Ⅱ 人の時代

 すべての者が平等で、神々のような暮らしを謳歌していた太古の昔より幾星霜……限られた食料を巡って争いが絶えず、その争いをなくすために力ある者が王として選ばれ、力なき者から年貢を取る代わりに、彼らの平穏な暮らしを守るようになった。


 そうしなければ、いつまでも各々が身勝手に食物を奪い合い、けっきょくは共倒れになっていたことだろう。


 しかし、それでも争いはなくならず、わたし達は絶えず戦の脅威に晒されている。


 冬将軍の御加護というべきか、深い雪に覆われた冬の間はなんとか平和が保たれているものの、雪が融け、暖かくなると、南から異民族が食料を奪いにやってくるのだ。


 彼らは〝アンゴルモア〟と呼ばれる遊牧の民で、馬と弓の扱いに非常に長け、やたら滅法に戦が強い。


 対して国全体が貧しく、鉄の武器も足りてはおらず、民も方々に散り散りになって暮らしているわたし達の国では、戦ったところでとてもアンゴルモアの民にはかなわない。おまけに王都は遠く離れた位置にあるので、王軍に応援を求めたとしても到着した時にはもう手遅れだ。


 そのため、彼らの襲撃を受けた際、わたしの村では太陽神ソーンツァを祀る広い地下神殿へと全員で逃げ込み、その脅威が去るまでの間、じっと身を潜めて耐え忍ぶようにしていた。


 当分食べていけるだけの食糧と家畜も一緒にである。


 その地下神殿というのはとても古いもので、伝説では例の超古代国家の時代に造られたとも云われ、見たこともない灰色の一枚岩のような素材で壁や天井はできていた。


 確かに超古代の遺産と云われてもおかしくないくらいとても頑丈で、さすがのアンゴルモアの民でも中へは侵入してこられない。


 その中央にある円筒形をした大聖堂には、太陽神ソーンツァの分霊であり、万物を創り出した元素エレメントの宿ると云われる天をも突く巨大な御柱みはしらがそびえ立っており、戦禍を逃れて隠れる時ばかりでなく、祭礼の時にはこの御柱の前に来て太陽神に祈りを捧げていた。


 その御柱の根元はさらに地下深くまで開いた深い穴の底にあり、大聖堂からでも窺い知ることができない。


 このようなもの、いったいどうやって造ったのだろう? どう考えても今のわたし達には不可能な偉業であり、これもまた、超古代国家の実在を示す一つの傍証といえるであろう。


 ともかくも、そんな地下神殿と太陽神ソーンツァの御加護の賜物で、度重なる野蛮なアンゴルモアの民の襲来にもわたし達は誰一人命を落とすことなく、地上の村に残してきたわずかな食物を奪われるだけで生き長らえた。


 ところが、ある年のことだ……。


 

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