学校一の美少女が死んだので過去に戻って、彼女を殺した犯人を見つけます。〜俺と犯人を探す相棒はドSでうざったい〜

神崎夜一

第1話 わかった。これは夢か幻か現実なんだね


教室の真ん中には1人の少女がいた。

不自然に後ろや横に寄せられた椅子や机。黒板には血飛沫の後。窓から入る風が少女の制服を靡かせている。

少女は腹を裂かれていて、大量の血が教室に広がっている。俺はその場に佇むしかない。足が動かなくて呼吸が荒くなっている。過呼吸で倒れそうだ。それもそうだ、今まで人が刺されていることを見たことがなかったのだ。動揺するのも無理もない。

遠くで見る限り、少女は目を見開いて瞬きもせず、光のない目をしている。横には果物ナイフ。そして、何か紙が置かれていた。外の風にあてられ、目の前までその紙が流されてくると俺は折り畳まれた紙を広げ、中には『犯人を探して』とそれだけ書かれてあった。



俺は目を覚ますと最初に聞こえたのは生徒の質問の声、そして視界がはっきりとしてくると前の席の矢野だったかの背中。要するに授業中だ。先生が黒板で授業をし、生徒が発言したり、ノートに写したり、寝てる生徒もちらほらいる。どこにでもある平凡な授業風景。だが、違和感ある。血塗られた教室、1人の少女、犯人を探してとのメッセージ、それが201というこの教室であったのは間違えない。先程までの光景は夢だったのだろうか、それとも幻想か?はたまた妄想か。いやどれも違うだろう。あの五感で感じたすべてのことは夢でも幻でもないのは確信できる。自由に移動できた昨日の1日。いつも通り1人で過ごしていた日常。朝起きて、昼も食べ、いざ放課後になったら殺人現場があって、気づいた時には授業中で寝ていたのだ。それが現実でなければおかしいのだ。夢で自由に動けるか?そんなことはできるはずがない。そんなことができたのなら好き勝手やらせてもらう。でも、現実を遥かに凌駕したことが起きたのだ。冷静によく考える必要があるだろう。

俺は周りを見渡す。するとやはりその少女はいた。黒髪を伸ばし、凜然とした雰囲気を纏う少女だ。鋭い目を刺す少女は学校1、2を争う美少女。あの血塗られた教室に刺されていた少女だ。いるはずのない少女は真面目に黒板に書き出された文字をノートに写している。

さて俺はここからどうするものか。素直に犯人を探す?あれが本当だったのかもわからない。もしこのまま探して逆にクラスで浮くということもある。もう浮いてるかもしれないが。でもあれは確かにあった現実だと思う。この違和感を拭うためには犯人を探すことから始めてみるか。少女を殺す犯人がこの学校に居るとは思わないが、まぁ暇だしやるか。



俺は榊原夜一(かんざきよいち)。平凡な学校へ行く平凡な男子高校生だ。基本1人行動、友達がいないことを除けばだが。俺は廊下を歩きながら、昨日のことを考えていたが、ある固定概念が崩れた。何と今日は6月12日なのだ。本当は6月20日であるはずなのに一週間も前になっていたのだ。信じられるはずがないが、通りすがる人に声をかけても今日は6月12日だし、スマホも同じ日にちだった。やっぱり過去に戻っている。でも何故過去に戻るんだ?昨日のことが原因である可能性は高いが、そもそもの根本の原因が何かわからない。少女を助ける??名前も知らないのに何故俺がその使命を期せられるのだ。他にも原因はあると思うが、ひとまず犯人探しだ。俺はとりあえず昨日の少女に声をかけることにする。声をかけなければ前に進めないはずだ。

俺が教室へ戻ろうと踵を返そうとした時、声がかかった。


「あなた、ちょっといい?」


それは凛とした声で、ショートカットで茶髪の少女だった。



少女に連れてこられたのは体育館裏だった。周りには誰1人おらず、静寂の時間が流れる。まぁ、誰にもいない場所というのは体育館裏しかないのだろうからこの少女もそれが目的だろう。今まで話したことがない俺に何の用があるのか色々と考えていると前に立つ少女は口を開いた。


「ねぇあなた...」


何かを警戒しているような目線。


「昨日のこと覚えている?」


こいつももしかしたら昨日のことに違和感があるのかもしれない。他の生徒に聞いても6月11日のことを言うだけで昨日に疑問を抱いている奴は居なかった。こいつは俺と同じなのか?


「えーと」


い、いや、待てよ。ここは慎重に言うべきだ。こいつがあの日の犯人って言う可能性も無きにしもあらずなのだ。


「あ!あれだろあれ!うちの担任の春日部がテスト中に寝ちゃってカンニングし放題だったよなー」


「違うわよ!!」


6月11日に目立った出来事を言ったつもりが、こいつは違うと言った。それで2つの可能性が上がった。1つは少女を殺したのがこいつ。そして2つ目が昨日のことを覚えている。いや、それなら何故俺に声をかけてきた。他の生徒にも、こうやって誰にもいない場所で聞いて回っているのか?それなら不思議ではないが。だとしてもだ、昨日のことを否定するメリットは何だ。ただ俺の返答に不自然なことはなかったはずなのだから、適当に返事して肯定しておけば良かったはずだ。まぁ、考えてもよくわからないので返答するか。


「どういうことだ?名前はわからないが同じクラスだよな?それならわかると思うが」


聞いてみたら凄い形相でこちらを向いてきた。目が怖い。


「あくまでもしらを切るつもりのようね。わかったわ。こちらにも考えがある。これから先生に言ってもいいのよ??」


意味がわからな過ぎる。話の概要が見えていない。この少女は確かに昨日のことは覚えている可能性が高い。そのことで俺に聞いてきて、俺の返答に違和感があったのだろうか。まさかこいつはあの現場に居合わせたのか。それならここまで言うことに合致する。疑われているのか?俺が少女を殺した犯人だって?この少女にしてみればあの現場に居た俺は怪しく見えるがやってないものはやっていないのだ。でもだ。犯人って言う可能性もまだ捨てきれない。何か犯人ではない発言を聞き出せれば。


「待て待て、いきなり何だ、話が全く見えてこない。お前は何が言いたい」


俺のその発言を聞くと前にいる少女は肩の力を落とし、安堵する。


「そう。なら良いわ。今の話聞かなかったことにして」


こいつは犯人探しをしているのか?俺に問い詰めておいて、次にはなかったことにしてときた。間違えてなく昨日の目撃者だ。しかも犯人を探している。俺が本当に何も知らなかったと見れば用無しとでも言うかのように去ろうとする。わざわざ犯人をこんなところに呼び出してお前は犯人か?とでも捉えられる発言をしているのだ危険すぎるにも程がある。だから、俺は昨日のことを話すことにした。


「待て。昨日のことは覚えている。教室に入るとそこには血塗れのー」


「あなた、犯人?」


わざわざそう聞いて、答える犯人がいてたまるか。それにストレートすぎるだろ!


「ってカッター危ないだろ!早くしまえ!俺は犯人じゃない。犯人だったらここでお前に言うメリットはあるか?」


少女は俺を壁まで追いやると顔の前までカッターを近づけてくる。


「それを逆手に取ることも可能性はあるじゃない?」


「違うって、お願いだから向けるなよ。おい、おい、本当にや、やるのか?」


少女は俺の話に聞く耳を持たず、カッターを振りかぶり、すぐさま振り下ろす。


「えぇ、思いっきりね」


「や、やめーーーーーーーってえ??」


俺は目を閉じる。だが、何もなかった。ゆっくりと目を開けるとすでにカッターをしまう少女がいた。


「合格よ。もし犯人だったら反撃していたはずよ。それをあなたは無抵抗のまま、刺されるのを覚悟していた。だからあなたは違う」


「はぁー、はぁー、まさかここまでやるとは思わなかった。死んだらどうするんだよ!」


「犯人だったら別に死んでもいいじゃない?私は何もあなたには危害を与えてないのだから文句は言わないでくれる??」


「そんな理不尽な」


「それで、あなたは昨日何があったの」

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