1−4「事後説明」

ジェームズと呼ばれた、どこからどう見ても日本人の男性が女性清掃員を連れて行くと、指導員の女性はうーんと伸びをしてから開けてもいない缶コーヒーをポケットにしまって歩き出す。


「78番倉庫にしまってある『甲の248番』は通称、えんの糸車と呼ばれていてね、どういうものかは具体的に言えないけど対象となる人間の願望に近い縁を引き寄せてくれるの。あの子は才能はあるけど縁がなくてオーディションに受からずバイトで食いつないでいたようだし、願望の強度に対して効果も比例するから運が良ければ一月以内に縁ができて受かるんじゃないかしら?」


彼女の説明に理解できない僕に「ついて来て」という指導員。


「死亡者は通常は50適用で、重傷者には30、小岩井ちゃんはおまけで10ってとこかな?あ、これ1あたり100万円ってことだから。もちろん治療費別の明後日退職で同日口座に振り込まれる。結構、補償が効いてるでしょう?」


(人が死んでいるのだから、もっと手続きとかいろいろあるだろうに…)そんなことを思いながらもやってきたのは3階にある総務課で彼女は受付に話しかけると名札と一台のスマートフォンを受け取り、僕に手渡す。


「はい、君の社員証と社内用のスマホ。これで正式に社員となったわけだ。これから、私のことはと呼んでくれればいいから。社員証の名前だって認識操作がされていて本名じゃないし、コードネームは嫌いだし。」


(そういえばこの人、会ったときから一度も名乗っていない気がする。)僕は、言われてからようやく主任の名札をじっと見るが、どうも名前がぼやけて読めない気がする。と、彼女がケラケラ笑いだした。


「だから認識操作されているんだって。もちろん、他の場所に行くと適当な名前に認識されるけどね。今の時計はお昼だけど今日はここで解散。明日の集合場所は夕方ごろにスマホにメールで連絡が行くし…さて、ここまでで何か質問は?」


そう言って、にこやかに笑う主任さん。

屈託なく笑う彼女に対し僕は初めて疑問を口にした。


「あの、どうして僕を雇おうと思ったんですか?」


主任さんはそれを聞くと笑っていた目をうっすらと開ける。


「…へえ、今そういうことを聞く?」

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