4-4

 「紅葉をペットとして飼うなら首輪を付けた方がいいよ。出来れば取れないやつ。万が一連れ去れても君達のだと証明できるからね」


 「え……」


 何を言うのかと思ったらアドバイスだった……。ガクッと肩の力が抜けた。


 「ねえ、それで相談なんだけど」


 「うん? そ、相談?」


 こくんとルイテットさんが頷く。僕は、ごくちりと唾を飲み込んだ。


 「これから四人で一緒に、Eランクの依頼受けてやらない?」


 「な、なんで?」


 どうしていきなりそんな事?


 「君、本当は……」


 本当は何? 二人がいつの間にか僕にギュッとつかまっていた。


 「Eランクになりたくて俺の依頼受けたんだよね? でも今回は誰でもだからランクづけないんだ。だからEランクにはなれないけど、一緒に行けばEランクになれるよ」


 「なぜそこまでしてくれるの?」


 「その腕輪だよ。君、本当は魔法系からっきしだろう? 杖はカモフラージュ。腕輪はそれなりにいいものだ。けど杖は、一番安いのだよね、それ」


 うわぁ。バレちゃったよ。

 ラスの言う通り、見てわかる人にはわかるんだ。どうしよう。


 「君が使える魔法は、サーチと感知なんだろう? 君の役割は敵の場所の把握。彼女達がモンスターを倒していたんじゃないのかな?」


 うん? どういう事?


 『うふふふ。うまい事勘違いしたみたいねぇ』


 全然わかんないけど? ちらっと、見るとラスが頷いた。


 『普通パーティーを組む時には役割があったりするのよ。前線で戦ったり援護したり回復したり。彼は、レンカとサツナが前線で戦って、有利に戦闘が出来る様に、スラゼが敵の位置を把握して奇襲をかけていたと思っているのよ』


 「なんでまたそんな風に?」


 ボソッと僕は聞いた。


 『まずさっき敵がいるのに気がついていた点と、二人の武器がいいからでしょうね』


 「まあ、芋のお礼ね」


 「お礼?」


 そんなに珍しい物だったのか。それを紅葉は食べちゃったと……。


 「俺さ、錬金術にはまちゃって。採取のついでだから。あ、Eランクのを倒せなんて言わないよ。全部俺が倒すから大丈夫。でも、感知でモンスターを察知してくれると助かる」


 『いんじゃない? 三人いっぺんにEランクに上がれるって事でしょう?』


 「では、お願いします」


 こうして僕達は、冒険者協会で依頼を受けて四人でサイサイの丘へと向かった。



 サイサイの丘。そこには、Eランクのモンスター『サイサイ』いるらしい。そこの丘の中腹辺りまで登った。

 サイサイの三体の討伐。それが今回の依頼内容だ。


 『あぁ左にいるわね』


 「左にいます」


 「OK」


 ラスに僕にも感知が見える様にしてもらった。敵がいる場所は赤っぽく光っている。僕にはある程度近づかないと見えないけどね。


 「あそこら辺です」


 僕が指差すと、ルイテットさんは頷く。そしてそっと近づいて行く。サイサイが気づいた気配ない。

 って、ルイテットさんの姿も奥に消えて見えなくなった。


 『ぐわぁ~』


 僕達は、モンスターが上げた声にビクッと体を震わす。


 「た、倒したのかな?」


 レンカが呟く。


 『まずいわね。今の雄たけびで数体のサイサイが向かって来ているわ』


 「え? 伝えないと! 行くよ」


 「あ、待って」


 レンカ達が慌てて僕についてくる。


 「今の雄たけびで他のサイサイが近づいて来てます!」


 「うお、ビックリした。どっち?」


 びっくりしたのはこっちだ。サイサイは、無残にも解体されていた!


 「「キャー」」


 それを見た二人が悲鳴を上げた。


 『正面から来るわ! 五体! いざとなったら私も援護するわね』


 僕はうなずいた。


 「向こうから五体来ます!」


 「わかった。君達はそこに隠れていて」


 『一応シールドを張って、あなた達の姿は見えなくしておくから襲われる事はないわ』


 「ありがとう、ラス」


 「スラゼお兄ちゃん……」


 怖いんだろう。レンカとサツナが僕にしがみつく。って、僕も怖い。


 『ぐわ~』


 『ぐわ~』


 ルイテットさんの姿が見えなくなってから二体のサイサイの雄たけびが聞こえた。僕にもサイサイが感知できるところまできていて、二体の姿が見えた。


 「二体? ねえラス一体足りなくない?」


 『左に回り込んでいるわね。どうする? 知らせに行く?』


 そう言われてもな。結構動きが早い様だ。伝えに行く前に現れそうだ。


 『あ、後ろ……』


 そう言われて振り向くと、昔施設で飼っていた豚を一回り大きくした大きさの灰色のモンスターが、のっしのっしと現れた!

 大きな二本の牙に、額の真ん中に突き出た角。クリッとした大きな目。足の長さは、体に対して短めなのに結構速い。


 ギュッと二人が抱き着いたまま顔を押し付けてきた。震えている。


 「だ、大丈夫。僕達は見えてないはずだから……」


 だよね? ラス!


 『うーん。彼、強いのね。まあCランクだものね。全部倒したみたい』


 「そうなんだ。よかった」


 僕は安堵する。そうだ、ルイテットさんはCランクだった。


 「な、何!?」


 『ぶひ~!』


 『あ、戻って来たのね』


 サイサイが戻ってきたルイテットさんを見て向かって行く。


 「この!」


 一撃だった! く、首をはねた……。二人が僕の背中に顔を埋めていたから見ていなくてよかった。


 「スラゼくん! どこ!」


 「あ、はい……」


 「三人共無事か。よかった。サイサイがいたから驚いたよ」


 「すみません。隠れていました」


 「いや、いい判断だよ」


 「「きゃ~」」


 って、二人が思いっきり僕に抱き着く。うん。そうだった。転がった顔が僕達を睨んでいる様に感じて怖い。うん。これは悪夢を見そうだよ。


 「……あ、すまない。これが確実なもんだから……。気持ち悪いなら見ないといい。俺は素材を回収するから少し待っていて」


 「あ、はい……」


 そっか。倒したモンスターから採取か。僕達がやった事がない依頼だ。


 『どちたの? いたいの?』


 くすくすんとまた泣き出した二人に紅葉が言った。


 「ちょっと驚いただけだよ」


 『ちょっと待ってて』


 ひょいとまた紅葉がサツナの腕から飛び出て行った。


 「あ……」


 「ダメ!」


 追いかけようとするサツナの腕を掴んだ。


 「周りにサイサイがいるかもしれない。待っててと言っていたから戻って来るから」


 「あ、戻ってきた」


 レンカが言うので見ると、口に何か加えている。

 サツナがそれを受け取った。


 『げんきだちて』


 それって、さっきと同じ芋なんでは……。歯形がくっきりとついているので、これも価値なくなっているんだろうな。


 「お待たせ。ってそれ、どうしたの!」


 「あ、えーと」


 「そういえば、オウギモンガをペットして飼い始めたのって、その芋が好物で掘り当てるからだったような……。その芋、買い取らせてもらってもいい?」


 「あ、でも。歯形がついてますけど」


 「構わないよ。錬金術の材料にするだけだからね。それ土に埋まっているしランクが高いからなかなか手に入らいものなんだ。まさかこんなに掘り当てるなんて!」


 「サツナ。あげてもいいかい?」


 こくんとサツナは頷く。


 「では、どうぞ」


 「ありがとう。また是非お願いするよ」


 「き、機会があれば……」


 なんとか無事に依頼をこなした。

 出来れば、討伐の依頼は受けたくないかも。


 冒険者協会に行き、無事依頼を終了させると三人共Eランクに昇格してくれた。

 話によると、Dランクまでは比較的上がりやすく、Cランクからは難しいらしい。なので、Dランクの冒険者が一番多いだそうだ。


 『おめでとう。ますは第一歩ね』


 「ありがとう、ラス。君のおかげだよ」


 本当にラスには感謝しかない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る