第6話 生意気な後輩



 カフェ『フラヌール』についた。

 ここが、俺のアルバイト先である。

 おしゃれな造りをしているお店には、主婦層の人が今の時間は多くみられた。


 小さく息を吐きながら、俺は店へと入った。

 ……店は結構人気らしい。いつもたくさん人が入ってくるし、なんでもこの辺りではそこそこ有名だ。


 ……なんでも、学生は容姿を重視して雇っている部分もあるらしく、俺のような


 テラス含めて、座席は50席ほどある。

 夕方17時で、席の半分ほどが埋まっているのだから、なかなかの賑わいであった。


 これから学生や、仕事終わりの人でさらに増えると予想できる。

 キッチン担当の二人に挨拶をしながら、俺は奥へと向かう。


「あっ、先輩来ましたね」


 で、出やがった……っ!

 男子更衣室前で待っていたのは二枝二葉(ふたえふたば)だ。

 俺がもっとも苦手としている後輩だ。


 彼女がにこっと微笑みながらこちらへとやってくる。


「……着替えが終わったのなら、交代しなくていいのか?」

「17時半からですから。その前に交代したって時給でませんし」

「……まあ、そうだけど」


 俺は警戒しながら歩いていると、二枝が俺とともに更衣室へと入ってきた。


「いや、ここ男子更衣室なんだけど……」

「先輩、髪と眼鏡」

「……いや、自分でセットするから」

「へたくそじゃないですか。私がやりますよ」


 そういって二枝が俺を姿見の前まで連れて行って、すぐに髪を整えた。

 それから、眼鏡をとってきて、二枝がにこっと微笑んだ。


「あは、完璧ですね!」

「……ありがとな、いつも」

「いいですよ。先輩こうしないと本当オタクっぽいというか、陰キャっぽいというか……けど、ちょっと変えるだけで別人ですよね。というか、この眼鏡がダサすぎるんですよ。もうちょっといい眼鏡なんてたくさんあるじゃないですか」

「……別に、視力を矯正できればなんだっていいだろ?」

「はぁ……これだから陰キャオタクは――」

「おい」


 そ、そこまで言わなくていいだろっ。

 ……ずばずばいうから二枝は嫌いで、苦手だ。


「いいですか? 眼鏡っていうのもオシャレの道具なんです。伊達メガネってあるでしょ?」


 眼鏡がおしゃれって……。それはあくまで二枝が眼鏡が好きなだけだろう。

 俺はまったくもって、眼鏡がおしゃれになるとは思っていない。

 だって、だいたいの眼鏡つけているヒロインって、眼鏡外したほうが可愛いからな。


 今ホールで仕事をしている気の良い主婦たちと、俺たちは入れ替わるように勤務に入る。

 だいたい主婦や、手の空いている大学生が昼に仕事し、俺たちは閉店である20時まで、それから閉店作業で20時30分くらいまで仕事をすることが多かった。


「はいはい。……ていうか、そろそろ着替えたいから出て行ってくれないか?」

「別に下着になるだけですよね? 気にしないでください」

「……えぇ」


 それ見られる側が言う言葉ではないのだろうか?

 いや、でもまあ男女だと色々と違うのだろうか。


 俺はズボンと上を緊張しながら脱ぐ。……別に妹に見られるようなものだろう。気にしない、気にしない。


 ……じろーっとみられている気がしたが、俺は無視して上下を着替えた。

 カフェの制服に袖を通した後、少し乱れた髪を二枝が整えてくれた。


「よし、これでいいですね」

「……ありがとな」

「いえいえー」

 

 ひらひらと二枝が手を振り、俺たちは更衣室を出た。

 勤務に入るために、店のほうへと向かう。

 と、ちょうど入れ替わりの時間ということもあって、先輩の佐藤さんがこちらへとやってきた。

 

 爽やか陽キャ全開の先輩だ。……俺は初め、滅茶苦茶この人が苦手だったのだが……この人は北崎と違い、真の陽キャだ。


「おっ、来たねー長谷部くん、二枝ちゃん。それじゃ、オレはここまで、特に引き継ぎ事項はないから、あとヨロシクー」

「あっ、はい、わかりました」


 俺の肩をとんと叩いて店の奥へと消えていった。

 特に仕事が残っていないというのは本当らしいな。ちょうど、お客の出入りも落ち着いているようで、店内で動きがあるまでは仕事はなさそうだった。


「佐藤先輩、本当かっこいいですよねー」

「……そうだな。俺もあのくらいになれたら、接客ももっと緊張しないで済むんだろうけどな……」

「ぷっ、いやいや佐藤先輩とは生まれが違いますよ生まれが。無理無理」

「う、うるさい……少しでも近づけたらって思ってるだけだ」


 容姿は無理だとわかっているが、性格的な部分でだ。


「いやいや、あんまり無理しなくていいですよ? 一輝先輩は今の地味ーなオタクっぽい感じでいいです!」


 ……俺を馬鹿にしやがって。まあ、それも仕方ないと言えば仕方ないんだけどな。


 と、ちょうどお客が帰るところだった。

 俺と二枝は言葉一つかわさず、すぐに役割分担をする。


 俺がレジに行き、二枝が後片付けだ。

 俺がレジの対応をして、「ありがとうございましたー」と頭を下げていると……ちょうど、店に知っている人が入ってきた。

 げっ、八雲たちだ!


 八雲を含めた四人グループが入ってきて、俺は驚いていた。


「お客様、四名様でしょうか?」

「は、はいっ」

 

 先頭にいた、確か比奈だったか? が驚いた様子で声をあげた。

 ……そりゃあ、そうか。俺がこんな店でアルバイトしているなんて思わないだろう。


 というか、こんなおしゃれなお店に俺は似合わないからな……。武蔵先生もなんて店を紹介してくれたんだか。


 というか、オーナーもどうして俺を雇ってくれたんだろうな。

 そんなことを考えながら、俺はそのまま、彼女らを席へと案内した。

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