第34話 やっと解放された!

 私たちはすでに前線基地へと帰ってきている。

 解放軍の私が報告には最適だということで、ケーマとタマ子はテントの外で待ってもらっている。


 さっき戦った宝物ガーディアン戦はあっさりと終った。

 前日に戦った茄子よりは倒しやすかったし、タマ子さんの鑑定スキルで属性や行動パターンが予測できたからまあこんなものでしょう。


 出てきたアイテムも午前中にドロップしたものと同じだったらしい。

 ここまで情報を集められれば今日の探索分としては十分だろうということで、本部に戻ってきたのだ。


 報告はちょうどいま管理をしていた宗太郎さんが担当してくれた。


「わかった。報告ご苦労」

「ありがとうございます」


 机に座り、メモを取っている宗太郎さんに私は深々と頭を下げる。


 相手が宗太郎さんでよかった。

 さっき、ケーマの家で少し眠ったとはいえ、すでに少し眠い。


 圭一さんのような人が報告対象だったら、少し間違えた部分などを根掘り葉掘り突っ込まれるところだ。


 宗太郎さんは、間違えたところも優しく確認してくれた。


「それと、サオリはもう帰っていい。しっかり寝るように」

「え?でも」


 本来であれば、この後、報告書の作成や昨日の門の開放の際の質問に対する回答など、少なからず事務作業が存在する。

 ケーマたちと解散して一度ログアウトしてから、再ログインしてそんな仕事をかたずけようと思っていた。


 宗太郎さんはそんな私の様子はお見通しだったらしい。

 私が驚いた顔をしていると、宗太郎さんはいたずらっぽく笑う。


「ケーマから聞いたぞ? 路上で倒れたんだって? 無理せずに寝ろ」

「あいつ」


 何も宗太郎さんにそんなことを言わなくてもいいじゃないか。


「そう怒るな。あいつはあいつで、サオリちゃんのことを気遣っていったんだから」

「それは! ……分かってます」


 ケーマが私のためを思って宗太郎さんに私の状態を連絡してくれたことはわかっている。

 実際、その説明をケーマが宗太郎さんにしていなければ、自分はこの後もログアウトせず、作業をしただろう。


 徹夜はないにしても、日をまたぐくらいまでは作業をしていたと思う。


 宗太郎さんはそんな私の内心を察してかやさしく微笑みかけてくる。


「まあ、仲良くなっておくに越したことはない。サオリ君は一人でプレイしているからいろいろと大変だろ?」

「……はい」


 私の両親は九龍院の人間として自由労働区で会社を経営している。


 自由労働区と家は聞こえはいいが、まだ人の手が入っていなかった場所に昭和中期あたりの街を再現して今の世界になじめなかった人たちと生活をしている場所だ。

 生活レベルは都会と比べて雲泥の差だ。


 私の両親も、妹と一緒にそこで生活をしている。

 だから、ASOをプレイしているのは私だけだ。


 一人ではいろいろと手が回らなくて大変な部分も多い。


 この前なんて、ホームの掃除がおろそかになってしまい、黒い悪魔を生んでしまった。

 掃除はちゃんとして、ホームの耐久力は元に戻ったが、黒い悪魔はいなくならない。


 昨日、燻蒸型殺虫剤を使って、今日ログインしたときに、「ヤツらを駆逐しました」というメッセージが出たのを見た時には涙が出そうだった。


 これでホームにSキャッシュやアイテムを保管してプレイすることができる。


 最近の大戦果のことを考えていると、少し頬が緩んでいたようで、宗太郎さんは満足げにうなづく。


「明日も一緒に探索するといい。ケーマはそのつもりらしい」

「……はい」


 どうやら、私がケーマたちとのプレイを楽しんでいて微笑んでいると勘違いしたらしい。

 訂正すべきか一瞬悩んだが、事実を知られるよりはそう勘違いしてもらえたほうが何倍もましだ。


 私は少し赤くなった顔を見られないように少しうつむく。


 宗太郎さんはそんな私の様子を見て、席から立ち上がった。


「うむ。では、お疲れ様」

「お疲れ様です」


 宗太郎さんはそういって部屋から出て行った。

 サオリも、宗太郎さんが出て行った後にテントを出て前線基地の外へと向かう。


 前線基地の外ではケーマとタマ子が待っていた。


「報告お疲れにゃ」

「おつかれー。大丈夫だったか?」


 タマ子とケーマが心配そうに私に話しかけてくる。

 私は二人に微笑みを返す。


「えぇ。問題なかったわ。対応は宗太郎さんがしてくれたし。……それと」


 私はケーマのほうを睨みつける。


「私のこと。宗太郎さんに連絡したでしょ!」

「あー。ちょっと心配でな」


 ケーマは少しバツが悪そうに頬をかく。

 まあ、私を心配してのことだし、にらみつけるのも悪いかもしれない。


 おそらく、わざわざ報告を宗太郎さんが聞いてくれらのも、ケーマが事前に連絡していてくれたからだろうし。


 私は一つ溜息を吐く。


「宗太郎さんにもくぎを刺されたし、私はこれでログアウトするわ」

「おう。おつかれー」

「おつかれにゃー」


 タマ子とケーマが見守る中、私はホームへの転移を発動した。

 私が転移するまでタマ子とケーマはずっと手を振り続けてくれていた。


 ホームに転移する。

 そこは落ち着いたワンルームの部屋だ。


 今までは転移してくると逃げていく黒い悪魔がいたのだが、今日は何もいない。


 ホームの中を確認したが、アイテムもSキャッシュも減っていない。

 どうやらちゃんと黒い悪魔は退治できたらしい。


 私は満足げに一つうなづくと、軽くホームを掃除をしてからログアウトした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る