異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~
なつめ猫
第一章
第1話
三日月に近い形をしているエルリード大陸の南西に位置するフレベルト王国。
その辺境に位置するエルトール伯爵領は春を迎えていた。
「お母様、たくさんの花が咲いています!」
少女の声が、草原に響き渡る。
周囲は見渡す限り、膝まで伸びる草花で埋め尽くされており少女の興味を引くには十分であった。
「シャルロット。あまり早く走っては駄目よ?」
「はい! お母様」
女性の言葉に、シャルロットと呼ばれた少女は元気よく返事をすると草原の中を走っていると、少女は突然、前のめりに倒れる。
「シャルロット!?」
少女の母親が慌てて走り寄る。
母親が少女を抱き上げて額に手を当てたところで顔色が変わる。
先ほどまで元気に走り回っていたのに、少女は高熱を発していたから。
「ルーズベルト! シャルロットが!」
「どうかしたのか?」
女性に名前を呼ばれた灰色の髪が特徴の男性が走ってくるなり、少女を見て顔色を変える。
「貴方、シャルロットがすごい熱なの」
「すぐに、館に戻ろう」
男性は、少女を抱き抱えると女性と共に草原を後にした。
神無月朱音(かんなづきあかね)は、ごく普通の家庭に生まれて妹が産まれた後も、ごく普通に暮らし成長していった。
ただ、一つ普通とは違うのは運が悪いという事であった。
遠足や球技会や運動会などと言ったイベントでは、彼女が参加すると必ずと言っていいほど雨に降られた。
中学卒業後、高校に入学してからの初めての夏休みに家族で旅行に行った際、彼女が乗る車は、唐突に振り出した雨で崩落した土砂崩れに巻き込まれた。
「ここは……」
気がつけば私は、何もない白い空間に立っていた。
周囲も天井も床も全てが白い。
自分が、どこにいるのか分からないが、幸い自分の体には異常はないようで、痛いところは無い。
「あっ!?」
私は、自分が土砂崩れに巻き込まれた事を思い出した。
「……と、言うことは……、ここは……あの世?」
最後に見た光景は、大量の土砂が車を側面から襲ってきた場面で、それを最後にして私の記憶は途切れていた。
どう考えても死んだと考えるのが妥当だろう。
「意識が戻ったようですね。神無月朱音さん」
振り向くと、そこには20歳前後の女性が立っていた。
「あの……、ここは……」
「ここは、境界と呼ばれる場所です」
「境界?」
「分かりやすく説明致しますと、貴女が住んでいた世界と、あの世の狭間になります」
「え……。それでは、まだ私は死んでは居ないということですか?」
「ええ。貴女は死んでいませんし死ぬという予定もありません」
「そうですか。良かった」
女性の言葉に胸をなでおろす。
それと同時に、女性の言葉に違和感を覚えた。
「えっと、私が死ぬ予定は無いと言うのは分かりましたが、それならどうしてこんな場所に私は居るのでしょうか? それと貴女は?」
「そうですね。自己紹介をしておきましょう。私の名前はメルルと言います。貴女にお願いがありましてここに導いたのです」
「お願いですか?」
「はい。神無月朱音さん、異世界に転生しては頂けないでしょうか?」
「転生って……、私は死んでいないって……、それなら転生する理由は無いのでは?」
死んだ後に転生するなら分かるけど、そうじゃないなら転生する理由は無いと思う。
生憎、そこまで悪い人生を送ってきているつもりは無いし。
「神無月朱音さん、貴女は不幸体質なのは理解していますか?」
「不幸体質って……、雨が降るくらいですよね?」
「今までは、そうだったかも知れませんが、今回の件が発端となりもっと酷くなっていきます」
「それって、どういうことですか?」
「今、貴女の両親と妹さんは命の危険に晒されていますと言えばご理解頂けますか?」
「それって私の不幸体質と関係があるのですか?」
「はい。貴女が不幸に見舞われる度に、周囲も巻き込まれるのです。今回は、貴女の家族が巻き込まれてしまいました」
「……つまり、私が生存を望んだら両親や妹は死んでしまうということですか?」
「ええ、そうなります。そして、これからもそれは続くでしょう。無闇に被害が出るのは管理者側としても困ってしまいますので被害が小さい内に異世界への転生を薦めているのです。異世界で転生することで不幸体質も改善されますから」
彼女の言葉が本当か嘘かを見抜く術を私は持っていない。
だけど、不思議と嘘はついていないように思えた。
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