第20話 修学旅行 4

 わたしが向かうのはもちろん、ゲーム作りのブースだ。

 ところが急いで来たのに、そこには結構な人が並んでた。どうやらかなり人気みたい。

 確かうちの学校以外にもいくつか来てるって先生も言ってたし、実際周りにはうちのとは違う制服を来た子がたくさんいる。だから仕方ないんだろうけど。でも残念なものは残念だよ。


 とりあえず列の一番後ろに並ぶ。まあ、列の先に楽しみのある列なら並ぶのも嫌じゃないんだけど。それでもやっぱりスムーズに入りたかったなぁ。

 でも見た感じ、まだどのアクティビティも定員には行ってないっぽくて、みんなわりとあっさり入ってく。これなら予定通り参加できるかな?


 そう思いながら並んで、少し。やっとわたしの番が回ってきた。


「……あら、あなたは」

「? はい?」


 受け付けのお姉さんが、わたしを見てなんだかちょっと不思議そうに首を傾げてた。

 どうしたのかと思って聞き返したら、すぐに首を振られたけど。なんだったんだろう?


「ええと、今から体験できるものは三つよ。どれにする?」


 まあいいか。


 とりあえず、お姉さんに見せられたのはゲームのコントローラーを作るやつ、カードゲームの新しいカードを作るやつ、音楽ゲームの譜面を作るやつの三つだった。

 どれもすごく気になる……気になるけど、どれにするかは実は最初から決めてたんだ。


 カードゲーム。君に決めた!


「カードゲームにします」

「カードゲームね。それじゃあ、こちらにどうぞ」


 返事をしてお姉さんの案内に続く。


 そう、カードゲーム。世界的にも有名なトレーディングカードゲームなんだけど、このカードゲームのアニメが好きでわたしもちょこっとだけやってるんだよね。公式大会とかには出てないけど、男の子にだって負けない自信がある。


 あと、実はこのゲーム、一回お父さんのマンガとコラボしたことがあってね。お父さんのマンガのキャラが何人か使われてたりする。そういうのもあって、なじみがあるんだ。

 だから作る側に回ってみたかったんだよねぇ。調べた限り、自分でオリジナルのカードを作れる上に、絵も自分の絵が使えるみたいだからとても楽しみ!


「……? あの、お姉さん……」

「なぁに?」

「その、なんか今、エレベーターに乗りました?」

「ええそうよ。ちょっとね、このカードゲームは地下に施設があるの」

「へぇー、地下なんてあったんですね」


 ぐぃぃんってかすかな音が聞こえる。パンフレットには確か、一階と二階しか載ってなかった気がするけど……まあ、専用の施設か何かってことなのかな。


 そう思ってると、チンって音が鳴ってドアが開く。


「それじゃ、スケジュールカードを出してくれる?」

「はい」


 その先にあったカウンターで受け付けを済ませて、始まるのを待ってた子たちの中に入る。みんなもうそれぞれのパソコンの前に陣取ってて、とっくに準備万端だったみたいだ。


 ……みんな見たことのない制服を着てて、でもみんな同じ制服ってことは、全員同じ学校の子なのかな。わたしだけ違う制服だし、なんなら女子はわたしだけみたい。なんだか浮いちゃってるなぁ。

 おまけにどうやらわたしが最後の一人だったみたいで、一斉にこっちを見られたのがなんだか気恥ずかしい。すぐに解説が始まったから、そこまで気にならなかったけどさ。

 この辺り、わたしははーちゃんやひーちゃんみたいにはできないなぁ、なんて思うよ。


 まあ、それはいいんだ。わたしはみんなと違うし、みんなだってわたしとも違うんだし。

 そんなことより今は、目の前のことに集中しないとね。


 というわけで始まった説明。聞いた限り、どうやらなんでもかんでも好きに新しいカードを作れるわけじゃなくって、あらかじめいくつか用意されてるカードの中から一つ選んでそこにこれまたあらかじめいくつか用意されてる効果を組み合わせて、そこに自分の絵と、あとカード名を当てはめる形らしい。

 ちょっぴりがっかりしたけど、よくよく考えれば当たり前だよね。ちょっとしたことでバランスが崩れて大変なことになるのがカードゲームだし。大人の人たちが一生懸命考えて作ったカードでも、たまに本当にひどいことになったりするもんね。子供に好き勝手にやらせたら、きっととんでもないことになるよ。


「今回皆さんに新しいカードを作ってもらうのは、『ゾディアッカー』、『ピュエラマギカ』、『古龍』の三テーマです。この中から一つを選んで、テーマに沿った新しいカードを作ってください」


 お姉さんの説明に合わせて、画面の映像が切り替わる。

 映し出された三つのテーマは、順番に十二星座、魔法少女、ドラゴンがモチーフになっているやつだ。どれも最近は新しいカードが出てないテーマで、ちょっと人気が落ちてきてるテーマ……とも言えるわけだけど。


 それはともかく、どれを選ぼうかなぁ。どれも最近落ち目って言っても、見た目はすごくいいテーマだ。目移りしちゃう……って、普通はなるところなんだけど。


「……魔法少女、か」


 最近本物を見たからか、身近に感じちゃう。実際、最初に頭に浮かんだのは、大きな杖を持った女の子の姿だった。


「よし、ピュエラマギカにしよう」


 だからそれを選んだ。すると、画面に色んな項目が出てくる。

 えーと、わたしが決められるところって結構あるみたいだ。名前、ステータス、属性、ランク、効果……それと絵。

 決められるところからじゃんじゃん決めちゃおう。たぶん絵が一番時間かかるだろうから、最後がそれかな。

 こうして。こうして、ここはこうかな。で、こっちはこうで……うん。決ーまり。


 それじゃ、絵を描こう!


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


「はい、それでは制作ここまで。テストプレイに入りましょう」


 はっ。夢中で描いてたらいつの間にか時間が来てたらしい。一瞬だった。

 まだちょっと納得いかないところがあるんだけど、時間切れなら仕方ない。わたしはしぶしぶ用紙を提出した。


「あら、上手な絵ね」


 渡したとき、お姉さんに褒められたのは素直に嬉しかったけどね。

 ふふん、一応これでもマンガ家の娘なので。お父さんみたいにストーリーありの派手な絵は無理だけど、これくらいは。


 そんな風に一人で喜んでたら、次は隣の部屋に案内される。そこには、公式大会でも使われてるバトルスペースがあった。見た感じ、色んな機材が完全に揃ってる。

 なるほど、これだけしっかりした設備があるならここだけ地下にあるのも仕方ないかも。


「それじゃ、皆さんが作ったカードができるまでに、テストプレイについて説明するわね。皆さんには、それぞれが作ったカードを含めたデッキを用意します。それを使って皆さんでバトルをして使い勝手を試してもらうのが大まかな流れですね」


 お姉さんの説明を聞く限り、どうやらルールはショートよりもさらに短い特殊ルールらしい。時間が限られてるから、そこは仕方ないのかな。

 普通と違うのは、ライフの持ち点とバリアカードが普通の四分の一、デッキの枚数が三分の一、手札も一枚少ない。それと、作ったカードは手札に加わったときに起動する効果がないやつ以外は、最初の手札に入るように調整される。この四つか。


 どうせなら勝ちたいけど、短時間で終わるように調整されてるってことは、持久戦するとなると不利かな。ピュエラマギカはどっちかっていうとカウンター型のテーマだから、ちょっと心配だ。


「ではカードができました。受け取ってください」


 一通り説明が終わったタイミングで、デッキが配られた。一番上に自分の作ったカードが表向きで置いてあるみたいで、受け取った子が例外なく嬉しそうな声を上げてる。

 もちろん、わたしが受け取ったデッキもおんなじで……わたしは声は上げなかったけど、嬉しくて思わず笑った。


 ピュエラマギカ・ブルーアースと名付けたカードには、わたしが描いた青い魔法少女がいた。そしてその見た目は、今のわたしにできる全力でアニメっぽく描いたひーちゃんによく似てる。


 だってしょうがないじゃない、すぐそばに本物がいるんだもん。どうしてもイメージがひーちゃんになっちゃったんだよ。

 それにひーちゃんは魔法少女だけど、マジキュアみたいに変身したりはしない。だから、わたしなりにひーちゃんの魔法少女衣装を考えてみたんだ。そしたらこうなったんだ。


 いつものポニーテールはそのままに、リボンがもっとふわっとした大きめのやつに。

 靴もランニングシューズじゃなくて、かわいさ重視のストラップシューズ。

 両手の手首にはシュシュを着けて、足はオーバーニーで絶対領域を死守!

 服も丸襟のブラウスっぽい感じの半袖で、スカートはふわふわの、フリルがたくさんだ。このフリルが描きこめなくて時間切れになっちゃったんだけど、それ以外は大体満足な仕上がりだね!


 まあ、杖のデザインはひーちゃんが使ってるやつそのままだから、そこはわたしががんばったわけじゃないんだけど。そこはまあ、時短できてラッキー、って思っておこう。


「はい、それじゃあ早速テストプレイに入りましょう! まずは平良さんと……」

「えっ、あ、はい!」


 一人でにまにましてたら、テストプレイの組み合わせがいつの間にか決まってた。抽選って言ってたけど、まさか一番手とは……緊張するなぁ。


 そしてわたしは、相手に選ばれた男の子と一緒にバトルスペースに入る。


「女子が相手だからって、手加減しないからな!」

「わたしだって負けないよ!」


 男の子に言われて、わたしも言い返す。

 確か、これはテストプレイだから勝ち負けは関係ないとかって言われてたような気がするけど、それはそれだよね。自分が作ったカードなんだから、勝ちたいに決まってるよ。


 そう思いながらわたしは決められたところにデッキを置いて、勝気に笑ってみせる。


 機械が自動でデッキを切って、場に裏側で二枚、手元に四枚のカードがやってきた。特殊ルール通り、作ったカードが初手にある。それ以外は残念ながら事故気味だけど……そこは二枚のバリアカードの使い方次第か。

 ともあれ、それからやっぱり機械が先攻後攻を決めて……っと、わたしが先攻か。


『オープン・ザ・ゲーム!』


 そして機械がゲームの始まりを宣言。

 それを聞いたわたしは、アニメにならって声を出す。


「わたしのターン!」


 特に深い意味はない。でもさ、このほうが盛り上がって楽しいじゃない?


 まあ、先攻なのに今のわたしの手札には起動できるユニットカードがないし、先攻はドローできないからどうにもならないんだけどね……。


 仕方ない。カードを一枚、広げた手札から抜いて場に伏せる。内容は、相手ユニットの攻撃力を一時的に下げるスペルカードだ。

 別に無駄なんかじゃない。ピュエラマギカはカウンター型のテーマで、被ダメージに反応して条件無視の特殊起動ができる共通の効果があるからね。ダメージを受けること自体は問題じゃないのさ!


 すると、わたしの目の前に大きな伏せられた状態のカードが現れた。まるでアニメのワンシーンみたいに。


 え?

 ……ええ? え、いや、待って、どういうこと?


「た、ターンエンド」


 混乱しながらも、とりあえずターンを相手に渡す。

 何がどうなってるんだろう?


「俺のターンだ! ドロー!」


 だけど男の子は気にした感じはなくて、わたしがやったみたいに声を上げる。どうやら彼はわかってるみたいだけど、だとしたら余計この状況が気になるぞ。


 そう思った瞬間だった。


「俺は手札を二枚捨てて、ユニットを手札から特殊起動だ! 出てこい! 【古龍ナインテール】!」

「……は?」


 わたしと彼の間に、たぶん彼が描いたんだろう九尾の狐っぽいデザインのドラゴンが現れたのを見て、わたしは目が点になった。なんなら固まった。


「……は?」


 でもって、もう一回同じことを言う。

 目をこすってみるけど、そこにはやっぱりドラゴンがいて……ええーと、え? 何これどうなってるの!?

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