[2] 下部シレジア作戦

 スターリンがベルリン進撃の中止を決断したことで「最高司令部」は各戦線の状況と攻勢計画を再検討した。その結果、「最高司令部」はベルリン進撃への望みを残しつつも攻撃軸の「側面」―南北翼の掃討を目指すことにして次の二点を定めた。

 1つ目はベルリン進撃路の両翼に対する掃討作戦である。これはすでに3つの作戦が立案されていた。すなわち下部シレジアニーダーシュレージェン作戦、上部シレジアオーベルシュレージェン作戦、ポンメルン掃討作戦である。

 2つ目はドイツ軍によるオーデル河防衛線の強化を阻止するため、防衛線の側面に対する縦深作戦となる。すなわち東プロイセンのケーニヒスベルクとザムラント半島に対する掃討作戦とハンガリーにいる南方軍集団に対する掃討作戦である。

 これらの側面掃討作戦は2段階で実行されることになった。第1段階はベルリンへの進撃が中止された直後の2月に開始する。今後の進撃に対して最も切迫した脅威を除去するためだった。第2段階はベルリン攻略作戦の序奏として、3月に実施する。

 スターリンは戦線の北翼に形成された間隙を懸念してベルリンへの進撃を中止したが、戦線の南翼も安全ではなかった。スギエルの西方から南翼のラティボルに向かって広大な正面を突破した第1ウクライナ正面軍はケーベンとブレスラウの南翼でオーデル河に橋頭堡を確保していたが、ハンガリーから来た友軍に支えられた中央軍集団の抵抗は頑強だった。また、シレジア地方の首都であるブレスラウをヒトラーが「要塞フェストゥンク」に指定したことで防備を固めるべく部隊(第169歩兵師団など)が集結していた。ブレスラウの「要塞」が今後、第1ウクライナ正面軍の作戦行動に対して大きな障害となることは明らかだった。

「最高司令部」がベルリン攻略作戦を遂行するに当たり、第1ウクライナ正面軍が兵力を北に転じて第1白ロシア正面軍の支援を可能とすることが必要だった。第一ウクライナ正面軍に対して下命された下部シレジア作戦(2月8日に開始)は北翼の第1白ロシア正面軍と協同してベルリン進撃を見越したものだった。だが第1ウクライナ正面軍が北翼に転進を行うためにはブレスラウの「要塞」を無力化し、ケーベンにあるオーデル河の橋頭堡を拡張しない限り不可能だったのである。

 2月8日、第1ウクライナ正面軍は下部シレジアニーダーシュレージェン作戦を開始した。第3親衛戦車軍と第4戦車軍がケーベン橋頭堡から出撃し、中央軍集団の抵抗を排除しつつ西に向かって進んだ。その間に第5親衛軍(ベロボロードフ中将)は2個親衛戦車軍団(第4・第31)の支援を受けながら、ブレスラウの南を西に向かって進撃した。

 2月12日、第1ウクライナ正面軍はブレスラウを包囲した。8万を越える市民が市街地に閉じ込められた。次第に同市が「要塞」として持ちこたえるだろうということが明らかになり、コーネフは麾下の各軍に対してブレスラウを包囲したままオーデル河の南を流れるナイセ河に向かうよう命じた。

 ブレスラウに対する包囲戦はずっと長引いて最大の惨状を招いた。結果としてベルリン陥落後も同市は持ちこたえた。包囲された市では食糧は十分に備蓄されていたが、弾薬がほとんどなかった。ドイツ空軍は弾薬の空中投下を試みたが、保有機を損耗させる結果に終わった。そこで中央軍集団司令官シェルナー上級大将は2月末、第25降下連隊をパラシュート降下させて守備隊を増強する決定を下した。連隊長は降下ゾーンがないという理由で激しく抗議した。

 2月22日、第25降下連隊がベルリンの南に位置するユターボークでJu52輸送機に搭乗した。輸送機は真夜中にブレスラウに接近した。落下傘兵の1人が後に「市内にさかんに燃え広がる火が見え、我々は激しい対空砲火に迎えられた」と書いている。無線機が被弾して地上との連絡が途絶し、編隊は引き返してドレスデン付近の飛行場に着陸した。

 2月24日の夜、第25降下連隊は同じ試みを繰り返した。着地点を見つけようと燃える市街の上空を20分間旋回したが、ソ連軍の対空砲火はさらに激烈だった。3機が失われた。その1機は工場の煙突に衝突した。

 第1ウクライナ正面軍は同月25日までにナイセ河に到達した。ここからベルリンの南翼を衝くことが可能になる。オーデル河とナイセ河の合流地点で同正面軍は第1白ロシア正面軍の南翼と連結した。

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