02 忍チューバー誕生の巻き


「ぐずっ……はぁ……」


 おっと、「誰でもなれる忍者入門」の事を思い出すと、今でもグッと来るモノがあるな。


 付箋がたくさん付いていた事ではない。

 父親が、ボロボロになるまで読んでいた事でもない。


 俺のやって来た事が、全て無駄だった事だ!!


 そうだろ?

 俺は忍者の末裔だと聞いて育っていたんだ。

 服部半荘と聞いて育っていたんだ。


 それがなんだ。

 田中半荘だと?

 服部半蔵の末裔でもなんでもないじゃないか。

 なんなら、由緒正しき農家の息子だ。


 大人になったら、天皇陛下の忍として仕えるために、厳しい修行に耐えていたんだぞ?


 それがなんだ。

 学校に行かないと、いい就職口なんてないんだぞ?


 忍者??


「どこに就職できるんだ~~~!!」


 と言うわけで、俺は父親が嫌いになったんだ。


 そこからは、父親から離れて一人暮らしをして、町にある高校で学業を優先するわけなんだが、大学に行くには、勉強するだけでは行けないんだ。


 つまるところ、金だ。


 父親に大学に行きたい旨を伝えたところ、そんな金は無いんだと。

 当然だ。父親は、たまに農作物を売って日銭を稼ぐだけの無職なんだからな。

 アパートの家賃も、俺がバイトをして払っている。


 大学に行くためには、奨学金を貰えばいいと教員に言われたが、俺は学が無いんだ。

 受かるわけがない。


 次の選択肢は、金を自分で稼ぐしかない。

 家賃だけでもきついって言うのにだ。

 朝は新聞配達。夜はビルの清掃……

 勉強する暇なんてない。


 いや、学校では勉強できるんだが、なにぶんついていけない。



 無い無い尽くしで、大学受験は失敗だ。



 一浪して大学に行く気も起きなくて、そのまま新聞配達員に就職したよ。

 なんせ、社長が泣いてお願いして来たからな。


 どうやら俺が新聞配達をすると、ガソリン代が浮くんだとか。


 そりゃそうだろう。

 俺は常に走っているし、なんだったら屋根や壁を走っている。

 密集地なら、バイクよりも早いんだからな。

 その上、修行で培った手裏剣術で、ポストに投げれば百発百中だ。

 バイクで配達する先輩二人分の仕事量をこなしていたんだ。


 こんなところで忍者が役に立つとは思わなかったが、父親に感謝する気にはならなかったよ。


 仕事を新聞配達員に絞った事で楽になったが不満もあった。


 二人分の仕事をしているのに、給料が上がらないんだぜ?

 チラシ挟みも、二人分やってたんだぜ?

 掛け合っても、社長は全然話も聞いてくれない。


 社長からしたら、俺は便利だったんだろう。


 だから俺は、言ってやったんだ。

 給料上げてくれないと、辞めてやるってな。


 そしたら社長はキレて、お前の変わりなんていくらでもいると言われ、俺も売り言葉に買い言葉だ。


 辞めてやる! てな。


 そしたら手の平返しだ。

 給料を上げるから辞めないでと、泣きながら謝って来たよ。


 だが、俺にもプライドがある。

 振り上げた拳を下ろせない。

 そのまま辞めてやったよ。


 そうして、今まで貯めた貯金を切り崩して生活をしている時に、スマホで動画を見ていたら、町中を派手な動きで走っている奴等がいたんだ。

 あとで知ったんだが、「パルクール」ってスポーツらしいな。


 これぐらい、俺でも楽勝でできるって思って見ていたんだけど、次に見た動画はVチューバーとか言って、広告収入で食っていると言ってたんだ。


 この時俺は、閃いたね。



「忍者の動きで、再生数を稼げば、広告収入が入って来るんじゃね?」ってな。



 それでだ。

 俺はなけなしの金で機材を揃えて、デビューしたってわけだ。


 それからは、あれよあれよだ。


 初めてアップした動画が、噛みそうな名前の女性歌手に呟かれて、それがアメリカの歌手にマネをされて、あっと言う間にトップランカーに登り詰めたんだ。



 こうして俺は、「忍チューバー」を名乗り出したんだ。

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