第19話 さらばとり飯よ永遠に

陰鬱な授業も終わり、とうとう迎えたお昼ごはんの時間。


俺のテンションはもちろんマックス。待ちかねたとり飯を食う時間だったからだ。この日のために家から魔法瓶の弁当を持ってくるほどだった。いざ実食というタイミングでやつが来た。


「なんだ智也?さすがのおまえにも俺のとり飯はやらんぞ?」


「いやそうじゃない。」


速攻でとり飯否定をかます智也の表情にはどこか影があった。なんかあったのだろうか?


「雄大。中庭に来てほしいらしい。」


「はぁ?」


俺がこんなあきれた声を出すのもおかしくはない。中庭は、校舎に囲まれている。要するにどこからでも中庭の様子が見られるということだ。ただそれなら別にいいんだ。


中庭は、別名リア充の聖地とも言われている。その名の通りあそこにはリア充しかいない。カップル同士でイチャイチャする様子を見せられてしまい闘志を燃やす男子や逆にきゃぴきゃぴと騒ぐ女子がいたりなどと色々と騒がしい。そんな地獄のような場所になぜ俺のような一般モブ生徒が行かなきゃならんのだ。


「誰だそんなことを言ってるやつは!?」


「理恵と黒川だ。」


「あーーーーーーーー。」


納得してしまった。あの二人なら余裕であの死地でも生きられるだろう。どちらも容姿はトップクラスの美少女だ。少なくともこの学校でもこの二人に匹敵するような人材はほとんどいないだろう。そんなところに俺なんかいったらどうなるだろうか?


明日生きているかどうかも怪しいだろう。智也も容姿は優れていると思うので俺だけに攻撃が集中するような気がする。そもそもほかの男子を寄せ付けないことで有名な黒川のそばに彼女もちでもない俺が近寄るだけでいやな予感しかしない。トイレにでも逃げようか。


「逃げるなよ?たとえ地の果てだろうと俺は追いかけるぞ。」


心でも読めるのかこいつ?動揺を必死に押し殺し、ダメもとで聞いてみることにする。


「俺に拒否権は?」


「あると思うか?」


ハイ即答で返事が返ってきました。ある意味予想通りです。


笑顔でにっこりとしているはずなのに目が怖いです。智也サン。これは相当脅しを入れられたのだろう。何が何でも俺を連れてくるようにと…。じゃないとこんな怖い顔を智也がするはずがない。どうしてこんなことになったんだ。モールで一緒に遊んだせいなのか…。


「おとなしく行きますよ。」


「あ、ちょっと待て。」


観念した俺は、おとなしく行くことにする。弁当箱を持って教室を出ようとする俺を呼び止める智也。

いったいこれ以上何があるというのだろうか?


「弁当は持っていかなくていいそうだ。」


「どういうこと…ハッ!?」


いつの間にか俺の弁当が智也に奪い取られ机に残されてしまった。俺の手元には愛用している500mlの水筒しか残ってない。手はがっちりと智也に押さえつけられている。これでは俺の弁当をとることなどできない。


「というわけで行くぞー。」


「そんな…。」


俺の抵抗むなしく智也はずんずんと中庭へと俺を引き連れて向かう。

さらば俺のとり飯よ…。来世でまた会おう。

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