5−3「休憩室の5人」

休憩室に入って僕は驚いた。


そこは、色とりどりのソファが並び、壁いっぱいに今流行の漫画や小説の詰まった本棚やテレビにパソコン、グラスやカップに各種お酒に色とりどりのドリンクバーなど娯楽室と言っても差し支えないほどの充実した部屋となっていた。


そして、ここに来て初めて気づいたこと。

…僕らの前にすでに5人の先客が来ていた。


のんびりとスマートフォンをいじる指輪をいくつもはめたコート姿の老人。

どこかピリピリとした雰囲気で酒を飲む若い男。

困った様子でダンボール箱を持ってソファにちぢこまる配達員の青年。

座ろうともせず、リュックを背負いボロボロの手帳と地図を読むメガネの男。

そして室内なのにサングラスをつけたバイクスーツに黒ズボンの女性は手に取った漫画をパラパラとめくり再び本棚に戻していた。


主任は彼らのあいだをつかつかと進むとテーブルに乗せられた、瑞々しい果物の盛り付けられた皿の横を通り抜け、まっすぐドリンクサーバーへと向かい果汁たっぷりの100%オレンジジュースを注ぐとそれを一気飲みした。


「プッハー!やっぱ生き返るわあ!今まで喋れなくって辛かったー。小菅くん、君も好きなの飲みなさい。この部屋の中なら自由にしゃべってもいいし。」


そう言ってドリンクサーバーで全混ぜを勧めてくる主任をやんわりと断り、僕は教会オススメドリンクとポップがついたミントティーをいただくことにした。


「うっわ、小菅くん。もっと冒険しないと。」


そう愚痴を言いつつ、主任は僕を一番壁の隅のソファへ座るように促す。


「さて、こっから先は私たちは客として中を回るんだけど、今までよりも教会側の注意もうるさくなるからちょっと面倒になるわ。私たちがするのは今後の契約継続に関するハンコ押し、あと領収書と今年度のカタログ入手。ハンコと領収書は私が担当するから小菅くんはカタログ係で。それと、私が促したら、小菅くんもちゃんと同じ動作をするように…いいわね?」


そこまで聞いて、僕は主任の言葉に疑問を持つ。

(…あれ?必要な物資の注文は?)


すると主任は僕らのスマホをトントンと叩いた。


「この中に暗号化された注文票がシステム管理部から送られてきているの。教会側の端末を差し込むことによって請求書が発行されて管理部は即日必要な代金を教会の口座に振り込む。物資の運送は教会側が送料込みでしてくれるから、私たちは年度ごとに更新される契約書にハンコを押して領収書とカタログをもらって帰ってくるだけなの。」


(…なんだ、そんなに難しい仕事じゃないのか。)


そう思った時、先ほどまでイライラしていた男が指輪をした老人の足にぶつかり、片手にグラスを持ちながら彼に突っかかる。


「おい、何ぃ足出して座ってんだよ。そんな偉そうな図体して威張り散らしてんじゃねえぞ、もっとそこの兄ちゃんみたいに縮こまって座ってんならわかるけどよお。人様の迷惑になるようなことすんなよ?」


そう言われて、ソファに小さくなっていた配達のお兄さんがさらに小さくなる。

すると、恰幅の良い老人が「ホッホ」と笑った。


「そんなにカッカしなさんな。どうせお前さんもこの聖地に何らかの啓示で来ているんだろう?まあ、私は選ばれし人間として、受け取るべきものを受け取ろうときているのだから何も怒ることではないさ。」


するとイライラしていた男は「はあ!?」と余計に詰め寄る。

そこにメガネの男が割り込んだ。


「よさないか、ここで争ってもこの先のポイントを乗り切れないぞ。冷静に周囲の状況を見極め、適切な対応で攻略しない限りここに眠るアーティファクトを手にすることは叶わない…この場で何人犠牲になったか君達は知っているのか?」


サングラスの女性は何も言わないが、よく見ると本を読むふりをしながら手元にあるテープレコーダーを回しておりスマートフォンを使って英語で書かれた報告書にさらに追記をしているのが見えるし、主任はこの非常時に呑気に部屋の人数を数えている。


「1、2、3、4、5…うんうん、シミの人数とちょうど一致する。」


そこに、耐えきれなくなったのか配達員のお兄さんが泣きそうな声を上げた。


「どうしよう、この人たち何を言っているかわからない…」


僕はこの状況を見て、さらにちぢこまるお兄さんに激しく同情した。

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