4話.握った、握られた。

 「夜も遅いし、送ってあげるよ。」

 千花ともっと一緒にいたいという気持ちは私の胸の中に押し込んだまま、少しでも一緒にいようとそういつものように提案した。そして多分いつものように千花を家まで送ってあげることになるだろう。

 「あ、うん、ありがとう。」

 そう千花は無愚な笑顔で返事をしてきた。あの笑顔さえあれば何だったしてあげられるような気がする。

 「じゃあ、行こうか。」

 そう言いながら私は大学合格祈念に親から買ってもらったコートを着て、千花が誕生日プレゼントとして私にくれたマフラーをしてから外に出た。

 「まだ11月なのにもうすっかり冬って感じだね?」

 そう言った千花は少し薄着でちょっと寒そうに見えた。

 「じゃあ、マフラーでもあげ..」

 まで言った瞬間に私のコートのポケットに手を入れて私の手を握った。

 「いや、これでいい。」

 千花はそう淡々に言ったけど私は心臓が止まるかと思った。本当に、心臓が止まるかと思った。千花はいつだって唐突だ。いつもこうやって私の心を揺さぶる。千花は本当に悪い子だ。本当に、本当にこんな千花が好きで好きでたまらない私が嫌だ。でもやはりこんな千花が好きで、少し笑ってしまう。これくらいは、これくらい溢れてしまうのはいいよね?



 手、握ってしまった。愛葉先輩はこういうのいやかな。どうしよう。でも、でも女の子どうしだし、先輩だってきっと許してくれる、かな。あ、先輩、今少し笑ってる。よかった。いやじゃなかったんだ。勇気を出してみてよかった。もしかしたらこれから毎日手をつないだまま家に帰れるかもしれないな。そうなるといいな。そうなるようにしよう。先輩はこういうのあまり自分で進んでするタイプではないから、あたしが頑張らないと。

 「先輩。」

 そっと呼んでみた。

 「なに?」

 いつもとちがって少しあったかい返事。

 「ううん。何でもない。手、あったかいね。」

 本当、心まであったかくなるような気分だよ。

 「そう、ならよかった。」

 そういった先輩はあたしにそっと笑ってくれた。

 先輩、あたし本当に先輩のことが好きみたいですよ。もう会って三年もたつのに初めて会った時からあたしの気持ちは少しもかわりません。むしろ先輩への気持ちがだんだんつよくなっていくみたいですよ。


 先輩もあたしと同じ気持ちであればいいのに。

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