第17話 女同士で戦うんじゃなくて、奥田さんと戦いたいというか。わたしを好きになってもらいたい、です
「ということは、あれですか。はじめからぼくと付き合いたいと思って、山口は話しかけてきたってこと?」
「はい、奥田さんのことを狙っていたので話しかけてきたと言いました」
「それなのに、三年も好きっていわずに一緒にいたんですか?」
「まあ、そうです。ほかにもっといい物件があらわれたら、そっちにいけばいいわけです。付き合ってないんだから遠慮はいりません。それに、奥田さんに悪い虫がつかないように見張っていれば安心だったのでしょう。自分からアプローチなんてできない意気地なしですから。山口さんにとって大変都合のいい物件だったわけです、奥田さんは。って、わたし話しすぎました」
ぼくにはいまいち納得がいかない。
「あの、萌さんは。萌さんも含めてなにか裏があるみたいにいいましたけど?」
「もちろんです」
「それはどういう」
「企業秘密です」
「ヒントは?」
「なぜ奥田さんと萌さんは付き合わなかったか」
「はあ?そんな話にはなりませんよね」
「さあ」
「だって、青木さんが好きだったんですよ?」
「誰もそれだけとは思ってませんよ。山口さんだって、萌さんのこと言っていたんでしょう?」
「うーん、どっちが大事かっていわれました」
「つまり、山口さんは、萌さんを悪い虫だと、自分のものを奪う気にちがいないと考えていたわけです。女なら誰だってそう思います」
「はあ」
「わかりませんか?」
「わかりません」
「青木さんと関係ないところで、富士山に行ったり、横浜で会ったりしていたのでしょう?必要なら山口さんから奪えると思ったでしょうね。ほったらかしにされた山口さんの方から奥田さんをフルかもしれなかった」
「萌さんが、ぼくと?」
うなづく。ウソだ。そんな計算でみんな生きているわけじゃない。これは小説じゃなくて現実なんだ。人の話を聞いて判断しているから、こんな小説のような話になってしまうんだ。
「青木さんは賢い人です。女の戦略も見えていたようです。萌さんの相談に乗っていたと知って、マズいことだといっていたのでしょう?山口さんに告白するのが第一だと。時すでに遅しだったわけですけど」
それじゃあ、なにが起こっているかわかっていなかったのは、ぼくだけってこと?まだ、萌さんが一時ぼくと付き合おうとして、でも結局付き合わなかった理由はわからないけど。
「すみません。いい過ぎました。忘れてください」
「女の戦いに参戦しているんですか?」
「わたしは、そういうのが苦手で。だから、奥田さんにもちらっと話してしまうわけです。女同士で戦うんじゃなくて、奥田さんと戦いたいというか。わたしを好きになってもらいたい、です」
恥ずかしそうだ。これも戦いのうち?ぼくには効き目があるみたいだ。いとおしく感じる。
そろそろ出かける準備をする時間だ。ぼくは防寒対策をしてカメラバッグに三脚を担ぐ。頭にはヘッドライト。二人で外に出る。穏やかだ。雪を踏む音が大きく感じられる。昼間のうちに見つけておいた撮影スポットを目指す。集落はライトアップされている。ロマンチックというのだろう。ぼくには、照明されたものがロマンチックだとは感じられないけど。
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