第47章:ベルリンへ

[1] 国境を越えて

 第1白ロシア正面軍はドイツ軍が1939年の侵攻で占領したポーランド西部を通ってオーデル河に向けて追撃に入り、ドイツ軍の陣地と反撃を撃破していった。ジューコフは2個戦車軍に敵の抵抗拠点を回避して、1日70ないし100キロの速度で前進せよと命じていた。戦車部隊は薄暮がせまっても進撃を停止せず、暗闇の中を突進した。ある指揮官はこう説明した。

「暗い方が戦車の損害は少ないし、わが戦車の夜間出撃は敵の恐怖の的となるからだ」

 A軍集団司令部は崩壊した戦線を立て直そうとした。「大ドイツ」装甲軍団(ザウケン大将)が「現状を回復せよ」という命令を受けて東プロイセンから列車で運ばれ、同月16日にロズに到着した。第1降下装甲師団「ヘルマン・ゲーリング」も翌17日から反撃に参加したが、その相手は第11戦車軍団の先鋒と第8親衛軍の一部だった。

 1月19日、第8親衛軍はマグヌシェフ北西130キロの位置にある工業都市ロズを見渡せる地点に到達した。予定より5日早かった。第9親衛軍司令官チュイコフ大将は第1白ロシア正面軍司令部と協議せず、独断で同市に対する攻撃を決意した。その朝、攻撃のために展開した狙撃部隊が友軍機の誤爆で至近弾を受けたが、第8親衛軍は夕刻までにロズを無傷で占領した。第2親衛戦車軍の先鋒がロズの北で「大ドイツ」装甲軍団の後続列車を爆破した。

 第1降下装甲師団「ヘルマン・ゲーリング」、「ブランデンブルク」装甲擲弾兵師団に2個装甲師団(第19・第25)の残存部隊からなる集団がロズの南翼に防御陣地を構築し、バラバラになった歩兵部隊を救出しようとした。第48装甲軍団を基幹とする敗残兵の一団は第1白ロシア正面軍と第2白ロシア正面軍の境界線にほぼ沿った進路を選んだことが幸いして、大規模な戦闘をなんとか回避していた。第48装甲軍団長ネーリング大将は短時間の無線連絡で、「大ドイツ」装甲軍団が合流を試みていることを知った。

 1月21日、第48装甲軍団と「大ドイツ」装甲軍団は濃霧に紛れて合流に成功した。合流を果した2個軍団は前進してくるソ連軍を分断して、はるか西方に後退してしまったA軍集団の前線にたどり着こうと絶望的な生き残り作戦を続けた。

 1月25日、第1親衛戦車軍はポズナニに到達した。この都市はマグヌシェフから北西120キロの地点にあった。第1親衛戦車軍はジューコフの指示に従い、オーデル河に向かって前進した。ポズナニはすぐ後から追随中の第8親衛軍に委ねられた。しかしポズナニはロズのようにはいかなかった。同市には6万人のドイツ軍守備隊が展開しており、ヒトラーから「要塞」都市に指定されていた。ポズナニにおける市街戦は将来のベルリン攻防戦を予感させるものになった。

 ドイツ軍の指揮系統はソ連軍の進撃の勢いに全く対応できていなかった。前夜の敵状報告は午前8時に各軍集団司令部に届く。その情報をOKHが要約して、昼の作戦会議に間に合うように作戦用図を作成する。この会議はかなり長く続く。グデーリアンの副官はある会議が七時間も続いたことを記憶している。そのためヒトラーの指示に基づいて下達される命令が前線部隊に届けられるのは、戦況報告を出してから24時間以上も経過した時点のことになる。

 グデーリアンは相変わらず「大ドイツ」装甲軍団の移動に関するヒトラーの決定に異を唱えていたが、今度は第6装甲軍が新たな火種になった。ヒトラーがこの日に同軍をハンガリーに移動させるという決定を下すと、グデーリアンはベルリン防衛に不可欠な戦力であるとして抗議した。ヒトラーは次のように答えた。

「貴官は(戦車部隊や航空機が)ガソリンなしで作戦行動が出来るとお思いか?」

 第1白ロシア正面軍は1月第3週を通じて、北西への進撃を続行した。ほとんど全てのソ連軍兵士が1939年以前の旧国境線を越えてドイツ領に入った時の感激をまざまざと記憶している。第3打撃軍のある兵士は回想する。

「森から出て前進すると、標柱に釘で打ち付けた板を見た。『のろうべきドイツの地ここにあり』と書いてあった。我々はヒトラー第三帝国の領土に入っているのだ」

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