閑話 踏み出せない一歩


(緊張するなぁ。)


私は珍しく教室のドアの前で緊張していた。


(おかしくないよね?)


私は髪を切っていた。もともと肩にかかるぐらいだった髪をかなりバッサリと切った。いわゆるショートボブだ。


髪を切ったのにはもちろん理由がある。と言っても単純なもので気持ちを切り替えるためだ。


夏祭りの日に私はユウくんと別れた。別れを告げた時のユウくんの顔はとても切なげな表情で正直あの時、かなり罪悪感があった。でも私は別れを告げたんだ。別れを告げたからにはいい加減ユウくんのことを考えてないで前に進まないといけない。そんな気持ちもあって私は髪を切ることにした。


「よしっ。」


教室の扉を開けて中に入る。


するといつもより多くの視線が飛んできた。周囲を見てみれば驚いている人が多かった。そんなに意外だったのだろうか?でも特に否定的な表情の人は見られなかったので良かった。


「うっ。」


ここまでは大丈夫だった。でも自分の席に近づくにつれて心臓の鼓動が早くなるのを感じた。


私の席の隣には、いつも授業で気だるげそうな大城君がいた。いやそれだけなら良かった。


(恥ずかしい。)


彼はこっちをずっと見ていた。その視線に特に邪な感情は見えたりしなかった。もしかして見惚れてるのかなと一瞬思ったりしたがそんな考えなんてすぐに吹き飛ぶほどに私の余裕はなかった。


大城君のことを改めて意識するようになってからなんだが私はおかしい。大城君のことを考えるだけで胸はドキドキするし、今も見られているだけでなんだかすごく緊張するのだ。今すぐにでも顔をそらしい気持ちになってしまうが私にはやるべきことがある。


そう、挨拶だ。


おはよう、こんにちは、こんばんわ。


日本人の誰もが日常的に使う言葉であり、日常的に行う動作だ。いや、日本人以外でも世界中で行われるものだ。初対面の人でも大事にするし、仲のいい人ならなおさら挨拶というものは大事にするだろう。一日の始まりは挨拶から始まると言っても過言ではない。少なくとも私はそう思っている。


そんなわけだが私は大城君に目すら合わせていない。大城君を視界にはいれているが意識的に合わせていなかった。ただ目を合わせるの恥ずかしいだけなんだけども。


もうすぐ私の席だ。大城君は私の数少ない異性の友人だ。挨拶しておいたほうがいいだろう。でも私にはとてもじゃないができる気がしなかった。


(どうしよう。)


私は軽くパニックに陥っていた。案だけ教室の前で準備していたのにもかかわらず頭の中は真っ白だ。大城君に嫌われたくないのは当然だし、むしろ好きになってほしい。そんなことを考えていたせいだろうか。


「あっ。」


思わず出てしまった声。だがそれはとても小さなものでだれの耳にも入っていないだろう。私はごく普通に自分の席に座ってしまっていた。席に座る前が挨拶するチャンスだったにもかかわらず私は席に座ってしまった。


ばれないように様子をうかがっているもののものすごく切り出しずらい。


たった4文字の言葉。それだけにも関わらず私は切り出すことができていなかった。ユウくんに別れを告げた時の私の勇気はどこに行ってしまったのだろうか。


いや、黒川紗帆。あなたならできる。そうに違いない。


こんなことに躓いていたら私は前に進めない。勇気を出して――。


そんな時だった。


「おい、席につけ。」


ドアを開けて私たちの担任の先生が入ってきた。こうなるともう駄目だ。本当にチャンスを逃してしまった。大城君も前を向いて先生の話を聞いていた。


(私こんなので大丈夫なのかな。)


挨拶もできない自分自身のふがいなさに早くも心が折れそうだった。


******


一応生きています。全然書けてなくて申し訳ないです。

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