第34話 山本美鈴捕獲命令

「すみません、この腕のテープを外してくれませんか」

「え、ええ。ごめんなさい」

真由美は、男を開放しながら考えた。


もし、山本美鈴が自我を持ったAIを制御出来ているなら、あのスーツの機能を使う事はあり得る!

逃げられでもしたら責任を追及され間違いなく私はクビだ。

山本美鈴が暴走しているのか正気なのかは解らない。

目の前がスッと暗くなる。

手の平から何かが零れそうになる。

だめだ、昔から悪い方へ考える癖がある。

真由美はグッと拳を握りしめた。


状況を考える! 運の良いことに昨日から渡辺はいない。本社に出張だ。

そうだ! 事を収束すればいい!

山本美鈴を何が何でも捕獲する!


真由美が解放した男は、他の男たちのテープ外すのに必死だ。


「皆さんこれは緊急事態です。よく聞いて下さい」

男たちが、顔を真由美に向ける。

「山本美鈴はプロトタイプスーツのリミッターを解除している可能性があります!」

周囲がザワっとした。

「山本美鈴は私に扮し、貴方達に罠をかけて気絶させ逃げたのではないかと推測します」

隊員たちもスーツの噂は聞いている。軍事転用可能なスーツとは聞いているが、詳しい機能は把握していない。

「でも、我々は山本美鈴を見ていません」

「貴方たちが見たのは、私にモーフィングした山本美鈴です! あのスーツは色んな変身機能がついているんです!」

男達は顔を見合わせる。

「そんなことが?」

「いいから、ここをすぐに開けて!」

男達はあわててドアをこじ開ける。


真由美はロッカー脇にある非常用電話を確認すると、全館放送モードにした。

『緊急放送! 山本美鈴が脱走しました! スーツのリミッターを切られ全機能が作動しています! 直ぐに捕獲してください!

 繰り返します! 山本美鈴が脱走! 捕獲してください! 胸部以外は破壊しても構いません!

 繰り返します!――』


美鈴と西門は、地下1階と1階の間にいる。

全館に放送が流れ、二人にも聞こえていた。

「とうとうバレましたね」

美鈴は絶句していた。

一番ショックだったのは、田中が放送していたからだ。

『胸部以外破壊してもいい』って、人を何だと思ってるんだ。

これで、捕まったら本当に終わりだ。


エレベータは、まだ4階にいる。

頭上から幾つかのブーツ足音が響き渡っている。

間違いなく応援部隊だ。

ワイヤーが引っ張られ、一機が動き出した。


恐らく地下1階で止まるはず。

目の前を通過する。

予想通り地下1階で止まり、中の隊員たちの声と足音が聞こえる。

ピートが走っていった方向へ移動している様で、直ぐエレベータは動き出しまた4Fへ移動していく。

多分増援部隊が乗ってくるな。

二人は上の様子を伺っていた。

もう一機も降りてきた。

美鈴の目の前を通過。

その時エレベータの天井の蓋が若干開いて、小さなカメラが覗いているのを美鈴は見逃さなかった。

「西門! 壁にへばりつけ!」

その途端、エレベータ内から一斉に撃ってきた!

銃弾の雨の中、西門を確認する。

アトラクションを楽しんでいるような表情だ


[エル]! 今何パーセント!

>今、約65%マデ回復シマシタ


しまった。位置がばれてしまった。ピートが囮だって事もバレてしまったのだろう。

二手に分けさせただけでも、ピートは役にたってくれた。


銃弾はまだ飛び交っている。

[エル]格闘モーションへ!

>ハイ。モード移行シマシタ


西門がリュックの中から、備品で持ってきたペンチやハンマー等の道具をエレベータの天井にポイポイ投げ始めた。

何をやっているんだ、あいつは。

その一つが、エレベータの蓋に当たり、蓋が跳ね上がり中が見えた。

しめたと言わんばかりに、手榴弾のようなものを持ち出した。

「西門! やめろ!」

西門はそれを蓋の中を目がけて投げこんだ!

爆発音は無い。凄まじい勢いで煙が立ち込め銃声が隊員の叫び声に代わる。

催涙ガスか。

西門を見ると服で顔を覆い、指で行けと合図している。


美鈴はエレベータ天井の空いた出入口に向かって飛び降りた。

周りの隊員は五人。美鈴の下敷きになっているのが二人。

西門が上から様子を見ていると、激しくエレベータが揺れる音と衝撃音が聞こえ、直ぐに静かになった。

少しエレベータが動くが停止し、中から緊急停止のアナウンスが流れてくる。

隊員からガスマスクと無線機を奪い取り、マスクを付けた美鈴がはい出てきた。


>バッテリー残量、約50%デス

えーちょっと! いきなり15%も減るんですか!


西門は慌ててガスマスクをつけた。

「美鈴さんはそれ必要ないでしょう」


ん? そっか。私、息してないから必要ないんだった。

マスクを取り美鈴は無線のスイッチをONにした。

『繰り返す。逃亡者二名はエレベータ昇降路に移動! 発信機はダミーだ!』


やはりバレている。直ぐに行動を開始しなくては。

昇降路側から1階のドアを少し開くと多くの職員がバタバタと走っている。

機材や書類、ノートパソコンも運んでいる。

西門はすかさず例のビニール袋に穴を空け、ドアから1階のフロアに放り出した。

直ぐに煙が充満し、悲鳴をあげながら職員が逃げ惑う。

二人は1階のフロアに飛び出し、二人の研究員を柱の陰に引きずり込み白衣を奪い取った。


そのまま他の職員が表に出ていく列の中に紛れ込んだ。

入口の隊員達が、警笛を鳴らしながら列を作らせIDチェックをしている。


これは不味い。

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