第8話


 ギルドについた私たちは、すぐにギルド職員に声をかけた。


「いらっしゃいませ。どのような御用でしょうか?」

「人を探しているんです。……スキルを持っている」


 私はレイアント王から渡されていた王の封蝋の入った手紙を見せる。

 これは私たちが仕事関係で施設を利用したい場合に使用できるものだ。

 彼女はそれを見てから、こくりと頷いて私たちを奥の部屋へと案内してくれた。


「改めまして、私はレーンと申します。……それでどのような人を探しているのでしょうか?」

「……あまり情報はないのですが、男性で、拳で戦うSランクに近い冒険者の情報はありませんか?」

「……男性はともかく、拳で戦うSランク冒険者、ですか?」

「はい。詳細は話せませんが、私はその男性の戦闘を目撃しました。拳で戦い、私たちに匹敵するほどの実力を持っている方です」

「……」


 レーンさんは考えるように顎に手をやる。


「ぱっとは思いつきませんね。……少なくとも、うちのギルドの利用者に拳で戦う人はいませんね」

「……そう、ですか」

「とりあえず、拳で攻撃するスキルを所持している冒険者と、王都で活動中の高ランク冒険者をリストアップします。少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

「お願いいます」

「一時間ほどかかると思いますが、こちらにいますか? それとも、一度外に出ますか?」

「こちらで待たせてもらってもいいですか?」

「かしこまりました。それでは、失礼いたします」


 レーンさんはそういって部屋を去っていった。


「ギルド職員がすぐに出てこない冒険者……本当にいるの?」


 アクフィアが不安そうにしていた。

 ……確かに私も同じだった。

 レーンさんが、『私たちに匹敵するほどの実力』と聞いた瞬間凄く驚いていた。

 ……つまり、この王都に私たちに匹敵するほどの実力者はかなり少ないのか、あるいはいないのかもしれない。


 まあ本気で稼ぎたい冒険者はあまり王都には来ない。

 王都は、基本的に安全で高難度の依頼が来ないからだ。

 高ランク冒険者は王都から特に離れた場所で活動するのが一般的だ。

 そういった場所では、騎士の数が少なく、魔物の脅威にされされていることが多い。


 町や領主と専属で契約を結ぶ冒険者も少なくはない。

 私たちのように王との契約で仕事をするようなもの。……私たちの契約は一時的なものでしかないんですけどね。 


「わかりませんが、その道のプロに聞くしかありません」

「……分かった」


 ふうと私は息を吐いていると、用意されていたお茶菓子をぽりぽりと食べて満足そうにしていたヒレンと目があった。


「このお茶菓子おいしいわよ! ほら、二人も食べないと! 全部食べちゃうわよ!」

「能天気……」

「焦っても仕方ないじゃない! 一時間後に結果わかるんだから! ほら、二人とも食べるといいわ!」


 笑顔でそういったヒレンに、私たちは顔を見合わせる。


「……ヒレンは時々、正しいことを言う」


 アクフィアはお菓子を口に運び、私も同じように手に取った。



 〇



 一時間が経過して、リストアップされた資料を渡された。


「手書きでいくらか行いましたので読みにくい部分はあるかもしれませんが、大丈夫ですか?」

「……ええ、大丈夫です……。それにしてもこれを一時間で?」


 紙一枚にずらりと記された冒険者の一覧に、私は目を見開くしかなかった。

 数はおおよそ百近い。


 大きく三つに区分されていて、一つは拳関係のスキルを所持している者、もう一つは素手で敵を倒したことがある冒険者(ただし、レーンが聞いた話を参考に書いたものだそうだ)、最後は高ランク冒険者だ。

 冒険者によっては泊まっている宿についても書かれている。……正直いって一時間で終わる作業ではない。


「私は、高速作業、並列処理のスキルを所持しています。戦闘には向いていませんが、こういう事務仕事は得意なんですよ」

 

 ふふっと微笑んだ。

 ……確かに、その二つがあれば職に困ることはないですね。


「……ただ、そこに注意書きをしました通り、素手で魔物を倒したことがある者に関しては信憑性は薄いのであまりアテにはしないでください」

「いえ、助かりました。ありがとうございます」

「こちらこそ。今後も時間を見つけて調べていきます。情報も集めておきますので、何かありましたらお伝えします」

「……はい、ご協力感謝します。早速、この冒険者たちに声をかけてみたいと思います」

「私も、依頼を受けに来た際に伝えておきます。少し用事がある、とでも言っておけばだいたいの冒険者は待ってくれますしね」

「感謝します」

 

 すっと頭を下げてから私たちはギルドを後にした。


「とりあえず、二手に別れましょう。私とアクフィアでこのリストにある冒険者に声をかけていきます」

「わかったわ! あたしはどうすればいいの!?」

「……とりあえずは、現場周辺で聞き込みをしてくれませんか? もしかしたら昨日の戦闘の目撃者がいるかもしれませんから」

「わかったわ! それじゃあ行ってくるわね!」

「あっ、ヒレン! 昨日の今日です。なるべく大通り以外は一人で歩かないこと、また暗くなる前にギルドに戻ってきてください」

「わかっているわ! それじゃあまたあとでね!」


 ……本当は三人それぞれで活動がしたかったが、私はそこまで力が強くない。

 リストにある高ランク冒険者に会う場合、力づくで押さえ込まれた場合抵抗できない可能性がある。

 だから、私はアクフィアと共に行動する必要があった。


「アクフィア、行きましょうか」

「うん。見つかればいいけど」

「……そうですね」


 私たちは、リストにある冒険者たちに手あたり次第声をかけていった。



 〇 



 ギルドでヒレンと合流した私は、にこにこのヒレンに状況を聞いた。


「まったく見つからなかったわ! けど、猫ちゃんが可愛かったのよ!」

「……猫ちゃん?」


 アクフィアがぴくりと眉尻をあげた。


「野良猫と仲の良い人がいてね! その人に猫を触らせてもらったのよ! 可愛かったわ!」

「……まったく。ヒレンももう少し真面目に探して」

「探したのー! 聞き込みしたけど、まったくそういう人がいなかったのよ!」


 アクフィアは小さくため息をついたが、私たちの結果もあまりよろしくなかった。

 ……冒険者たちに声をかけたが、皆知らない、あるいは教えてほしかったらか、体で払えとか何とか。

 ふざけた相手はすべてアクフィアがボコしてくれたけど、とにかく疲れた一日だった……。



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