難民掘削師、ソウ――二

 俺たちはサバイバルナイフとパン、水を持って鍾乳洞を目指す。

「寝袋とかテントはいらなかったのか?」

 オモタッカーが聞く。

「泊まり込みで探すつもりかよ」

 そう言って笑うが、やはり元気が無さそうだ。

 事例書を手に、農穴という名の畑や果樹園、植物園の穴に入る。こんなデートスポットに男二人とい絵面は思った以上に目立つ。


「どうだった? 金は返してもらえそうか?」

「いや、それは諦めたよ。逆恨みが怖いからな。それより新しい生活について考えなきゃ」

「お前はいつも前向きだな」

「それが取り柄だからさ。バウム国を勧められたよ」

「バウム国って?」

「あの埋め立ててつくった新しい国さ」

「あそこか。まぁ住んでみる価値はあるかな」


 新しい国はきっと横から下から、しっかりと犯罪なんかを監視するだろうから。

 俺もそろそろ外に出る時期だし、行ってみようかなと考えているとオモタッカーが俺の肩を掴んで勢い込む。

「い、一緒に暮らさないか!」

「それいいな」

 俺は二つ返事で応える。女性恐怖症が一人で暮らすのは苦しいと、前回シェルターから南国に出た時に身をもって知っている。そうかと言ってこのままでいいとも思っていない。

 お互いにテンションが高いままどこかの鍾乳洞に出た。

 さらにテンションの上がるオモタッカーを尻目に、俺は相手が地底人だという事を思い出した。

「ここ二十八階だもんなぁ。いよいよ出そうだな」

 オモタッカーがウキウキとして言う。

「俺ちょっと後悔してるよ。帰ろうぜ?」

「え?! 待ってくれよ。一目でいいから犬猿を見たいじゃないか」

「俺も見たいけどさぁ……」


 その時、前から歩いてきたスーツの男が声を掛けてきた。

「あの、犬猿をお探しなら近くにいますよ。目の前の道を右に少し行くと見えると思いますから。あぁ、それと、犬猿は優しいので大丈夫ですよ」

「どうも、ありがとうございます」

 少しよれたスーツには白い毛が疎らに付き、黒いカバンを肩から掛けている。

 こんな鍾乳洞にスーツで現れたことが不思議だったが、すぐに誰か分かった。もう三年以上もシェルターを出たり入ったりしている常連だ。

「ソウ。この奥に会社なんてあるのか?」

「無いよ。あの人はいつもスーツなんだ」

「へぇ。でも犬猿は優しいんだって! 良かったな! 早く行こう!」

 二人で岩陰から覗き見ると、そこに犬猿はいた。

 そいつがいる場所には申し訳程度の裸電球があるだけなので、白いかどうかは見る事ができない。でも人間より少し体が大きく、口が出っ張っている。コウモリが左腕に一羽ぶら下がり、丸い果実のような物を一緒に食べている。

俺たちは声をひそめて喜び、犬猿と目が合うと夢中で走って逃げた。

 犬猿とコウモリでも、国が違っても友人になれる。外へ出るのには言葉が覚束ないだけだ。

 しばらくして俺たちは建国を待たずにバウム国へ出る。

 俺が男性恐怖症まで患ってシェルターに戻ったのは三日後だった。

 言葉の理解が間違っていた事に気付かなかった俺が悪いのかもしれないけれど。


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