第16話 結成、はひふへカルテット

 そうしていつもの生活が戻ってきたけど……光さん、これまでと違ってほとんど休まなくなったし早退も滅多にしなくなった。花房さんと同じくらいの頻度にまで下がったんだよね。

 タイミングがタイミングだけに、委員長はもちろん、わたしや花房さんも光さんを疑ったよ。


「光さん、やっぱり今までサボってたでしょう!」

「……おうともサボっておったさ! それが何か! 問題でも! あるかのう!?」

「大ありよ!」


 答えるのがめんどくなったのか、その光さんは開き直ってたけどね。でもって教室の中を委員長に追いかけまわされて、花房さんが爆笑してた。

 わたしも一緒になって笑ってたんだけど、光さんがこっちに突っ込んできてそのまま三人で追いかけられる羽目になったり。


 そこでやってきた先生に、委員長もまとめて四人で怒られたりとかもして……うん、いつの間にかわたしたちは今まで以上に一緒にいるようになった。

 わたしとしては、最後賑やかに終わったとはいえ、光さんにピシャリと言われた委員長がそのあとも普通にしてるのがちょっとびっくりだけど。でもまあ、そういう精神的な強さがないと委員長はできないのかも。


「お邪魔しまーっす」

「お、お邪魔しますー……」

「うーむ、この真逆な反応よ」

「あはは、別に気にしなくっていいのにね。いらっしゃい!」


 そして今日は、放課後その三人が我が家にやってきた。いやぁ、こうやってうちで遊ぶくらいだからもう完全に友達だよね。うちだけじゃなくって、他の誰かの家にも行ってるくらいだもん。


 でも一か月前のわたしに言っても絶対信じてもらえないだろうなぁ。性格も趣味も違うわたしたちがなんでこれだけ仲良くなれたかって、やっぱりバケモノに襲われたおかげだろうしね。

 いやまあ、おかげ、って言うとなんだか違うような気もするけど、でも実際はそうなんだし。


 あとは、人に話せない、話しちゃいけない秘密だから、ってのもあるのかな。アレのことを話そうとしたら、他の人がいるときにはできないわけだしそうなっても不思議じゃないよね。

 でも四人で同じ秘密を抱えてるって、なんだかそれこそマンガとかアニメの世界みたいでちょっとわくわくしたりして。なんて言ったら、委員長には不謹慎だって怒られそうだけどさ。


 ま、そういう話は置いといて。今日はうちで遊ぶことになったわけだ。うちはお父さんの影響で昔からゲームもマンガも多いし、何ならボードゲームとかもたくさんある。だから遊ぶには一番都合がいいんだよね。


「おー、賑やかだと思ったら今日はまた一段と華やかだねぇ」

「あ、お父さん」


 みんなの分のスリッパを出してたら、お父さんが仕事場から出てきた。それを見て、三人が三人バラバラのリアクションを見せてくれる。


「幸一殿、本日もお世話になるぞ」

「こんちゃーっす」

「どうも、初めまして。福山奏と言います」

「お。あたし花房樹里愛。よろしゃーっす」

「うんうん、一人一人ジャンルの違う可愛さだね……ふふ、実に素晴らしい」


 対するお父さんのリアクションがいつも通りすぎて恥ずかしい! 特にその笑い方!

 ほらぁ、花房さんも委員長もちょっと引いてるじゃん!


「お、お父さん、もういいでしょ! 締め切りも近いんだし、お仕事お仕事!」

「お、おおお? いや、今月はわりと余裕が……」

「もーっ、いいから!」

「あふん。やれやれ仕方ない、それじゃおじさんは大人しくしてるよ。藤子ちゃん、奏ちゃん、樹里愛ちゃん、ちょっと散らかってるけどゆっくりしていっておくれ」


 どうにかこうにかお父さんを締め出して、わたしはほっと一息つく。それからくるっと振り返って、何もなかったことにする。


「……それじゃ、わたしの部屋こっちだから!」

「見事になかったことにしたのう」

「いやでも、気持ちはわかるぞ。家に連れてきて友達にパパがああ言ったら、あたしも同じことしてると思う」

「まあその、なんていうか、個性的なお父さんよね……」

「それ誉め言葉じゃないからぁ!」


 まったくもう、ほんとこれだからお父さんは! 悪い人じゃないんだけどな……たまに二次元と三次元の区別ついてないこと言うから……。


 と、とにかくそんなこんなでわたしの部屋に到着。


「おー、ここがイズ子の部屋か~」

「なんていうか……すごい部屋ね」


 初めてここに来た二人が、なんとなく感心したように声を上げた。

 二人の視線は、わたしの部屋のあっちこっちに飾ってあるフィギュアだったり、変身グッズだったり、マンガだったり……とにかく、そういうオタクなアイテムを行き来してる。やっぱり、二人にとってはこういうのは珍しいものなんだなぁ。


「泉美や。今日は先日言っていたライダーとやらを借りたいのじゃが、どれがオススメかのう?」


 一方、何度もうちに遊びに来てる上に、来るたびにそっちの知識をガンガン吸収している光さんは慣れ切ってる。鑑賞会するときにいつも座ってる場所に早速腰を下ろすと、棚に並んでるDVDやらブルーレイやらを調べ始めた。


「わたしのオススメだと、これかな。最初に見たやつだから、思い入れが深いってのもあるんだけど」


 とりあえず光さんにはオススメを伝えつつ、花房さんと委員長には適当に空いてるところに座ってもらう。


「わたし飲み物取ってくるけど、何か欲しいのある? って言っても、お茶以外はオレンジジュースか牛乳くらいしか出せないけど……」

「あたしオレンジジュースな」

「えっと、私はお茶で……」

「わしも茶がよいのう」

「ん、りょーかい」


 というわけで一旦部屋を出て、台所へ。リクエストのあった飲み物を順番に用意して……わたしは今日はオレンジジュースかな。


 そうだ、せっかくだしお菓子も持っていこう。何がいいかな……シンプルにポテチかな?

 一応、甘いものも持ってこうか。チョコビスケットとかどうだろう。どっちもそうそうハズレのないやつだし、これならあればあるだけいいでしょ。


 そんな風に考えて、トレイに飲み物とお菓子を乗せて部屋に戻ったら……。


「へー、あいつけっこー絵上手いじゃん。さすが、漫画家の娘ってか」

「この冊子は最近描いたものみたいじゃな。こちらと比べると成長がよくわかるぞ」

「お、マジだ。ふふっ、こうして見るとすんごい成長っぷり」


 あろうことか、花房さんと光さんが、わたしのお絵かきノートを出して中をじっくり眺めてた! しかも昔のやつまで引っ張り出してる!


「うわあぁぁーーっ、二人とも何見てるの!?」

「おう、おかえり」

「見させてもらってるぞぉ」

「ダメーっ!! 最近のはいいけど、昔のは絶対ダメッ!!」


 だからわたしは、大慌てでトレイを置いて、自分にできる最速でノートを奪い返した。


「必死だなぁ。別にいいじゃん、誰だってそういうときはあるって」

「よくないよ! そういうときを人に見られるのはイヤなの! 花房さんだって、見られたくない昔の写真とかあるでしょ!」

「そんなの、……あー。そう、だな、あたしが悪かった」


 ノートを抱きかかえながら、悲鳴並みの声で言ったところ、花房さんは急に真顔になった。どうやら何か思い当たるものがあったみたいだ。


「確かに、軽率であった。わしもすまぬ」

「……はぁ。まあ、わかりやすいところに置いてたわたしも悪いけどさ」

「平良さんはもっと怒ってもいいと思うけど」


 と、ここに今まで無言だった委員長が言ってきた。

 見れば彼女、二人とは違って宿題をやっている。さすが真面目な委員長というかなんていうか。


「だからやめておいたほうがいいって、私言ったじゃない」

「ごめんって……」

「面目次第もない」

「本当にそう思ってるのかしら。普段の態度から言って、ちょっと疑問だわ」

「ま、まあまあ。わたしはもう大丈夫だから……その辺で、ね?」

「平良さんがいいなら、私はもう何も言わないけど」

「ん。代わりに怒ってくれてありがとね」


 どういたしまして、と返す委員長はどこか楽しそうだった。


 そんなトラブルもあったけど、飲み物とお菓子を並べて。

 そこからはおしゃべりの時間だ。委員長は宿題終わるまでほとんど黙ってたけど、終わってからは普通に参加してきた。


 話題は色々だけど、基本的にそれぞれの趣味がローテしてる感じ。

 わたしはもちろん二次元……光さんが今特撮に興味を持ってるからそっちについて語ったけど、花房さんはファッションを話題にしたし、委員長に至っては勉強の話だった。


 光さんは基本的に聞き役に回ってて、ちょこちょこ的確な質問をして話題をさらに盛り上げる役でいることがほとんどだったかな。

 ただ、そうやって光さんが適度に話をほぐしてくれてたからか、普段あんまり興味のないことでも結構楽しかった。わたしだけじゃなくって、花房さんや委員長も得意分野以外でも楽しそうにしてたのが意外だったけど。

 それはたぶん、光さんがどの話題でもしっかり聞いて理解してくれてて、興味のない人も少しだけ興味を持ってくれるように誘導してくれてたんだと思う。おかげでみんなともっと仲良くなれた気がして、本当に楽しい。


 そうやって四人で話し続けて、どれくらい経ったかな。やっと話題がなくなってきて、会話が少なくなってきたタイミングで、花房さんがふと思い出したように言った。


「そういやさぁ、イズ子とカナ子はいつまでさんづけなんだ?」


 わたしはその言葉を聞いて、今日うちに来て話してる間にいつの間にか花房さんルールで呼ばれるようになった委員長と顔を合わせて首を傾げる。


「ふむ。これだけつるむようになったのに、泉美と奏がわしらを敬称で……ああっと、さんづけを続けておるのが気に食わぬと?」

「それ」


 わからないまま首を傾げていたわたしたちの間に光さんが入ってきて、そこでようやくわたしと委員長は理解した。やっぱり、光さんは話をわかりやすくするのが上手なんだなぁ。


 ともあれ同時に「なるほど」って言って、わたしは腕を組んで。委員長はメガネの位置を直しながら。それぞれ考える。


「それはあまり考えたことなかったわね……」

「わたしもだなぁ。……でも委員長は、なんていうか誰にでもさんづけしてるイメージある」

「確かに」

「そうじゃのう、奏はそういうキャラじゃよな」

「……それってどういう意味なのかしらね?」


 ちょっとジト目になった委員長に、わたしたちは三人同時に顔をそらす。この辺りはもうみんな理解してるから、言わなくっても完全に行動が一致するんだよね。ちょっと嬉しい。


「まあそれはともかくじゃ。樹里愛はあだ名で呼んでほしいのか?」

「だって、なんかそわそわしないか? こう……あんま仲良くないみたいな気がするっつーか」

「他人行儀に感じるわけじゃな。ふむ。わしなんかは、呼び方は人それぞれ好きにすればよいと思うが……」


 どう思う? って言いたげな青い視線が、わたしと委員長に向けられた。

 それを受けて、でもわたしは考えがまとまらなくて天井を見上げる。


 ただ委員長は最初から答えが決まってたみたいで、こくんと頷いてあっさりと答えた。


「そうねぇ、呼び方だけで仲のいい悪いが決まるものでもないし。私は今でも十分親しみを込めてるつもりだから、無理して変えようとまでは思わないかしらね」

「えぇー。……まあでも、カナ子に雑把に呼ばれるのもなんか違う気もするか」

「だから、それってどういう意味なのよ?」

「言葉通りの意味しかねーよ?」

「……ねえ光さん、これって怒る場面?」

「わしなら笑って流すかのう」

「光さんが笑うポイントが私まだちょっとよくわからないわ……」


 眉毛をハの字にして、委員長が首を傾げた。


 そんな三人をよそに、わたしは考える。

 とりあえず、面白そうだなとは思うかな。お話でもあだ名で呼び合うコンビとか仲間とか、結構出てくるし。特別感ある。

 他の誰も呼ばないけど、お互いを呼ぶときだけに使うあだ名……みたいなシチュエーションとか素敵じゃない? そういうの燃えるよね。


 とここまで考えて、わたしの頭の中にあの日見た青い流れ星のことが浮かんだ。


 わたしはあれに、親友がほしい、って願いごとをした。このときの意味は、ずっといつまでも遊べて、同じ話題で盛り上がれる友達がほしい、って意味だったんだけど……。

 その思い描いた関係に、あだ名で呼ぶってことがすごくぴったりはまるような気がした。大人になっても一緒に遊べるくらい仲がいいなら、あだ名で呼ぶんだろうなって、なんとなく思えて。


 だからこの四人でそんな関係になれたらいいなぁ……って、自然に頭に浮かんだんだ。


「……わたしは、あだ名で呼んでいいなら呼びたいかなぁ」


 だから、少し時間はかかったけどそう言って、ちょっと上目遣いにみんなを見た。

 もちろん三人の視線が一斉にわたしに集まったけど、三人とも楽しそうな顔をしてたから、わたしも楽しくなって思わず顔が緩んだのが自分でもわかった。


「平良さんはそう決めたのね」

「うん、楽しそうだし」

「いいじゃん。どういう風に呼んでくれるわけ?」

「それはまだ決めてないんだけど。でもなんとなく、花房さんみたいに共通点持たせたいな」

「それは構わんが、あまりにこだわりすぎて思いつかんとか言わんようにな?」

「う、それはありそう」


 うーん、何がいいかな?

 こういうのはお父さんが得意だけど、親友のあだ名を人につけてもらうのはなんか違うよね。ここはわたしが自分でなんとかしなきゃ。


 あだ名……あだ名……。

 名字からつけるのがいいのか、名前からつけるのがいいのか……。


「あ、もうこんな時間なのね」


 一人でうんうんうなってると、委員長がちょっと驚いた感じで言った。

 彼女につられてわたしたちも一斉に時計を見たら、なるほど七時近い。思ったよりも話が盛り上がってたみたいだ。


「もう帰らないと怒られちゃうわ」

「そうだなぁ。ちょうどいいや、あたしも帰るかなぁ」

「ふむ……二人が帰るならわしも帰るかのう。よければ送らせよう、うちの車に乗っていくとよい」

「マジ? じゃ、ありがたく~!」

「……最近いつも乗せてもらってるけど、いいの?」

「構わんよ、一人も二人も一緒じゃ」

「委員長毎回それ言うよねぇ」

「だって申し訳ないじゃない、すごくいい車だろうし……」


 そんなことを話しながら荷物を片付けて、玄関に向かう。

 途中通りがかった台所ではお父さんがご飯の準備をしてて、すごくいい匂いがした。


「お、みんなお帰りかい?」

「うん、もう七時近いしね」

「そっかそっか。みんな気をつけてねぇ。よかったらまたおいで」

「うぃーっす!」

「はい、お邪魔しました」

「ご厚意かたじけなく」


 おたまで鍋の中身をかき回しながら手を振るお父さんとちょっとだけ話して。

 それから玄関の外までみんなを見送る。そこには、もう光さんちの大きな黒い車がとまっていた。当然、執事さんも一緒だ。


「では、また明日じゃな」

「うん。みんなまたね」

「ええ、また明日会いましょう」

「イズ子、あだ名明日聞かせてもらうからな!」

「う、がんばるよ」


 三人が三人とも、それぞれらしい手の振り方をするみんなにわたしも手を振って、車から離れる。それが合図になったみたいに、車が動き始めた。

 車はすぐに角を曲がって見えなくなっちゃうけど……見えなくなるまで、わたしはそっちを向いて手を振り続ける。


「……さーて、あだ名どうしようかなぁ」


 そしてわたしは、気合いを入れなおすように腕を組むと、首を傾げながら家に戻った。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


 で、次の日。


 わたしが教室に入ると、そこにはもう三人がいた。むしろ待ち構えてる、って感じだった。なんていうか、RPGのボスっぽい。

 特に、腕を組んでわたしの机の上に座ってる花房さん。元々クラスでそういう立ち位置だったこともあって、とってもらしい。思わず笑いそうになっちゃったぞ。


 ただ、一か月前だったらそんな風に思ってもできなかっただろうな。きっと言いがかりつけられて大変なことになってたと思う。

 でも今は違う。


「おっす。いい案できたか?」


 手を上げて声をかけてきた花房さんが、にんまり笑う。うーん、いや本当、こんなに仲良くなるなんてねぇ。


 まあそれは今はいいんだ。今わたしは彼女と友達で、彼女のあだ名を一生懸命考えてくるくらいには仲がいいんだからね。

 だからわたしは、同じようににっと笑って、これまた同じように手を上げた。


「うん、おはようはーちゃん!」

「……ははあ、花房だからか?」


 それに嬉しそうに笑って、花房さん……はーちゃんは机の上から下りた。


 彼女に頷いて、わたしは自分の席に着く。机の上にランドセルを置いて、その上に上半身を乗せてえへへと笑う。


「名前のほうだと、ちょっとあだ名にしづらかったんだよね。だから名字で攻めてみたんだ」

「いいんじゃね? 少なくともさんづけよりは倍以上いいと思う、気に入った!」

「私もいいと思うわ。シンプルイズベスト、ってやつよね」

「そうじゃのう。しかし 樹里愛がはーちゃんということは」


 そんなわたしの近くで頬杖をついて、光さんも小さく笑う。頭のいい彼女にはもう見抜かれちゃったみたいだ。


 でも、あくまでわたしから言わせるつもりなのかな。そのまま黙って様子を見てる。

 それなら、わたしから発表してあげよーじゃないか。


「うん、たぶんひーちゃんの思った通りだと思うよ」

「やはりそう来たか」

「光だもんな。トー子も名前のほうはあだ名にしづらいか」

「そうなんだよね。はーちゃんは名前でも思いつけたんだけど、ひーちゃんは無理だったから……こっちで合わせようって」


 最初ははーちゃんみたいに、名前の頭を取ってちゃんづけにしようとしたんだけどね。

 でもひーちゃんの名前、藤子でそれを当てはめるととーちゃんになっちゃうから……それはさすがにちょっと、ねぇ。


「うーん、花房さんがはーちゃんで、光さんがひーちゃんってことは、私は福山だから……」

「ここまで来たらもうわかるよね。うん、それで合ってるよふーちゃん」

「……ってなるわよね」

「そういうこと。いやー、三人の名字がちょうどハ行で固まってるのに気づいたときは、わたしって天才なんじゃって思ったよね」


 えっへんと胸を張る。

 いや、実際名案だと思うよ。シンプルでわかりやすいし、ちゃんと共通点があるもんね。


 と、そのとき。なんだかどこかの探偵みたいなポーズを取って、ひーちゃんが口を開いた。


「ふむ、面白い。少し変化球じゃが、泉美もその理屈に組み込めるしのう」

「ん? どういうことだ?」

「ほれ、泉美の名字である平良……の、頭。平の字はへい、とも読めるじゃろ」

「なるほど、確かにそうね」

「おお、ホントだ。じゃあわたしはへーちゃんかな?」


 それは考えてなかった。いいじゃん。偶然にしたってこれはいいことだよ! なんていうかエモい!


「せっかくじゃ、はひふへカルテットとでも名乗るか?」

「それはちょいダサくないかぁ?」

「私も遠慮するわ」

「ひーちゃんにはごめんだけど、それはわたしもナシだと思うよ」

「うむ、言っといてなんじゃがわしもどうかと思う」

「なんだよ適当かよ!」


 はーちゃんのツッコミが合図になって、わたしたちは笑う。

 いやー、それにしても惜しいなぁ。これでほで始まる名字の子がいたら、ハ行がコンプリートなんだけど。


 そうして笑い終わったあと、なんとなく四人が四人とも黙り込んだ。その状態で少しだけそれぞれを目で順々に追いかけたけど……。これ、たぶん同じこと考えてるやつ?


「……なあ、お前ら同じこと考えてるだろ?」

「ははは、そうじゃのう」

「あ、やっぱりみんなも?」

「はあ……まあ、そうなるわよね……」


 どうやら大当たりだったらしい。くすりと思わず笑っちゃう。

 それを合図にしたみたいに、わたしたちは同時に声を出した。


「「「「『ほ』がほしい!」」」」


 その内容は本当に予想通りで、それがまた妙におかしくって。


 わたしたち四人はまた笑い合った。

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