第13話 仲良くお風呂


 私は今、湯船につかりながら信じらせない物を見ている。

洗い場で体を洗っている陽菜ちゃん。


 そんなに年も違わないのに、あの大きさは何だろう。

私だって毎日牛乳飲んでいるし、良く食べているのに。

おやつだってモリモリ食べるし、運動もしている。

なのに、なのに……。


 昨日も今日も全く気が付かなかった。

着ている服のせいだ、絶対に着やせしている。

神はここでも私を否定するのか……。


「葵ちゃん? さっきから何見てるの?」


「ひゃい! な、何でもないよ! いやー、二人でお風呂も楽しいなーって、思いましてですね……」


 危ない危ない。

あまり凝視するのは良くないな。


 その長い髪を洗うたびにゆっさゆっさ揺れている。

うらやましい。私もそんな大きなお胸があれば、きっと――。

少し、触ってみてもいいかな?


 シャワーで髪に着いた泡を流し、陽菜ちゃんは体を洗い始める。

あれ? 陽菜ちゃんトリートメントとかしてないのかな?


「陽菜ちゃん、トリートメントとかしないの?」


 体を洗いながら私の方に視線を移す。


「特に何も……。シャンプーとリンス位しか。それにトリートメントは持ってきていなくて」


 そっか、引っ越してきたばっかりだから、まだ買っていないのか。

本当だったら今日一緒に買い物して帰るはずだったのに。


「髪にダメージ残らない? 私のトリートメント使ってみる?」


「え? 悪いし、もったいないよ」


 もったいないとは?

そんなに高いものでもないし、別に気にしなくてもいいのに。


「えっと、結構お安いのでバンバン使っていいんだけど?」


「そうなんだ。じゃぁ、ちょっと使ってみようかな」


 湯船から出て、私はトリートメントのボトルを数回プッシュ。


「私がやってあげるよ! 陽菜ちゃんまだ体洗ってるし」


「う、うん……」


 良し、押し切った。

折角だから陽菜ちゃんの髪質を見てみよう。

普段ボサボサなのはきっと普段の手入れが足りていないだけだと思うし。


 陽菜ちゃんは体を洗いつつ、私は陽菜ちゃんの髪にトリートメントを着けてみる。

おぉ、思ったよりもさわり心地がいい。

ほぼノーケアのはずなのに。

しっかりと毛先までつけ、しばらく放置。


 しかし、陽菜ちゃんの背中綺麗ですね。

同じ女なのにどうしてこんなに差が出るんだろうか?

私ももっと頑張らないと。


 陽菜ちゃんの背中に手を置き、指でなぞる。


「ひゃっ! 葵ちゃん、何?」


「背中、洗ってあげるよ。引っ越し疲れたでしょ?」


「あ、ありがと……」


 石鹸の付いたスポンジを受け取り、陽菜ちゃんの背中を洗う。

うーん、すべすべですね。このままでは私の完敗になってしまう。

何だか負けっぱなしは嫌だな。

よし、少し悪戯しちゃえ!


 スポンジで背中を洗いつつ、空いたもう一つの手を陽菜ちゃんの前の方へ移動させる。


「えっ?」


 ふっふっふっ、これでもくらえ!

モミモミモミモミモミ。


「あっ、ちょっと、葵ちゃん。く、くすぐったいっ!」


「ふははっ! どうだっ!」


 スポンジを床にころがし、陽菜ちゃんの後ろから抱き着く。

そして、両手で前の方を揉みまくる。


「あ、ちょっと、そこはっ! あ、おいちゃん、くす、ぐったいっ! あはっ」


「それそれそれそれ」


 泡の付いた陽菜ちゃんを前から横から揉んでみる。

柔らかい。そして、笑っている陽菜ちゃんの声が明るい。


「やっと笑ってくれた」


 手を止め、背中から抱き着く。

ただ、ゆっくりと背中から抱き着き、陽菜ちゃんを抱きしめた。


「やっと?」


「家に来てから陽菜ちゃん、ずっと怖い顔してる。声も何かに怯えているようだし、それに寂しそう……」


「そ、そんな事――」


「私ねっ、好きな人がいるの。その人に振り向いてもらえるように、女を日々磨いているのです」


 転がしたスポンジを手に取り、陽菜ちゃんの背中をもう一度洗う。


「でも、きっと叶わない恋なの。陽菜ちゃんは、そんな人いない?」


「いない。人を好きなるなんて、私にはできないよ」


 陽菜ちゃんはシャワーで髪に着いたトリートメントを流し始めた。

そのシャワーのお湯で、私についていた泡も流されてしまう。


 湯船に戻り、再び陽菜ちゃんを眺める。

下を向き、やっぱり寂しそうな表情をしている。

シャワーを止め、頭にタオルを巻いた陽菜ちゃんが湯船に入ってきた。


「あのね、私もっと陽菜ちゃんと仲良くなりたいの。今日、一緒に寝ない? 色々とお話ししたいんだ」


 しばらく陽菜ちゃんは考えているようで、返事が無かった。


「でも、今日は早く寝ないと……」


「だ、だったら寝るまででいいからさ、お部屋に行ってもいいかな?」


 できるだけ陽菜ちゃんと一緒にいてあげたい。

これはお兄にはできない事。私が頑張るしかないんだ!


「寝るまでだったら……」


 よし、押し切った! 私の勝利!

お兄、葵は頑張りましたよ!


「やったー、よーし! とっておきのクッキーとミルクティーを持っていくよ」


 少しだけ陽菜ちゃんの表情が明るくなった。

お? クッキーが好きなのかな? それともミルクティー?


「クッキー好きなの?」


「うんっ。私の一押し! おいしくて、甘ーいクッキーがあるんです! でも、お兄には内緒ね、隠しているから」


「ふふっ、仲が良いのね」


「うーん、普通かな?」


「……そう、それが普通なんだね。兄妹、ご両親。本物の家族っていいね」


 不意に陽菜ちゃんに言われた。

『本物の家族』。


 でもね陽菜ちゃん。

血の繋がっていない兄妹でも仲が良いのは、知っているかな?

それに、本物の家族ってなんだろ?


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