#2 巷説 Ⅱ

 学校の講堂は、初夏へ向かう今日この頃でもいくらか冷える。指先が冷たくなってきた頃、ようやくお伽噺は一つ目の区切りに辿り着いた。

「――まずはここまで、かな」

 仏頂面のヨキネンは、携帯端末片手に私の目の前に座っている。どういうわけか、話が終わったのに顔を上げようともしない。

「いま世に出回っている『スズランの手記』との差が大きいのは、ここまでだと思う」

 まったく失礼な奴だ。人の放課後を潰しておきながら、呼びかけにも応じない。

「ヨキネン? 聞い――」

「これはこれは、これはこれは!」

「うわっ」

 訂正。ヨキネンはこういう奴だった。彼の行動を常識で推し量ってはいけない。

「イーリスさん、最高だな」

「いや、何が最高なの?」

 するとヨキネンは自信満々に答えた。

「堕ちる前は、まるで聖人じゃないか」

「そういうことか。ヨキネンが言うとおり、小さい頃から読んでいたあの『悪虐非道なアルマス・ヴァルコイネン』とは全然違うの。この写本に書いてあるのが本当の姿って感じがする」

 するとヨキネンは鼻を鳴らした。

「それはまた違うと思うがな」

「なんでよ」

「何事も、おいそれと本当本当言うものではない。特に多面性が有り得る事柄に関しては」

 ヨキネンは珍しく真面目そうな顔で言う。だが、アルマス・ヴァルコイネンは他人にきつく当たる人ではなかった。お伽噺とはまるで違う。どちらかといえば、他人に強く当たられては常に狼狽えているくらいの印象だ。

「でも、流石にいくらなんでも別人すぎる。ヨキネンもそう思わない?」

「そうか? 二千年の間に老いて柔らかくなったのかもしれないし、本性を隠すことを覚えたのかもしれない」

 ヨキネンは携帯端末をホワイトボードのメモへ向ける。写真を撮りおえると、満足げな様子でボード消しを振り回した。

「今のところは――そうだな、アルマス・ヴァルコイネンの本性を決めつけるには、いささか早いんじゃないか? とだけ」

 ヨキネンは微妙な鼻歌を歌いながら、ペンの跡が消えるよう丹念にボードを擦る。やたらと上機嫌だ。だが急に動きを止めて黙り込む。

「どうしたの?」

「いや……思ったんだが、相殺型大規模障壁なるものは本当にあるのだろうか」

 当たり前ながら、ある。この前アルマスさんの腹心であるローレントさんが、「この街には防衛システムが存在する」と言っていた。それに実際、誤作動で魔素の供給が止まったりもした。

 ――そうか。

「あるはずだよ。ヨキネンは知らないかもしれないけれど」

 私は予め知ってしまっていたが故に、当然のものとして読み飛ばしていた。けれどヨキネンが知っているのは、全世界で読まれ続ける、あの『スズランの手記』だけだ。英雄フィーリクスの写本では決してない。

「なるほど。だとすると――」

「もちろん話の結末も少し変わってくる」

「やはりか」

 ヨキネンは勢いよくホワイトボードをまっさらにすると、身を投げ出すように椅子に腰掛けた。隣に座る私の方へ乗り出してきて、小さな子どものようにはしゃぐ。

「イーリスさん、楽しいな。聞きたいことがたくさんできた」

「何」

「あなたはこの本に――」

「二人とも、こんな時間まで何をしているの」

 瞬間、隣のクラスを担任する先生の声が響いた。時計を見ると、もう夕方五時近い。門限もあるしそろそろ下校した方がいい頃合いだ。

 すみません、もう帰ります。そう言おうとしたところへ、ヨキネンが一足早く返事をする。

「先生、イーリスさんとちょっとした猥談をしていました。『スズランの手記』のどの場面のあとに、英雄とその妻がまぐわっていそうか」

「ヨキネンは馬鹿なの?」

「馬鹿とはひどいな。イーリスさんだって盛り上がっていただろう。喧嘩のあとは大抵仲直りしていそうだ、と」

 ヨキネンが写本のことを極力伏せようとしているのは伝わる。杞憂かもしれないが、誤魔化すのは悪くない。ただどうにもチョイスがおかしい。ヨキネンは訳の分からないことを上機嫌で並べ立てた。

「今気づいたんだが、イーリスさんと猥談をしていたということは、イーリスさんといかがわしい行為に及んだと言っても過言ではないのか」

「ヨキネン。過言でしょ」

「同感だ。流石に言い過ぎた」

 案の定、先生は呆れかえって突っ立っている。帰れと促されるまま、私たちは講堂を出た。

「イーリスさんは、ヨンナさんほどではないが聡いな。猥談をしていないと否定されたらどうしようかと思った」

「下策も下策だけれど、あそこで足並みを揃えないわけにはいかないでしょう。……なんでヨンナを引き合いに出したのかは分からないけれど」

 夕暮れの帰り道、息はまだ仄かに白む。ヨキネンはそれに気づくやいなや、息を吐いて遊びはじめた。まるで子どもだ。一緒に帰っていると思われたくないけれど、どのみち帰る寮は同じ方向にある。

「例年よりも寒いな。五月になるっていうのに」

「お蔭様で風邪引きそうなくらい」

「なんだ、まだ怒っているのか。上着を貸すからチャラにしてくれ」

「誰が上着で許すと思う?」

 珍しく苦笑いを浮かべたヨキネンは、マフラーを外してこちらに突き出してくる。

「これも追加しよう。安心してほしい、昨日洗ったばかりだ」

「及第点」

 何を考えているのか分からないが、ヨキネンなりに責任を取ろうとしているのかもしれない。まずもって人に水をかけないことを心がけてほしいけれど。

「及第点か。じゃあこうしよう」

 ヨキネンは唸る。携帯端末を睨みつけながら操作すると、地図を私の方へ向けた。

「ドーナツ屋にでも行かないか。奢るからそれで許してほしい」

「乗った。そこのプレミアムシリーズ好きなの」

 意外な言葉だった。何も気を遣わないヨキネンしか知らないから、この瞬間だけは少しまともに見える。

「イーリスさんは遠慮がないな。あのシリーズは割高だろう」

「写本の内容も教えてあげたんだし、ケチくさいこと言わないで奢ってよ」

「わかっている。その代わり、物語の続きも教えてもらうからな」

 ヨキネンの上着とマフラーをぶんどって巻くと、確かにヨンナの服と同じ香りがする。彼の持ち物にしては悪くない。

 通学路から逸れて馴染みの道を歩く。目的の店はすぐそこだ。

「――あれは」

 ヨキネンが低く唸る。何か気になるものがあったらしい。柄にもなく意表を突かれた様子だ。

「どうしたの――って、そういうことか」

「アルマス・ヴァルコイネンは暇人なのか?」

 ドーナツ屋であれもこれもと注文をしていたのは、かの悪名高いアルマス・ヴァルコイネンだ。

 トレーいっぱいに乗せられたドーナツを持って誰と合流するのかと思えば、案の定カウンター席へ向かう。銀髪の青年は、幸せそうにチョコレートまみれのドーナツを頬張った。見ているこちらも食欲がそそられそうな食べっぷりだ。

「彼も暇人ではないと思うんだけれど……遭遇し過ぎな気もする」

 この前の休日も会ったし、大学図書館に行けばだいたい寝ているから会える。邪悪なドラゴンにしてはあまりにも一般市民らしい生活だ。

「どうする? 聞きたいこともあるし、私は彼と合流してもいいけれど」

「俺も別に構わない。いくら邪悪なドラゴンと評されていようと、街中で暴れ出すような馬鹿はしないだろう。……そういえば過去には暴れているのか」

「言われてみれば、かなりの危険人物」

 私たちはひそひそと遠巻きに話していたはずだが、流石はドラゴン。彼は次の瞬間勢いよく振り返る。と同時に、盛大に咳き込んだ。若々しい見た目のくせして、やることなすこと大体老人だ。

「ああもう大丈夫ですか、おじいちゃんなんだから無理しないで」

「ひどい!? おじいちゃんなのは間違いないけれど、気管は衰えてないぞ!」

 私たちが駆け寄って声を掛ける頃には、一応落ち着いたようだ。見るからに甘そうなコーヒーをあおって、彼は深々と溜息をつく。

「で、誰が暇人だって?」

 依然涙目のアルマスさんは、当てつけがましくドーナツを口に含んだ。彼が噛み締めるごとに、キャラメルチョコレートが剥離する。小刻みに咀嚼したり、落ちたチョコレート片を掃除したりと、挙動がまるで小動物だ。ついからかいたくなる。

「アルマスさんは暇人じゃないんですか?」

「えっ」

 うるうると瞳を潤ませた彼は、もう威厳もへったくれもない。そこへ、何を思ったのかヨキネンが追撃をした。

「暇じゃないなら、イーリスさんをストーキングしているんじゃないか? しょっちゅう会っているそうじゃないか」

 アルマスさんはまたドーナツを喉に詰まらせる。何とか飲み込むと慌てて弁明をしだした。

「ス、ストーキングなんてしないよ!? ロランじゃあるまいし……」

「ローレントさんならすると」

「する。偶然を装って色仕掛けとかあいつの十八番だし。言っておくけれど、俺はロランのこと毎度止めているからな?」

「うそでしょう」

 アルマスさんは、肩をすくめて変な顔をする。そういう時は何か答えてくれたらいいのに。

「じゃあローレントさんに直接聞くしかないか」

「呼べば来ると思うが、どうする? あの爺さんもどうせ暇しているぞ」

「いえ、結構です」

 携帯端末を取り出して不穏な動きをしたアルマスさんを制止すると、何故か彼自身も少し安堵した様子だ。そうだ、と席を立つと、頭上に掲げられたメニューを指さす。

「二人はどれがいい。何なら奢るぞ」

 アルマスさんが払ってくれるというのなら、全く遠慮しなくていい。

「それは俺――」

「ありがとうございます。私はピスタチオ味のと、プレミアムのミルクチョコ味。飲み物はホットコーヒーで」

 ヨキネンが何か言いかけたのと被る。奢ってやると言っていた割には奢られる気満々だ。

「ごめん先に言っちゃった。ヨキネンは何にするの?」

 迷っているのか、ヨキネンは一瞬の間をおいて注文を伝える。

「俺は……シナモンシュガーで」

「飲み物は? それにもっと高いのを選んでもいいんじゃない?」

 するとアルマスさんは不満げに文句を言う。

「別に何を選んで一向に構わないが、イーリスは俺の財布を何だと思っているんだ」

「ショッピングモールを壊しても全部もみ消せるくらいの財布、だと聞きました」

「ロランめ……。まあ否定はできない」

 アルマスさんはヨキネンを一瞥すると、適当に選んでくると言い残してレジへ向かった。

「――アルマス・ヴァルコイネンは想像以上に気さくだな。柔らかささえ感じる」

「ヨキネンの言うように年を重ねたからかもしれない。けれど、こうして話してみて、それだけじゃないようにも見える」

「相変わらず早計だと思うが」

「別にどれだけ疑ってくれたっていいさ」

 アルマスさんがヨキネンと私の間に割って入る。音もなく置かれたトレーには、注文したものの他に、ホットコーヒーと、ヘーゼルナッツがたっぷりかけられたドーナツが乗っている。ヨキネンのためだろう。

「隠したいことはもう何もない。やむを得ない事情があって疑いをかけられたくない時は、力尽くで黙らせればいい。そういうのは、だらだらと生き永らえている爺さんがやるのがいい」

 彼は自分の席に戻って食べかけのドーナツを手に取る。危うさをはらんだ言葉は、アルマスさんの本心に思えた。口調は茶化していても彼の決意を感じる。

「第一、疑われることは特別なことじゃない。俺はひたすらに怪しいらしいからな。俺だって、他人の不満にいちいち付き合うほど暇ではないね」

 どこか憂うような笑顔を浮かべて、彼は次のドーナツに手を付ける。

「なら俺は、イーリスさんが信じる分だけアルマス・ヴァルコイネンを疑うとしよう。本人が疑うことを許してくれるというのは心強いな」

「イーリスの友人は面白い子が多いんだな。彼は特に面白い」

「アレクシ・ヨキネン。イーリスさん次第では出しゃばることになると思いますが、愚かな若者ということでお目こぼし願いたい」

「俺からも、アレクシ君とは敵対せずに済むことを願うよ」

 二人はコーヒーカップを軽く触れ合わせ、紙コップの軽く擦れる音が鳴る。

「ドーナツ二つなんて、太りそうだけど幸せ」

「そりゃよかった」

「そういえば」

 この前アルマスさんの体調がすぐれない様子だったので気になっていた。

「甘いもの食べて平気なんですか? 結石がどうとか言ってたじゃないですか」

「結石?」

「ああ、それか」

 アルマスさんは引き攣った笑いを浮かべた。腹部に持って行った手は、押さえるともさするともつかない動きをしている。

「摘出した。まあ正直、摘出なんて行儀の良いものではなくて、抉り出したってのが正解かな」

「うえ」

「幸か不幸か、生半可なメスでは切開できないんだ。ドラゴンの体を守る薄い障壁が、俺の場合やたらと耐久性あってな。ロランの持っている魔剣で、こう……」

 表情からも、その痛々しさが伝わってくる。しかしそれで結石を取り除けたということは、ひとまずは回復したと思っていいのだろうか。

「アルマス・ヴァルコイネン、あなたは何か患っているのか?」

 事情が分かっていないヨキネンが疑問を呈する。それを聞いて、アルマスさんもまた訝しげに首をかしげた。

「この前イーリスにも聞かれたな。というか会う奴みんな尋ねてくるんだが、姉さんの手記には書いていないのか?」

「そんなことは一つも書かれていない」

「うーん。俺の病気のことなんて書く必要はないから、当たり前といえば当たり前か」

 指で唇を拭うと、アルマスさんはヨキネンに持病の話をする。

「俺は先天性の魔力排出障害なんだ。気がつくと体内に魔石ができていてな、摘出したことは幾度となく」

 ほら、とパーカーを捲り上げたところには、ざっくりと刃物でつけられた赤い跡がある。とはいえ脇腹の傷口は閉じきっていて、新しいものには見えない。

「今回は結石の成長が速くて手に負えなかった。摘出して一週間もすれば傷はなくなるし、さっさと決断すればいいだけなんだが……どうにも踏ん切りがつかなくて……」

「魔力排出障害。ということは――」

 その瞬間、アルマスさんの携帯端末が鳴動する。表示された相手を確認すると、彼はドーナツの最後の一口をコーヒーで無理矢理に流し込んだ。

「悪い、この前言った観光客・・・だ。今シンガポー……ルではなくて、サン・ヨアキムで足止めを食らっているんだと。今度は何だ? 俺がルートを手配しろってか」

 悪態を吐きながらアルマスさんは店を出る。穏やかなようで、案外嵐のような人だ。ヘーゼルナッツのドーナツを咥えたまま彼の後姿を見送ったヨキネンは、口からゆっくりとドーナツを放す。最初は茫然としていたが、やがて好奇心旺盛な子どもみたいな笑顔になった。

「イーリスさん、大変なことが起きた」

 ヨキネンの言う通り大変なことだ。すれ違うことはあっても、こうしてアルマス・ヴァルコイネンと言葉を交わす事なんてそうない。

「アルマスさんと話せて良かったね」

「そういう話ではない」

 ヨキネンは手で遮る。唇の形だけで「写本」と言うと、

「術式があるにしろ無いにしろ、御伽話が存在する意味も、あれ・・の意味もまるで分からなくなってしまった」

 ヨキネンはカウンターの天板を指で叩きながら、「いや」とか「ああ」とか呟く。

「良かったな、イーリスさん。予想が役に立たなくなったぞ」

 ヨキネンは人差し指を立てた。いつになく真剣な表情で、爛々と瞳を輝かせている。

あれ・・の内容を聞いて、俺が立てた予想はこうだ。アルマス・ヴァルコイネンは邪悪なドラゴンで、彼と親しかったフィーリクスと姉は何とか良いところもあると伝えようとした。或いは」

 ヨキネンは二本目の指を立てた。

「アルマス・ヴァルコイネンは邪悪なドラゴンなどではなく、何故か悪し様に書かなければいけない事情ができた」

「幾らかバリエーションがあるかもしれないけれど、確かにその二つが大筋かもね」

「だが、この予想には欠陥がある。フィーリクスの言い分と、おとぎ話。このどちらかが事実であるという立場を取っているんだ」

 どちらかが真実である可能性は高いと思うけれど、欠陥が存在しうるのも間違いない。ヨキネンには、断定的に言えるだけの心当たりがあるのだろう。

「どちらも真実ではないってこと」

「ああ。イーリスさん、知っているか? 魔力排出障害は珍しい病気じゃない。けれど重度の障害は非常に珍しい」

「うん。多少魔力が排出できていないだけで、生活に支障をきたすことはほぼないって書いて――待って」

 身体症状が出ることが稀な病気なのに、アルマスさんはあれだけの身体症状が出ている。携帯端末で軽く検索をすると、重度のときに起こりうる症状の解説が出てきた。

 結石の他にあるのは、意外な症状だ。

「魔法が使えない……? ヨキネンは何でそんなこと知っているの?」

「子どもの頃ちょっとな。それはいいから見てみろ、その下だ」

「補助具か」

「魔法が使えないかもしれない、という程度だが、充分疑う材料にはなる」

 補助具を使えば難なく魔法が使えるらしい。更に下には詠唱法、陣記述法と、その他にも解決策は多数並んでいる。現金なサイトで、補助具の欄にはワンドや指輪、ブレスレットが並んでいる。魔法の初修者が使う道具だ。

「病気もそうだが、何故補助具は手記に描かれていないんだろうか。それともアルマス・ヴァルコイネンが噓をついているのか? それに、おとぎ話として出回っている『スズランの手記』が事実を記しているとしたら――イーリスさんが騙されているのかもしれないが、実在する術式である相殺型大規模障壁が出てこないのも不自然だ。手記の目的は何だ?」

「あーもう! ヨキネンのせいで、今まで以上に何も分からなくなった」

 本当に何も分からない。前提として、真偽が入り乱れていることは踏まえていたつもりだった。けれどどうだろう、あらゆる記述も発言も信用できないとなると、もはや行き止まりだ。

 するとヨキネンが心底楽しそうに笑う。何だか腹立たしい。

「嘆くようなことか? まるで道筋が通らないというのは、裏を返せば中心を成すものが欠けているということだ」

 ヨキネンが掲げたシナモンシュガーのドーナツは、真ん中が綺麗に抜けている。彼はその覗き穴から私とばっちり目を合わせて、自信満々に言い放った。

「このドーナツの穴みたいにな。周りがあるから穴があると気づける。しかも、周りが何で出来ているか分かれば、穴にもともと在ったものがほぼ完全な形で同定できる。フィーリクスは相当なやり手だな。何かに気づかせたいとさえ解釈しうる」

 まるでヨキネンなんかに鼓舞されているみたいだ。鬱陶しさはある。けれどそれが頼もしくもある。

「改めて言おうか。俺はイーリスさんのやっていることに興味がある」

 制服の襟を正すと、ヨキネンは手を差し出した。

「失われたドーナツの一部を、一緒に探し当てようじゃないか」

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