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 本当にそういう人が来た。

 僕の力を解放出来れば、わかるよういなるらしい。よくわかんないけど……。


 魔法陣の上に立たされた僕は、びくびくしながら立っていた。魔法陣には、いい思い出はない。言う事を聞かないと、魔法陣に閉じ込められたのだ。

 そこに閉じ込められると、真っ暗闇になり音も何もかもシャットアウトされる。全く何も見えなくて聞こえないのは、小さな僕には恐怖だった。なのでトラウマだ。


 だが今回の魔法陣は当たり前だが違った。

 声が聞こえた。


 『いつになったら聞こえるの~~』


 「な、なんだ?」


 頭の上ら辺から声が聞こえた。

 あ、妖精さん? 妖精さんがしゃべったの?


 「どうだ。何か変わったか?」


 「え? えーと……特段なにも? 妖精さんがしゃべったぐらい」


 「しゃべった? 声が聞こえたのか?」


 「はい。たぶん……」


 「何と言っている?」


 「いつになったら聞こえるのって言っていました」


 『え? 聞こえてるの?』


 僕は頷いた。


 「これは! ステータスに妖精の加護という表示が現れた! 本当に妖精が君についていたようだ」


――――――――――――――――

 名前:スラゼ

 レベル:10

 HP:27/27

 MP:205/500

 力:5

 素早さ:25

 魔力:312

 妖精ミミミラスの加護

――――――――――――――――


 「加護? それってどんなのですか?」


 「それはいろいろだ。しかし、表示が今までなかったという事は、加護はたった今からだったのか?」


 「え? そうなんですか?」


 「とにかく、うまくやれば君はAランクも夢じゃない。頑張りなさい」


 頑張りなさいと言われてもなぁ……。

 こうして、新しい冒険者カードが発行になった。


 ―――――――――――――――

 名前:スラゼ

 ランク:F

 レベル:10

 スキル・魔法:

  妖精ミミミラスの加護

 ―――――――――――――――


 そして僕達は、今までの報酬をもらう事ができた。

 ただ問題なのは、ほぼ自分で買い物をした事がないので、お金の価値がわからない。

 言われたのは、そのお金で装備を整えなさいだった。


 「スラゼ。お前も冒険者なんだろう? 一緒に行こうぜ」


 「あ、うん。いいけど……」


 彼は、アーズラッド。同じ時期に施設に来たけど、五つ年上だ。


 「結局一週間程で、この施設取り壊すんだってよ。その前に色々準備しないとな」


 「うん……」


 「大丈夫だって。俺、剣の腕いいって言われているし。まずは、冒険者協会にいって、色々聞いてこようぜ。ちゃんとした人が配属になったらしいからさ」


 そういう事で、ぞろぞろと冒険者になる事を決めた元施設の者十人程で行くと、なんか色々と忙しそうで、「これをやるからそれを読め」と言われて、冒険者の入門編を貰った。


 「悪いけど、依頼を受けたりするんじゃなかったら、出て行ってくれないか? ちょっと忙しいんでな」


 って、追い出されてしまった。

 仕方がないので、施設に戻ってそれぞれ入門編を読む事にした。


 まず、依頼の受け方。

 ランクの表示があるものは、自分のランク以下のものでないと受けられない。

 受けた場合は、必ず責任を持って自分達でこなす事。他の冒険者に譲渡してはいけない。

 受けたはいいが、自分では無理な場合は、手伝いを募集する事ができる。その場合、成功報酬の中から払うのが基本だ。

 また、募集しても集まらなくて無理な場合は、キャンセルする事ができるが、次の依頼報酬から一割から三割報酬が引かれる。


 ジョブの設定

 何系かをわかりやすくしたシステムで、戦士系や魔法系など冒険者カードを確認しただけでわかるようしたものだ。

 魔法系でも攻撃なのか回復なのか補助系なのか、魔法やスキルによって分類される。

 ジョブ記載は、任意だが特化しているのなら仕事に有利になる可能性があるので、記載した方がいい。


 怪我などの治療

 冒険者登録をしているものが、依頼を受けて挑んだ結果、負傷した場合に限り、有料で治療を受ける事ができる。

 また、冒険者協会と連盟している薬師によるアイテム販売もしている。こちらの方が、その場で治癒でき便利です。


 個人依頼

 トラブルを避ける為、基本は冒険者協会を通すが、本人同士が同意した場合は、その限りではない。ただし、それによる怪我や病気などは、一切冒険者協会で、治療はしないものとする。


 ランク昇格

 一定の貢献が認められる者は、ランク昇格届を出す事で昇格できる。


 うーん。依頼は、出来るものを受ける方がいいみたいだな。


 今までは、施設の人が請け負って来て、僕達に分配していた。そして、報酬も施設の人が受け取っていた。なので、どんな依頼もほぼ同じお金しか貰えなかった。

 そのお金で、食べ物を買って食べていたが、一日一食が限度だった。使ってしまうと、ポーションとかが買えなかったのだ。怪我をしても治療はしてもらえなかった。


 これを読む限り、してもらえたんだ。

 それに自分が受けていた依頼が、何ランクのものだったのかさえ、僕達は知らない。


 『ねぇねぇ、聞こえる?』


 うん? すごく目の前に来て妖精さんが言った。驚いたけど、聞こえたので頷いた。


 『よかった。やっとだわ。まずは自己紹介。ラスって言うの宜しくね』


 うん? ラス? ミミミラスじゃないのか?

 取りあえず、頷いておく。


 『で、本題に入るわね。私は、マグドーラ様に召喚されたのだけど、還元召喚だったの』


 マグドーラってお父さんの名前だ。


 「還元召喚?」


 僕は、周りに聞こえない様に小さな声で聞いた。


 『まあ言うなれば、自分の命と引き換えにって事かな?』


 「え!?」


 『あなたを守ることを命じられたわ』


 僕を守る……だからあの時、あの男達は俺の事が見えなかったのか? お父さんが守ってくれた。


 『マグドーラ様の死後、あなたがマスターになったんだけど、心を閉ざしちゃってね。話しかけても全然だめ。それでもう十年よ!』


 って、最後は愚痴になってる。


 『普通召喚されて、何もせず十年なんてないわ! 返還される事もないからずっとあなたの魔力を受け取っていたの』


 「そうなんだ……」


 『そうなのよ! おかげで何もしてないのにランクが上がったわ!』


 「はぁ……僕みたいですね」


 僕もなにもしないでAランクになっていた。


 『あのね。私は正真正銘のランクアップよ。実力も伴っているの。その証拠に名前の前にランクがついているでしょう?』


 「あ、あのミミミ?」


 『あれはね、そっちの世界で言うとSSSランクって事なのよ!』


 へぇ……。Sか。えーとF・G・H・I・J・K・L・M・N・O・P・Q・R・Sだから13つも下!! しかもそれが三つもついている? よくわかんないなぁ。妖精さんのランクってどれくらいからあるんだろう?


 「すごいね……で?」


 『でって! もっと驚きなさいよ! いい? 普通は、用事がある時だけ召喚して終わったら戻すの。それなのに、ずっと召喚していたから上がったの。わかる? 普通十年間召喚しぱなっしなんてないから!』


 「あ、ごめんなさい。帰る?」


 『帰らないわよ! 私、あなたに一度も命令されてないんだけど!』


 「え? それしないと帰れないの?」


 『あなた、SSSランクの私を手放す気? あり得ないわ』


 どうしらいいんだろう。このまま一緒にいたいって事なのかな? いまいちよくわからない。

 とりあえず、何が出来るか聞いてみよう。


 「何が出来るの?」


 『ほとんど、何でもできるわよ。ただし、あなたを守る為の行為に限るわ。そういう制約のもと、召喚されてるからね』


 「はぁ……。僕、今自分の置かれている状況もよくわかんないからさ。具体的にこうって言われないとさっぱりなんだけど……」


 『仕方ないわね。私は、あなたよりこの世界の知識があるから、あなたを守る為に色々助言してあげるわ。どう?』


 「あ、じゃ宜しくお願いします」


 『では、本契約成立って事で。長かったわ~』


 本契約? まあいっか。お父さんの形見みたいなものだもんね。

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