第10話 リハビリ?

次の日から、リハビリがスタートした。

朝、目が覚めると昨日の看護師が部屋に来ていた。


看護師は美鈴が起きたのを確認し、近づいて話しかけてきた。

「おはようございます。山本さん。今日からリハビリを担当する田中真由美です。よろしくお願いします」

「あ、そうだったんですね。よろしくお願いします」

「ちょっと拝見しますね」

田中は美鈴のバッテリー状況を確認しタブレットで何かをチェックしていた。

「これを飲んでください」

栄養パックを美鈴に渡してきた。

車椅子に座らされ、パックを口でチュウチュウ吸ってみた。

おお、甘い。この感覚も久しぶりだ。

「意外に甘いんですね。これ」

看護師はにっこり笑う

「糖分だったら一応大丈夫なので、お菓子なんかも水分と一緒なら問題なく摂取できますよ」

それは良いことを聞いた。

機会があればやってみよう。

「では、行きましょう」


リハビリルームは美鈴の部屋から長い廊下を10メートルぐらい進み、二つ向こうのドアの先にある。

途中の廊下にも窓は無いのがちょっと残念に思えた。

部屋に到着する。

床はフローリングになっていて、壁に手すりがついている。

中央には、歩行訓練用の器具が置いてあった。

美鈴は、昨日寝る前にこっそり練習してみたが、これがなかなか難しい。

田中にフォローされながら一時間ほど頑張ってみた。何とかすり足で二歩が限界ってところだろう。

身体自体は、スーツなので疲労は無いが、なんか精神的にどっと疲れる。

ゆっくりは動かせるけど、思うように動かない感じ。先を考えると辛さを感じる。

とりあえず休憩。椅子に座ってみた。


田中が美鈴に声をかける。

「焦らなくていいんですからね。ゆっくり頑張りましょう!」

「あ、はい。ありがとうございます」


なんかいい方法ないのかな


>モーションデータヲ検索シマスカ? YES/NO

モーションね。顔は出来るけど、歩けるのかな。とりあえずやってみるか。YESで。


>歩行モーション検索中――2001パターンアリマス

美鈴が目を閉じると大量のモーション画像が表示されている。

んー普通の女性のものだけ、できる?


>検索項目ヲ追加。100パターンアリマス


リストをじっくり見る。

これなんか凄く自然だ。昔の私の歩き方のような感じもする。

これにする。


>インストール完了シマシタ


さて、上手く歩けるか? どれどれ?

ごく自然に、ヒョイと美鈴は立ち上がる。

なんだこれ。

田中は向こうでデータを打っている。

呼んだ方が良いか迷ったが、一人でやってみることにした。

よし、ちょっと歩いてみよう。


歩けるには歩ける。

が、非常にぎこちない感じがする。

さっき見たのと全然違う、なんか変だな。このカクつく感じが。


>モーション補正完了シマシタ

ん?

急に、スッと歩けるようになった。

おお! 普通だ。嬉しい!

普通のことが出来るって大切なんだ!


「山本さん!?」

田中が飛んできた。

「どうしたんですか! 急に、普通に歩いてましたよ!」

あれ? やばいか。

「いや、なんとなく力を抜く感じにしてみたら、すっと歩けて」

田中が、じっと顔を覗き込み、

「ちょ、ちょっと、技師に見てもらいましょう!」


なんだ、この迫力は。

男の技師が飛んできた。

慌ててタブレットを持ち出しデータを確認している。

「すごい! シンクロ率が100%になっている!?」

「一体どうやって? さっき練習し始めたばかりなのに」

「いや、なんでしょう。おかしいですね」

なんか、まずい事に。


>ダミーデータヲ使用シマス

田中と技師は、その途端がっかりした。

「だめだ、シンクロ率30%まで落ちました。でも一時的なものかもしれません。様子を見ましょう」


やっぱり、なんか不味そうだ。

これはバレない様に、ゆっくりとリハビリが進んでいる様にしないと駄目だな。

正直目立ちたくない。

田中と技師が戻っていくのを確認し、下手な振りを暫く続ける。

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