 そして鼻筋が通った顔。

 将来は美人になると思う。

 それに比べて私は、お父様にもお母様にも似ていない。

 黒い瞳に黒い髪と日本人の特徴を色濃く残している。

 そう言った特徴からも自分が本来生まれてくるはずであったシャルロットという存在を奪ってしまったと思ってしまうには十分であった。

 

「セリーナは?」

「今、飲んで寝たところよ? もう、夕食の時間なのね」

「はい。お部屋に持ってくる?」


 どう見ても、お母様の顔色は良いとは思えない。

 部屋で食事を取った方がいいかも知れない。


「お願いできるかしら?」


 頷き食堂に戻る。


「アリエルさん」

「シャルロット様? どうかしたのですか?」

「お母様は、食事をお部屋で摂るそうです」


 体調が悪いときのお母様を一人にしておく訳にもいかない。

 一緒に食事をした方がいいと思いアリエルさんに提案すると、すぐに二人分の食事を用意してくれる。


「本当に、私が持っていかなくて大丈夫ですか?」

「うん。このくらいなら一人で運べるから」


 トレイに乗せられた食事を部屋に運んで、お母様と食事をしていると。


 ――コンコン


 扉を開けて入ってきたのはお父様であった。


「じつはな……、縁談が決まりそうなのだ」

「縁談ですか? どこかの親戚が結婚でもされるのですか?」


 エルトール伯爵家は、借金がたくさんあるけど長い歴史があり由緒正しい貴族の系譜を持っている。

 そのため、親戚は結構多かったりする。

 ただ借金がたくさんあるから、ドレスなどを用意できないから社交界デビューもしていないし、お茶会を開くことも無い。

 それが逆に、私にとって平民らしい生活を満喫させてくれている。

 ただし! 親戚が結婚するなら、ドレスを着て祝わないとさすがに問題になってしまう。


「じつはな、レインハルト公爵家から話が来たのだよ」

「そうなのですか? でも、レインハルト公爵家って……、エルトール伯爵家と親戚関係ではなかったような……、それなら無理して出なくても――」

「何か勘違いしているようだが、シャルロット宛にレインハルト公爵家当主から縁談の話がきたのだよ」

「――え? 私にですか?」


 思わず口元に当てていたスプーンを口で咥えてしまっていた。

 そんな私の様子を見ながらお父様が口を開く。


「……ああ。シャルロットが15歳になったらと……」


 気まずそうに話をしているお父様に 「レインハルト公爵家って国内でも有数の大貴族ですわよね?」と、強めの口調でお母様がお父様に話かけた。


「そうだ。その当主が……」

「待ってください! レインハルト公爵家の当主は、40歳を超えている男性であったはずです。まだ10歳のシャルロットを、そんなところに嫁がせるのはどういうことですか!」

「いや……、その……」


 普段は怒らないお母様が、お父様を怒鳴りつけている。

 それにしても縁談が来るなんてまるで貴族みたい。

 ああ、忘れていたけど一応、私は貴族だった……。

 でも、さすがに40歳過ぎの男性の下に嫁ぐのは嫌だと思う。


「もしかして借金の代わりではないでしょうね?」


 お母様の追及に、お父様の体が一瞬萎縮したのを私は見逃さなかった。

 どうやら本当に借金の形に嫁がされることになったみたい。

 

 


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