第39話 空も飛べるともっとよかったのだけれど――それ船じゃないよ
電話がかかってきた。ミカンちゃんからだ。そうだ、合流することになってたんだ。忘れてた。
「もしもし」
『いまどこ?』
「カボチャの船の上」
『船でどこか行くの?』
「えっと、ニヨンというところに城を見に行くんだ」
『わたしも行く』
「やっぱり?でも、船でちゃうよ?じゃあ、ニヨンで」
『ウソ。薄情ものー。待っててよー』
「ぼくに船を待たせることなんてできないから、無理」
『わかった。ホテルに荷物おいてからにする』
「そうだね、それがいいよ。奥田で予約して、チェックインしてあるし、ミカンちゃんが遅れてくるっていってあるから」
『わかった』
「じゃあ、ニヨンで」
やれやれ、女の子の機嫌を損ねるとやっかいだから気をつかう。でも、ちゃんと今日ジュネーブにこられるんだな、感心した。
カボチャの船は途中で沈没することなく、ぼくたちはニヨンに到着した。きっと魔法の力のおかげだ。
「カボチャの船の乗り心地はいかがでしたか?」
「すこし硬かったかしら」
お尻をさすっている。
「イチゴちゃんは?」
「空も飛べるともっとよかったのだけれど」
「それ船じゃないよ」
「魔法の船だから飛んでもいいと思う」
「なるほど、参考になります。ミカンちゃんが来ることになったんだけど、どこかで待ってあげる?それとも先にお城見ちゃう?」
「待ってあげよ?一緒にお城を見たほうが楽しいと思う」
イチゴちゃんとミカンちゃんは相性がいいらしい。
「ミカンくるのが遅いから待たなくちゃいけなくなるのよ。ちゃんと朝きてればよかったのに」
カナは厳しい。
「よし、どこかでジュース飲んで待とうか」
佐々木さんとガイドブックを見て検討する。やっと出番だ。船着き場から見える高台に白い建物があって、あれがお城なんだけど、まだ教えない方がよさそうということで黙っておく。船着き場からぐるっと右の旧市街をまわりこんで駅側からアプローチするのがよさそうだった。
カフェに席を占めて大人はカフェオレ、子供はオレンジジュースを飲む。ところどころに筆で薄く描いたような雲がかかってるけど、空は晴れている。のどかな秋空だ。
「明日は飛行機に乗って日本に帰るけど、カナはどこが一番楽しかった?」
「サンタのおじいさん」
「え?おじいさんが楽しかったの?」
「そうよ?背がおっきくてね、肩にのると巨人にのってるみたいなの」
「そうか、スイス関係ないね」
「なにをいっているの?スイスにきたからおじいさんに会えたのよ?人との出会いも旅の楽しみのひとつでしょう?」
「そうだね。その通りだよ、カナ」
頭をなでる。ぼくも肩車してあげたんだけどな。
「お城はどうかな。お城が一番になるかな、サンタのおじいさんが一番を守り切るかな」
「お手並み拝見ね」
テーブルに落ちる影が濃くなった。ぼくのとなりに人が立ったせいらしい。日傘をさしたミカンちゃんだ。うしろに沙希さんも立っていた。イスを引き寄せて沙希さんがすわる。カメラバッグを足元におろして、フェリーでミカンちゃんに会ったといった。
「やあ、ミカンちゃん。ようやく合流できたね」
「奥田の薄情ものー」
「だって、船に乗ったあとだったんだよ」
「カナちゃん、イチゴちゃん」
ミカンちゃんは日傘をたたんだ。ごきげんようと言って、カナとイチゴちゃんがスカートを広げて挨拶する。ミカンちゃんも二人に同じようにして挨拶する。これはミカンちゃんが娘たちに教えたものらしい。ふたりは女の子としての英才教育をほどこされている。
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