第4話 舌【 小夜啼鳥|Nattergalen】

小夜さん、生理用品を買う金にも困るくらいなのか?


生々しい話。

内腿をつたう血と、火傷の跡。

他人の妬み。

そして、美貌。


こっそりと尾行した家は、彼女の家ではなかった。

誰の家だろう。


生活用品を置いてある場所が家でないのは、どういう状況が想定されるんだろう…。考えても妄想にしか繋がらず、その不毛さに諦めた。


日曜の朝、目覚めたのは、ルコの舌先の感覚が這いずり回っていたから。

当然のように、彼女の後頭部を撫でる。

「あ、おきた。」と、彼女は言った。そして続けて「いろんなところがおきます…」と…。


自分の作業に熱中しながら、無表情に僕の体の現状報告をしてくれる。

「ますます、硬くなってきてます。

気持ちよくなると、男の人も濡れるんだよね…。ヨウタさん、粘りのある透明なの出てくるよ。」

先端に、唾液とはちがった透明なものをルコが細い指に絡めながら陶然とした目で見ながら言った。まるで、呪文のような言葉と所作。

実験をしている見習い魔女みたいだった。


指で、僕の太腿の付け根をなぞりながら、呟く…。「ねえ、知ってた?イキそうになると、この子たち、お腹の中に潜り込もうとしますよね…?ご存知でしたか?」

ささやくような声。


「そんなん教えてもらっても、ありがたくないし…。」


「なんだ、知らなかったの…?

ねぇ、ヨウタ…。私さ、それ発見して面白くっていつも実験しながら触ってたんだ…。」ふふん…と鼻で笑った。


僕は、弁解するように、知識をひけらかす。

「あのね、寝てる時にね、体の中の血が回るんだよ。だから、朝、きちんと、こんなところにも血が集まってくんだよね…。だから、興奮してるとかそんなんではないんだけれど…」


僕は、話が繋がってないし、知識をひけらかしたいだけの会話になってるなと、改めて感じて、弁解するように続けた。


「でもね、男はバカだからね。あっ!勃ってる!おれ興奮してる!元気!って誤解して、すぐにしたくなるんだって…」


「ヨウタも、男なのに、そんなふうにバカにするんだ…。他のオトコを」と、楽しそうに笑いながら続ける。


「体の変化で、気持ちも変化するけど…。そんなやつなのかなぁ…。

悲しい時とか、怒ってる時に笑うとさ、少し楽しくなるやつ?」


「そうか…体の中の血が、ここに集まってくると、普通に…。

えっちな気分になって、気持ちよくなるんだねー…?」


彼女が手で弄んでいたものを握りしめながら、口に含んだ。唇を尖らせながら、徐々に口腔の中へ舌を絡めながら導いていく。虚ろな思考でその光景を脳裏に記憶しながら眺めていた。

羞恥心と、間を持たせるように話していた会話が止まり、ルコが僕の劣情をそそるだけのために、わざと唾液を含んだ音を立てる。

部屋の中にその音だけが響きはじめた。


それを聴きながら「まぁ、そうかな…」と呟いた。「嫌いじゃないよ、これ…。朝から、いきなりこれで起こされるのも…むしろ、ルコに舐めてもらうの、好き」


ルコはふっと笑って、一旦、口腔からそれを解放し舌先を硬い屹立したそれに沿わせながら呟いた。


「じゃさ、小夜さんは、ずっと悲しい顔して怒ってるから、ずっと悲しくて腹が立ってるのかな…。」


一言発して、喉奥まで、弄んでいた物を、啜るような音を立てて送り込んだ…。ルコ自らの喉奥に、突き立てるように。


身体が反応したのは、唐突に行為が激しくなったからもあるけれど…。

身体が反応したのは、唐突に出されたその名前のせいもあったんだ…。

小夜さんの名前を聞いた一瞬で思い返された

彼女の指の冷たさ。

彼女の咀嚼音。

彼女の内腿をつたう血と、火傷の跡。

彼女に向けられた他人の妬み。

そして、冷たく激しさを秘めた美貌。


匂い立つような生々しい話…。と思った瞬間にどろりとしたものが、心臓の鼓動のような動きを伴って、体内からルコの口の中にこぼれていった。


なんてとこでイクんだよ?

手首側に近い手のひらで、口をぬぐいながら、ルコは上半身を起こしながら言った。


飲んじゃったよ。喉奥!いきなりだったんで…。

自分ばっかり気持ちよくなっちゃってさ…?


ふてくされた声と、挑発的な笑顔。

二、三度、ルコがむせる。

ニガイ…ニガイ。と言いながら。


むせるたびに揺れる乳房の重みを視覚で測っていた…。


ルコのカラダはイヤラシイ。

腰が丸みを帯びていて、滑らかに細いウエストに続く。そして、カラダを動かすたびに歪む豊かな胸。


僕は罪悪感と、背徳感を糊塗するかのように、ルコを押し倒した。


果てたあとだったけれど、変な興奮が熾火のように疼いていて、すぐに、下腹部に強い塊が生じた。


そのまま、ぬめりのある部分に分け入り突き刺すように腰を動かす。

すぐに、ルコも声を殺しながら、達した。


すでに二人とも汗だくで、滑るお互いのカラダ。今日の日曜は、もう、疲れ果てて何もできない。

外も暑くなりそうだった。

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