第4話
「……熊とかいないよな?」
ケイはもしものことを想像しながら、発見した洞窟の奥を恐る恐る覗いた。
熊の姿はないようなので、ケイはそのまま中を確認した。
ぱっと見で奥行き5m、横幅1m半、高さは2mといったくらいだろうか。
「拠点はここでいいとして、明日からのことを考えないと……」
そういってケイは魔法の指輪から木の棒と、漁に使うような網、小さい釘を取り出した。
持っている食料はじゃがいものみ、しかも今後を考えるとそれに手を出すのは躊躇われる。
そうなってくると、
「釣りっきゃないっしょ!」
すぐ側が海なのだから思いつくのはこれだった。
直接海に入って銛で突くことも考えたが、海の中にも魔物が存在しているかもしれない。
それを考えると銛は駄目だ。
なので、釣りをすることにしていたケイは、服を乾かすための焚火に使う木を集めていた時、海岸に流れ着いていた流木の中から釣竿にできそうな木と、同じく流れ着いたであろう穴の開いた漁の網、それと、木に打ちつけてあった小さめの釘を見つけて魔法の指輪の中に入れておいた。
「よし! 作ろう!」
洞窟の前に座り、ケイは拾ってきた物たちを細工し始めた。
ナイフで木を削り、網を解いて一本の紐になるようにしたり、釘を石でコツコツ叩いて針のように形を変えていった。
大工の息子というのがあるからなのか、ケイは手先が器用である。
こういったチマチマした作業も嫌いではない。
「できた!! うぅ、それにしても寒いな……」
しばらく無言で作業をしたおかげか、結構早く作り終えた。
作業をしているうちに日も暮れ始め、少しずつ寒くなって来た。
「……え? 南半球?」
この場所でもついてすぐに焚火をしていたのだが、それでもちょっと寒い。
それが気になっていたら、アンヘルの記憶が浮かんできた。
現在この世界は、ケイが前世で溺れたのと同じ8月。
にしては気温がおかしいと思っていたが、どうやらここは南半球らしい。
「……寝たら死ぬんじゃね?」
南半球なら8月の季節は冬。
9月ぐらいから暖かくなりだすとはいっても、あと1か月は寒いまま。
そんな中、毛布も何もない状況で洞窟内で寝たら、凍死する恐れがある。
「どうしよう…………っ!? 魔法か!?」
そのことを悩んでいたが、すぐに答えが出た。
単純に魔法で洞窟内を改造すれば問題はなくなる。
小説でよくありがちな、エルフは魔法が得意な人種というのはこの世界でも同じらしく、焚火を着火した時のようにアンヘルも魔法が使える。
ならばそれを利用しない手はない。
「…………あっ!? できた?」
試しに土魔法で洞窟の内部の形を変化させてみたら、少しずつ形が変わっていった。
予想以上に簡単にできたため、ちょっと感動が薄かった。
もしかしたらアンヘルの記憶があるからだろうか。
それはともかくとして、ケイは洞窟の内部を変化させていった。
といっても、寝る場所の床を平らにしたのと、寝ている時の寒さを改善するため、奥に暖炉を作っただけだ。
「入り口も塞いだ方が良いかな?」
海を漂流して疲労した体のことを考えるともうすぐに眠りたいが、この世界には魔物が存在する。
寝てる最中にパクリとされたら話にならない。
そう考えたケイは入口も塞ぐことにした。
「これでいいかな」
ちょっと時間はかかったが、なんとか入口を塞げた。
当然ながら、完全には塞がず空気を入れ替える用の小さな隙間は作ってある。
「あ~ぁ、もう疲れた。寝よ……」
5歳の体では体力がないのも当然。
魔法を使ったのもあって疲れたケイは、日が暮れて間もない時間だが、もう寝ることにした。
◆◆◆◆◆
「……う~ん? 今何時だ?」
起きたはいいが、入り口を塞いでいたせいで光もあまり入ってこないため、外の状況が分からない。
そもそも、時計は持っていないので時間が分からない。
ケイは入り口を開け、周囲を警戒すると太陽の位置を確認した。
「釣りに行こ」
南半球なので北にある太陽を見ると、まだ東側にあるようなので午前中なのは予想できた。
魔法で出した水で濡らした布で顔を拭いて目を覚ますと、昨日作った釣竿を魔法の指輪に収納し、丘下の海岸に向かって坂を下り始めた。
道中は、魔物や人間が現れないか注意しつつも、そこら辺の石をどかして釣りの餌になりそうな虫を捕まえながら進んだ。
慎重に行動したため、海岸に着くのにだいぶ時間がかかった。
8月なのに冬なのでたいした数の虫は見つからなかったが、とりあえず半日は釣りができそうな分は確保できた。
「始めるか……」
少し海にせり出た岩場で糸を垂らし、ケイは釣りを始めた。
海面まで2mほどの高さの軽い崖のような場所にすわり、脚をぶらぶらさせながらかかるのを待つ。
流木は結構な量拾って魔法の指輪に収納しておいたので、体を冷やさないように焚火をするのは忘れない。
「やった! ……っ!?」
結構雑なつくりの竿だが、釣りはまあまあ順調な釣果だった。
しかし、5匹めの魚を釣り上げ喜んでいると、ケイはあること気付いて言葉を失った。
ケイのすぐ近くに小さい黒い渦のようなものが空中に出現していたからだ。
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