訳あり男爵令嬢の朝活バラッド

マルコフ。

第1話 立派な鎧の騎士よ

「はあ」


女の艶めかしい吐息が夫婦の寝室にこぼれた。

その息を絡めとるように男がそっと女に口づける。

月の光がほのかに差し込む薄暗い部屋のベッドの上で重なる男女の影がぼんやりと浮かび上がった。


「あっ…ん…アイガンさ、まぁ」


優しい口づけは次第に荒々しさを増し、いつの間にか角度を変えて深くなっていく。唇や舌を吸い上げられ、噛みつくように食まれる。


女の自分の声とは思えないような恥ずかしい嬌声も、すぐにくぐもった音に変わる。


「いいか…?」


短く問われる声は欲望に掠れて、いつもよりもずっと色気がある。

男の低い声は女の心を刺激してより激しい快楽へと導く。ただし、女の表情は先ほどから変わらず無だ。目も必死に閉じているので、感じているのかは声のトーンを聞かなければわからない。

こくりと小さく頷けば、男が苦しそうに眉根を寄せた。


「返事は言葉にしてほしい」

「大丈夫、です…ただ、服だけは絶対に脱がないで」

「どうして、お前はいつも―――っ」


男の唇が深く開いた襟ぐりからこぼれた胸元へと寄せられ、そのまま口の中へと納まる。片方の手は寝間着の中にもぐりこませ、もう一つの胸を直にわし掴みにして捏ねた。


「ああっ…やあぁッ」


突然の刺激に、細い腰がビクンと跳ねて、覆いかぶさる男の腰に押し付けられた。男の誇張した股間はすっかり出来上がっているが、寝間着のズボンの下で窮屈そうに張りつめている。


女の手は決して男の肌を掴むことなく、腕をあげて柔らかな枕を握りしめるだけだ。そのことに男の心の内は激しく傷ついていくが、愉悦の中にいる女は知る由もない。

そのまま、行為は続けられていく。


女は全裸になるが、男は寝間着を着たままに―――。



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