10-2

 フロラドルは、僕を真っ直ぐと見据え言った。


 「ツエルと君との関係とは何だ?」


 それは、わかっていて聞いているんだよね?


 「………」


 「このままだと彼は、ツエルだろうとなかろうと罰せられるだろう。奴隷リングが彼に着いていたその確証がほしい」


 「え?」


 「お人好しの君がただの人助けでそれをした。という事だと証拠がない。奴隷リングは、物証としてあがってないからな。だから確実にあったという確かな証拠が欲しい」


 『なるほどね』


 なるほどねって……。

 どういう意味だとチラッとラスを見た。


 『このままだとツエルは、奴隷リングをつけていなかった事にされるってことよ。そりゃそうよ。火を消そうとして死んだ事になっているんだもの。なぜそうしたか。奴隷の存在を隠す為。あなたが本当に助け出していたとしても、その腕には今はそのリングはない。弱いのよ。奴隷だったという証拠としては。ただ炎から助け出した事されるって事よ。このままツエルが生きているとなれば、逆にすべての罪を押し付けられるって事でしょうね』


 お兄ちゃんを助け出すのは目標だった。今の状況じゃ助け出した事にならないって事だよね。


 「兄です。奴隷リングには、本当の名前が表示されていたんです。でも小さい頃の記憶を消されていて僕の事を覚えていません。たぶん自分の本当の名前も知らないと思います」


 「ありがとう。それが聞きたかった。よかった。二人共無事で」


 「お父さんと知り合いだったのですか?」


 「あぁ。仕事上の付き合いがあった。まさかあんな事があるなんてな。調べようとしたけど無理だった。だから今回の領主逮捕は転機だと思った。ところが君が捕まったと聞いてな。今の所、誰が敵かわからないから二人で話をしたかった」


 よかった。この人は味方みたい。


 『あなたに何をさせる気かしらね?』


 え? 味方じゃないの?


 「お願いがある」


 「お願い?」


 「ツエルの様に奴隷リングを着けられている者がまだいるはずなんだ。だが、我々では暴けない」


 『私を使って暴けって事かしらね?』


 え? 奴隷リングを着けている人を探せって事?


 「一人でも奴隷リングを着けたまま捕らえる事が出来れば、ツエルに奴隷リングが着いていた事が証明できる。そして、君の兄としてやり直せる」


 「え? 本当に?」


 『待って! 話に乗る気? 危険よ。あなたはまだ、力をつけていない』


 「本当だとも。ただしツエルはこの領土で暮らすことにはなるがな」


 「その力って何? 権力? 腕力? 魔力? 僕が時間を掛ければ本当に手に入れられる? 権力なら今目の前にある」


 『でも危機に陥った時に、助けてくれるかどうかわからないわ!』


 「うん。でもチャンスは今だと思う。今まで通りラスが助けてくれればいいよ」


 『……わかったわ。でもリスクが高いのよ。もし成功してもすぐにバックの組織を捕まえるのは不可能よ。その存在が明るみになるだけ。しかもそれによって、ずっとあなたは狙われるわ』


 「わかってるよ。どっちにしてもお兄ちゃんが生きていると知られれば、二人共狙われる。だったら保護してくれると言っているんだから保護してもらおうよ」


 『保護してくれるのは、ツエルの方でしょう? あなたは、前線に出されるのよ?』


 「それでも、お願い。敵の相手でもあるんだから……」


 『マグドーラ様の……そうね。でもあなたの命が優先よ』


 「うん。ありがとう!」


 「決まったようだな」


 「でも連れて来たとして、誰が調べるんですか?」


 「そのリングのランクはわかるか?」


 「ランク?」


 『Sよ』


 「あ、そういえば、そうだね。Sです」


 「Sか。それなら彼で大丈夫だろう。あぁ、そういえばSで思い出した。オウギモンガを連れていたな」


 紅葉だ。すかり忘れていた……。


 「驚いたよ。君達は、そのオウギモンガの眷属になっているようだな」


 「え……なんで」


 『Sランクのあの男が鑑定してわかったんでしょう』


 「紅葉をどうしたんですか?」


 「紅葉……そういえば、少女がそう呼んでいたそうだが。オウギモンガは、今も少女の側だよ。首輪のせいなのか、取り上げようとすると、具合が悪くなるようでな。危害を加えてこないようだしそのままだ」


 僕は、安堵する。


 「行くならそのオウギモンガも連れて行くといいだろう。眷属の君を守ってくれる」


 守るって……攻撃系の魔法とかなさそうだけど。まあ確かに守ってくれようとしてくれてはいるみたい。


 「紅葉は、彼女達の側に置いておきたいのですが」


 僕より、彼女達を守ってほしい。


 「牢に居る限り、逆に安全だ。今はな」


 『そうね。着いて来るようなら連れて行きましょう。連絡係としていいかもしれないわ。レンカとサツナに、連絡を取る事が出来る』


 「そっか。だったらそうしよう。紅葉も連れて行きます」


 フロラドルさんは頷いた。



 自分が歩く音が反響している。そこに僕の絶叫も響き渡った……。


 「ぎゃ~……って、紅葉やめて! 心臓に悪い!」


 僕が来た事に気がついた紅葉が、スーッと牢から出て来て僕の頭の上に着地した。


 『もう慣れなさいよ。笑われているわよ』


 ハッとして前を見ると、兵士が声を殺して笑っている。

 う……。超はずかしい。

 僕は、頭から降ろした紅葉を抱っこする。


 『ここからでれりゅの?』


 「うーん。僕だけね。ねえ、一緒に着いて来てくれない?」


 『いいよ』


 「ありがとう。あ、少しだけ彼女達ともお話をしたいのですが……」


 兵士がいいと頷いた。


 「レンカ……」


 「スラゼお兄ちゃん……」


 「大丈夫? 僕が違うって証明してくるからね」


 「え? 大丈夫?」


 「うん。大丈夫。大人しく待っていて」


 レンカは、頷いた。


 「紅葉~」


 サツナの声が聞こえる。


 「サツナ。紅葉は大丈夫だよ」


 「スラゼお兄ちゃん……」


 サツナの方は泣いた様で、目が赤い。


 「サツナ大丈夫?」


 「うん。私どうなるの?」


 「大丈夫。君が火をつけてない事を証明してくるから。紅葉を連れて行くけどいいかな?」


 サツナは、こくんと頷いた。


 『しょうめいちてくるからまってって!』


 わかっているのか、わかっていないのか、わからないけど紅葉もそう言った。


 「おい、スラゼ!」


 アーズラッドだ。


 「お前一人で何をするつもりだ?」


 「ちょっとした取引をしたんだ。大丈夫」


 「大丈夫って。勝てる訳ないだろう? あのカリルさんを殺した相手だぞ!」


 「うん。もし万が一の事があったら二人をお願いね」


 「何言ってるんだお前!」


 「無事に戻ってこれたらみんなで冒険をしようね」


 「なんで、そうなるんだよ……。俺も一緒に行く! なあ、いいだろう? 自分の身の潔白を証明したいんだ!!」


 「世の中、お金だよ。アーズラッド。ないなら大人しくしている事だな」


 え? フロラドルさん。来たんだ。


 「なんだよそれ!」


 「世間一般論だよ。君だけを優遇出来ないという事だ。それに死にに行くようなものだろう?」


 「それならスラゼだって同じだ! 彼を巻き込んだのは俺なんだ。逃げないから! 俺だって、スラゼが死んだら目覚めが悪いんだ!」


 『彼も守るとなると、大変なんだけどね……』


 ひゅ~っと、紅葉が、僕の手からアーズラッドの頭の上に飛んで行った。アーズラッドは、ビクッとして固まった。


 「おい……これ、何?」


 『キミもまもる』


 「え? 声が聞こえる!?」


 「ほう。結構簡単に眷属するようだな」


 アーズラッドが驚いた声を上げると、フロラドルさんが呟いた。


 「え? 眷属!?」


 『しちゃったみたいね。私が大変だと言ったからかしら? あまり変わらない気もするけど……』


 「眷属になっても建前上、保釈金という物が必要だ」


 「なんだよそれ! お金は後払いするから……」


 「だからそれではダメなんだ。君は、立派な生き証人。何かあればこちらも困る」


 「スラゼを俺達で脅しているんだろう? 卑怯者!」


 「それは違うよ。アーズラッドを巻き込んだのは僕なんだ。ごめん……」


 「そう言うならここから出せよ! 俺も連れて行け!」


 そう言われても……。


 『諦めが悪いわね。まあ気持ちはわからないでもないけど』


 そうだ。お金!

 僕は、風呂敷を床に開いた。

 何だと周りの人は注目している。

 鞄から、金貨貯金箱を取り出した。


 『まさかそれあげる気? いくら入っていると思っているのよ!』


 「金貨、千枚」


 ちょうど貯まったんだ。だから開くはず。

 かぼ。


 「何? 突然入れ物が現れた!?」


 フロラドルさんが驚いている。そうだった。これ、他の人には見えない様になっているんだった。


 「これ、金貨貯金箱なんです」


 ザーッと、貯金箱の中身をふろしきの上に出していく。


 「おい、それ、おかしくないか?」


 アーズラッドが呟いた。

 見た目より金貨が出て来ている。入りきらないはずの金貨がふろしきの上に山積みになった。


 「さすが、スラゼと言ったところか。それを保釈金にするつもりか? 一体いくらある?」


 「だから金貨千枚です」


 「金貨千枚だと!?」


 「はぁ? なんでお前がそんな大金持っているんだよ!」


 「ミミミラス保存袋の収益だからちゃんとしたお金だよ」


 「本気なのか? それを持っているなら従うふりして逃げだす事も出来ただろうに」


 「僕は、みんなを助けたいんです。できればこれで、みんなを保釈して下さい。連れて行く事はしませんけど、せめて宿に……」


 『もう、何の為に貯めたのよ』


 「目的がなかったからいいんだよ」


 「お前、お人好しすぎる! 他人の為に千枚ってあり得ないだろう!」


 出せと言っていたアーズラッドが叫んだ。

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