インタビュー・ウィズ・ソーサラー【適合者シリーズ1】

東江とーゆ

第1話 無価値な記事

チャールズ・フォードと名のる年老いたアングロサクソンへのインタビューをまとめた、この記事には何の意味もなければ価値もない。

これは老人の世迷言でしかない無価値な言葉の羅列に過ぎない。


だから読者にとって何か意味や価値がある記事とは、著者のわたしでさえ到底思えないのだ。

ただ、その老人にとっては読者にそう思わせることこそが狙いであり望みなのだという。


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今は亡き古物蒐集趣味の父親の知り合いで、古物商を営む男がいた。仮に木村としておこう。

木村は買付けのため、英国に行く機会が頻繁で、知己も多かった。

そんな木村が、現地同業者の紹介でチャールズ・フォードという老人と知り合う。

チャールズは、ある条件に該当する日本人を探しており、木村は老人にわたしを紹介したのだ。


その条件は『英語ができない日本人で、無名の作家』アマチュアなら尚良い。


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チャールズの依頼は、自分とのインタビューの記事を執筆すること、発表は任意。

チャールズは日本語が堪能だった、恐らく他の言語も話せただろう。

老人の話し方には、高い教養と威厳が感じられ常に口調は理性的だった、優秀な教育者や指導者が長年の鍛錬によって獲得する精神性、柔和さと尊大さの両立を適度に保つ意思が感じられた。


記事にはチャールズの名前以外に、この老人を特定できる内容、つまり老人の容姿、職業や具体的な肩書き、彼の邸宅の場所や外見、インタビューの場所や日時などの情報は書いてはいけない約束になっている。

ただし日時は書くことはできないが、2006年にインタビューを行ったことは明記して良いと了承を得ているので、読者が時系列を把握できるように記しておく。

また日本に嫁いだ娘の名前『アリス』や、その夫や息子『山村年男と聡太郎』の名前、その家族が暮らしていた地域地名も書いて良いと了承された。


記事は10年以上前のものであり、今更ながら記事を発表しようと考えた理由は、わたしが自分の才能や文章力、発想力や独創性に限界を感じ、今年を最後に同人作家としての活動にピリオドを打つことを決めたからで、やや自棄気味な動機による。


作品供養というほど大それたことでもないが、過去に書いた作品をどのような形でもかまわないから発表しようと考えた次第だ。

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