第2話 ここは日本か異世界か

「ちくしょう!ここもダメか!」


家を飛び出した俺は美菜が言っていた日本刀を売っている店、田丸商店へ向かおうとしていた。しかしその道が破壊された家の残骸で通れなくなっているのだ。


「となると少し遠回りするしか・・・」


俺が足を向けたその時、ライトニングパンサーが動き出した。どうやら見つかった人がいるらしい。俺は今のうちにと走り出す。しかしライトニングパンサーはあきらかにこっちへ来ている。


「って狙いは俺かよ。」

「ガルルルル・・・」


ライトニングパンサーが飛びかかってくる。もちろんまともに受けては死ぬので裏路地を使ったりしながら逃げ続けた。ってか俺、こんなに足早かったか?人は死と隣り合わせの時普段以上の力を出すとはよく言ったものだ。


「やべえ!こっちは行き止まりだ!クソッ!」


なんてことを考えていたら袋小路に入ってしまった。慌てて引き返すも


「マジかよ・・・」


出口にはやはりライトニングパンサーがいた。


「ガアアアアア!」

「うわ!」


ライトニングパンサーはいきなり飛びかかってきた。とっさに避けるも左腕をやられた。幸い動くが、とてつもなく痛い。


「ひきこもりの弊害かよ・・・痛えなちくしょう。」


(だが、かわしたことで袋小路からは脱出出来た。ここから田丸商店までは遠い。なら・・・)


俺は廃材置き場へ走り出した。あそこなら武器があるかもしれないし、最悪ライトニングパンサーをやり過ごせる。俺はなるべく曲がりくねった道を選びながら廃材置き場へ走った。ライトニングパンサーは・・・あれ?追いかけてこない。まさかと思って振り返ると口を開けてそこで金色の玉を作っている。


「おいおい。魔法も使えるのかよ!」


ライトニングパンサーの大技、雷豪球。タイクエでは最高級の防具を装備したプレイヤーですら瀕死に追い込まれ、麻痺で動けないところをやられるというタチの悪い技だ。


俺は慌てて斜線から外れて逃げ回る。しかしもう体力が限界で足が重い。なんとか廃材置き場にたどり着いた時にはもうヘトヘトだった。


「なんとか撒いたな。しかしよくあの痛い中動けたよな。ってあれ?あんまり痛く・・・ない?」


グロそうで見なかった傷を恐る恐る見る。するとなんと爪で引っ掻かれた跡こそあり、少し血を流しているものの、重傷は負っていない。


(あの感じ。骨ごと削られたと思ったんだけどなあ。まあ傷がないならそれでいいか。)


俺は廃材置き場に入り、何か役に立ちそうなものを探す。しかしガラクタや、角材ばかりで戦闘に役立つものはなかなかない。粗大ゴミのエリアを漁りながらイライラしていると、


「これら。使えるんじゃね?」


トンカチやノコギリ、チェーンソーといった工具が捨てられている。


(ライトニングパンサーに中途半端な打撃は効かない。でもノコギリのような薄い刃じゃ折れちまう。お。)


「これは・・・ナイフ?」


ナイフのようなものを見つける。他にも錐やバール、ハンマーなど使えそうなものを頂く。


「勝てるビジョンがねえ。弱点の喉を狙ってやったダメージが少し入るかどうか・・・」


後ろで大きな物音がしたので振り返ると、ライトニングパンサーが追いかけて来ていた。


「さてと・・・奴が雷豪球を作ってる時に喉へ一撃入れてえけどなあ」


ライトニングパンサーが雷豪球を放つのは相手が離れている時で、かといって離れすぎると間に合わずモロにくらって即死だろう。しかもゲームと違って俺はそんなに動けない。


「それでもやらなきゃならない時はある、か。」


ライトニングパンサーが大きく口を開ける。その瞬間、俺は駆け出した。そして雷豪球が大きくなった時なんとかライトニングパンサーの足下に着く。


「まずは錐!」


喉元へ錐を刺す。しかし刺さりはしても浅く、ダメージはないようだ。


「ならバールで!」


俺は錐の持ち手をバールで全力で押し込む。


「ガアアアアア!」


雷豪球は口で爆発し、ライトニングパンサーにダメージが入った。俺はその隙にハンマーでもう1つの弱点、脳天を狙う。


「そおおい!」


俺は思いっきりハンマーを振り下ろした。


「あ。」


しかしハンマーの方が根本から折れてしまい鉄の塊が俺の額に直撃する。ライトニングパンサーにも一応ダメージが入りいわゆるスタンをとった。しかし俺も似たような状況になってしまう。


「痛たた。うう。目眩が・・・ちくしょう。」


俺がよろけていると、


「グルル・・・」


スタンから立ち直ったライトニングパンサーは飛び上がるとどこかへ去ってしまった。


「うう。あれ?」


危険が去ったと思うと思わず腰が抜けてその場に座り込んでしまった。


「はは・・・」

「お兄ちゃーん!何処ー!」


美菜の声がする。あいつ。待ってろっていったのに。勝手なことしやがって。


「お兄ちゃん!?」


美菜が気付いて駆け寄ってくる。


「お兄ちゃん。大丈夫!?」

「あ、ああ。ちょっと腰抜けて立てないけど、生きてるよ。ってうわ!」


いきなり美菜に押し倒される。


「危な・・・」

「生きてて良かったよ〜お兄ちゃん。グスッ。死んじゃうかと思ったよー。」

「泣くなよ。俺は生きてるぞ。」

「お兄ちゃ〜ん。」


美菜をあやしながら立ち上がる。


「ほら。もう泣くな。美菜、帰るぞ。」

「ゔん。」


美菜の手を引いて家へ戻る。幸い家は無傷だ。俺は家へ戻ると傷の手当てをしてもらい、そのまま眠ってしまった。



翌朝

俺はヘリコプターのうるさい音で目を覚ました。寝ぼけ眼で時計を見ると、


「10時38分!?学校!遅刻じゃねえか!」


慌てて飛び起きリビングへ向かう。扉を開けるとそこには呑気にお菓子を食べてる美菜がいた。


「あ、お兄ちゃん。おはよう。」

「おい。美菜、学校は!?」

「今日は休校だって。」


確かに。家の東側は瓦礫の山だ。休校になるのもうなずける。


「そういえばさ、お兄ちゃん。」

「ん?」

「昨日のあれ、なんだったんだろうね?」


そんなこと俺が聞きたいよ!でもなんでライトニングパンサーが?俺は遅めの朝食を摂りながら考える。しかし何も答えは浮かばなかった。

朝食を摂った俺は皿洗いをしながら美菜と一緒にテレビを見る。テレビでは昨日のことで持ちきりだ。テレビに出てる専門家は、竜巻だ、などと言っている。あれ?なんか食器、多くね?気のせいか。


「この人たち何言ってんだろ?」

「さあ。正直あの人たちも分からないんじゃないか。ただプロとして分からないって言えないから適当なことを言ってんだろ。」

「ふーん」


美菜がチャンネルを変える。すると


「謎の光。各地で起こる。ねえ。」

「・・・」


そこには俺の家で起きたことと全く同じことが報道されていた。

そんなニュースを眺めているとインターホンが鳴る。


「お、来た来た。」

「またなんか頼んだのか。やれやれ。取ってくるよ。」


俺は印鑑を持って玄関へ向かう。ドアを開けると真っ先に頭を下げる。


「いやー。こんな危ない時にわざわざすみません。」

「は?何言ってんだ翔太?」


聞き慣れた声がしたので顔を上げるとそこには両手に大きなビニール袋を持った明と茜がいた。


「なんでお前らここに?」

「なんだ。美菜の奴言ってないのか。」

「何を?」

「それはねお兄ちゃん。」


美菜の声がしたので振り返る。


「なんだ?美菜。まさか2人をパシリにしたのか?」

「違う違う。今日からしばらく家に2人を泊めます。」

「ってことでしばらくの間よろしく!」


「はい?」


状況を理解できない俺を置いて明たちは家の中に入っていった。





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