第2話 ブラコン妹


 今日も地獄のような一日を乗り切った俺は、家へと戻ってきていた。

 家に帰ると、良い匂いが部屋に充満していた。

 ……すでに妹――芽衣(めい)が帰宅しているようだ。


 ……憂鬱である。

 俺は妹ともあまり仲が良くなかった。

 はっきりとした理由は分からないがいくつか思い当たる節はある。


 玄関で靴を脱いでいると、芽衣がやってきた。


「兄さん、おかえりなさい」


 今日もひどく冷たい表情である。


「……ああ、ただいま。夕食は?」

「今作っています」


 ……別に急かすつもりで言ったわけではなかったが、芽衣にはそう取られてしまったようだ。

 少しむっとしたような顔になった気がする。


 両親は仕事で、家にいない。

 俺と芽衣は高校生になり、父が単身赴任するというときに母がついていったのだ。

 だから、今この家にいるのは俺と芽衣だけだ。


 芽衣はそれからすぐにキッチンへと戻った。

 俺は階段をあがり、部屋へと入る。


 ……相変わらず芽衣との仲は悪い。

 いくつか考えられる原因は……この部屋にあるライトノベルなどがそうかもしれない。

 

 俺と芽衣は血のつながらない兄妹。もちろん、俺は本当の妹だと思い接しているが……血がつながっていないというのが問題なのだ。

 俺はライトノベルやギャルゲーなど、そういったものがわりと好きだ。

 学校では微塵もその様子は見せないようにしているが、なぜか俺はオタクとして知れ渡っているんだよな。まあ北崎たちが適当に言っているだけなんだろうが。


 事実だから否定もできないんだが……いやまあ今はいいか。

 とにかく、俺はラノベとかギャルゲーとか漫画とかアニメとか……だいたいオタクが好みそうなものはすべて好きだった。


 ただし、空気を読まずどこにもそれを見せびらかすようなことはしていない。

 学校では一切そういったものが見えるようにはしていない。話題だってしない。だって友達いないし。

 

 そして、そういったものには必ずといっていいほど妹ヒロインがいる。

 なんなら、タイトルでヒロインが妹ですといわんばかりのものもたくさんある。

 ……俺の部屋にもそんなものがあり、芽衣にいらぬ警戒を与えてしまったのかもしれない。

 

 ――こいつ、私を狙っているんじゃないか?

 とかそんなことを芽衣は考えてしまっているかもしれない。

 ……あー、くそ。リアルと二次元を一緒になんかするわけない。第一、芽衣は俺にとって大切な妹なんだからな。


 スマホを弄っていると、ラインが届いた。相手は芽衣から。

 夕食が出来たそうなので、俺は部屋を出て一階へと向かう。


「兄さん、手は洗いましたか?」

「ああ」

「それならいいです。それでは、いただきます」

「……いただきます」

「料理、どうですか?」

「……ああ、おいしいな」

「そうですか、それは良かったです」


 淡々とした芽衣の言葉に、俺は頷くしかない。

 学校ではクラスメートたちに絡まれて落ち着かず、家でも芽衣に嫌われているので落ち着けない。

 俺の安寧は一体どこにあるんだろうな。


 食事を終えた後、俺はいつもの日課のジョギングに向かうことにした。

 家にいると息苦しいからな。

 体を鍛えるのは好きだ。体を動かしている間は、何も難しいことは考えなくて済むからな……。



 〇



『……芽衣、聞いてくれ。実はおまえと一輝(かずき)は……血がつながっていないんだ』


 父の言葉に私は驚いていた。

 私と、兄さんが血がつながっていない?

 私は自分の血液型を知らなかったが、あるきっかけで知ることになった。

 それが、本来両親から生まれるものではなく、まあ思春期だった私はそれを凄い気にしてしまった。

 

 だから、両親に問い詰めたら……そんな答えが返ってきた。

 詳しい話を聞くと、父の弟が事故にあってしまい、弟とその妻がなくなってしまったらしい。引き取り先を検討しているとき、今の両親が申し出てくれたらしいのだ。

 結構な事実を聞かされた私は……けど、そんなことよりも気になることがあった。

 

「なら兄さんと結婚できるの?」

「えッ?」

「兄さんと結婚してもいいの?」

「い、いや……まあ、その……法律的には問題ないが……」

「そっか。それならよかった」


 それだけ聞ければ十分だった。

 両親は凄い驚いていたようだったけど、私にとって大事なのはそこだけだ。

 

 私は自分の部屋に入り、こっそり隠し取りしていた兄さんの写真をひとしきり眺めてから、ベッドで横になる。

 ――今日も兄さんはかっこよかった。

 ――兄さん、今日もおいしそうにご飯を食べてくれた。


 そう思うと胸が温かくなる。

 私は兄さんを思いながら、私はお風呂の準備をしに浴室へと向かう。

 兄さんは風呂が好きで、真夏寸前まで入っていることが多い。


 私も風呂は好きだ。兄さんのダシが出た後のお風呂が。

 

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