泥状のギギルコン「と」

がら がらんどう

第1話 ミステリーツアー方式

 

 気が付いたとき吉井は森の中に横たわっていた。


 あれ、空港にいて。え、あいつらは。とっさに体を起こすと下半身に鈍い痛みを感じたが、特に異常はなさそうだったので、吉井はそのまま立ち上がって周りを見渡しつつ記憶をたどる。




 3週間前、チェーン店の居酒屋で高校の同級生と飲んでいた吉井は、20代最後に海外に行きたいんだよ、おれは、お前と!という同級生からの海外旅行への熱心な誘いをドリンクを注文する度に受け、はいはい、行かないけど行くよ。と曖昧に断っていたが段々面倒になり、わかった考えとくよ。だからもう誘う段階はクリアしたからな。と言ってラストオーダーのビールを飲みながら余っていたネギトロを食べた。


 そして、同級生の強い希望でもう一軒寄ることとなった焼き鳥屋では、ミステリーツアー方式にするから当日まで行き先は明かさない。全部で15万程度を予定している。という2点のみを繰り返す同級生に対し、吉井は、ごめん、正直に言うと詐欺だな、としか思えない。と根気よく同じことを告げていると、いつの間にか午前1時を過ぎ、店の時計で時間を確認した同級生は、終電が無くなった、家に帰れない。帰りたくても、帰れない。という理由で吉井の家に泊まることを宣言した。


 誘われ過ぎにより疲れ切っていた吉井は、家に着いて再び誘われる恐怖から、コンビニに寄って酒を買って帰る途中、海外旅行の件を正式に了承。また話の流れで2人共パスポートを持っていないことが判明したので、翌日の月曜日、吉井と同級生は体調不良という理由で会社を休み、2人でパスポートの申請に向かった。




 そして旅行当日、15万の現金を持って空港に着いた吉井は、飛行機で熟睡するためにできるだけ満腹になるという目的で牛丼店に入ったところ、吉井を誘った同級生とは別の高校の同級生を2人見つけ、よおよお、何やってんの?と話しかけたところ、その2人の同級生もそれぞれ個別で吉井を誘った同級生と一緒に海外旅行に行くということになっており、おいおい、まじか。来る人もミステリーかよ。一回の飲み会で済ませろよーと、形式上3人で企画者をいじりつつ、適当に思い出話をしていると、


「お前ら全員で牛丼食ってんのかよ」

 と吉井を含め三人を誘った企画者の同級生が笑いながら牛丼屋に入ってきた。


 4人横並びで牛丼を食べた後、企画者の同級生が吉井ら3人から集めた金を空港内のATMで入金しているのを見た吉井は、これまで味わったことのないくらいの騙されている感覚を胸に他の3人と共に検査場のゲートに向かった。


 ゲート内でベルトの金具により4人の内2人が音を鳴らし再検査となった後、搭乗口周辺で待っていた4人は、それぞれが個人で座席を購入していたので、アナウンスで呼ばれた順に飛行機の中へと入って行く。


 吉井は最後だったので、空港内の電源を使用し端末の充電を95%から98%に回復させた後、ここからここまでの番号の人達も入っていいよ、というアナウンスの中に自分の番号が含まれていたので、機内に入るためのゲートで端末のコードをかざした瞬間、足元が揺らいで座り込んでしまった。


 それが立ち上がる前の吉井の最後の記憶だった。




 光、体を包む空気、起き上がるとき手に触れたの草の感触から、吉井は現実だと理解はしたが、前後の記憶から自分の置かれている状況が理解できず、とりあえず左側に明かりが見え、森から出られそうだったので、吉井はよろよろと歩き出した。


 森を出た場所は、広い草原になっており、吉井は改めて現状を確認する。


 おれは森から草原に出た。


 それだけかよ……。わざわざ確認しようと思い考え込むふりまでしたのに。吉井はふと自分のポケットの中を確認したが、家の鍵が入っているだけだった。


 わかってたよ。おれ、財布とスマホは鞄に入れる派だから。でも家の鍵はポケットなんだよなあ、なんとなく。


 吉井はわざとらしく空を見上げる。


 太陽はあるんだなあ、しかも2個あるのかあ。そして再び地表に目を移すと、小さな山、もしくは大き目の丘のようなものが目に入った。

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