第7話

「ねぇ、どういうことだか説明してくれない?」


 インディスとの一悶着の後、ソウマはルビアに問い詰められていた。


 その言葉にソウマは狼狽えつつも、


「あ、いや、あれだよ。正当防衛なんだ。オレは悪くない」


と誤魔化した。酷い言い訳である。


「とぼけないでよ!さっきの奴、明らかに知っていたじゃないの!」


「ちょ、ちょっとした知り合いだよ。あのインディスと言うのは冒険者内でもちょっとした有名で…」


「じゃあ、何で二人で争っていたの?」


 その言葉を相変わらず濁そうしたが、それを遮るように彼女の仲間のエゼルミアがなだめるようにこう言った。


「まあまあ、二人共。落ち着いて、喧嘩しちゃ駄目よ」


「だけど、エゼル!この人絶対に何か隠しているよ!」


ーー知られた不味いな、これ


 彼は先程見た謎の男とインディスの目撃を一旦は伏せておいた。


 元より価値観の違いで対立しているインディスはともかくあの二人組は何を考えているか、不明だ。


 けど、わかっていることは一つ。


 彼らも迷宮探索が目的だと。


 あの男は何を考えているかわからない以上、先程の目撃情報のことを言わない方が良いだろう。


「ニー君何か言ったらどうなの?」 


 そうこう言っている間にソウマは適当にはぐらかして逃げようと考えた矢先だった。


「お待ちを聖女殿。貴方はこの者と知り合いのようで、その前にこの者が『黒銀の鉾』のメンバーと顔見知りのようであるな。もしや、貴殿は元は『黒銀の鉾』のメンバーで?」


 竜人ドラゴニュート聖騎士ロードであるアレックスが二人の会話に割って入ったのだ。


 その言葉にソウマは少し沈黙の後、こう答えた。


「ちょっと前に迷宮で一緒に探索した仲ですよ。同じギルドではないですよ」


「ふむ、なるほど…。それでそなたはある程度は迷宮に詳しいのかな?」


 その言葉にルビアははっとなった。


 そう、彼は冒険者なのだ。


 半年前になったとは言え、迷宮入りをしているのだ。


 かのステルベンは50年と歴戦の冒険者であるが、一年間迷宮に挑んでおり、まもなく迷宮制覇を端そうしているのだ。


 もし、彼が末端とは言えど『黒銀の鉾』のメンバーならば、ある程度は詳しいかもしれない。


 しかし、だ。

 

「アレックスさん。ちょっとこの人は…!」


「ええ、一応第4層までは」


「あっ、ちょっとニー君!!自分で何言ってるのかわかってるの!?さっきの話聞いてたの?他の冒険者は私たち以外の冒険者は潜るなって言われているんだよ!」


 その言葉にソウマはムッとした。


「聞いてたよ、けどオレの戒律は『中立』だ。そんなの関係ない。それにこの街の冒険者の多くは『悪』の戒律の冒険者だ。そんなの聞くわけないだろ?」


 珍しくその声に苛立ちが感じられた。


「何よ!謎の上から目線の言い方なんなの!」


「まぁまぁ、二人ともお友達なんでしょ?喧嘩しないの」


 二人の間に入ったのはエゼルミアだった。


 彼女は二人よりも大人びたとても美しい容貌を持ち、エルフ族らしい尖った長い耳に流れるような金色の長い髪におっとりした美女であった。


 彼女は里の司祭になるためにアイワーン国にやってきたところ、聖女が現れた話を聞き、唯一自ら今回の迷宮探索に参加したのだ。


 エルフの里のテセルナード各地点在しているエルフたちの住処であり、一目から隠れるように存在している。


「それにルビアのお友達なら下手な冒険者よりも、親切に教えてくれると思うわ」


「けど、エゼル。この人はね…」


 銀鈴なようなその声はヒートアップした聖女をなだめさせることに少しはできた。


「わしからも頼もう。確かにこやつは何か隠しているが、腕は確かのようじゃな。それにお前さんの知り合いなら少しは信用できるじゃろ。それにわしの戒律も『中立』だ。気にすることはないだろ」


 エゼルミアに続いてそう言ったのはドワーフのヴォンダルだ。


 ヴォンダルは立派な白い髭を蓄えており、がっちりした鎧を身にまとったずんぐりとした老年のドワーフの重戦士だ。


 彼はドワーフたちが暮らす都市からアイワーン王の私兵に雇われた謂わば傭兵だ。


 豊富な戦闘経験を買われた彼はアイワーン王から今回のパーティに選ばれたのだ。


 すなわち、銀級にふさわしい実力を持っているのだ。


「・・・わかった。みんながそこまで言うなら…ごめんよ。ニー君、怒らないからお願いがあるの。途中までいいから貴方の力を貸してくれる?」


 ソウマは先程のやり取りを見ていて、少し鼻で溜息をしたものの、彼女に対する想いからだろうか。


「わかった。オレでよければ喜んで。それからさっきはインディスと別の冒険者が争っていたのをたまたま通りすがったら、あいつに気付かれてこんなことになったんだ」


 それを聞くとルビアは少し心配するように物憂げな表情をすると、ふっと彼に近づいた。


「…もうこんな夜遅くに出歩かないでね…。それから怪我してない?してたら見せて?」


 ルビアは先ほどとは変わってしおらしくそう言った。


「あ、いや。特に。オレも隠していて悪かった。怪我は特にしてないよ」


ーー本当はまだ隠しているけど


「ほんと?でも、一応私回復魔法使えるからかけさせて」


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 そう言って、彼は彼女の回復魔法を受けた。


 僧侶最強回復呪文のヒールだ。


 これは神話呪文と呼ばれ、女神の加護がないと発動できないと言われている。


「・・・これは!?」


「言ったでしょ。私は聖女だって」


 彼女は妙に誇らしげにそう言ってきたので、思わずソウマは苦笑いしつつも、


「これからよろしく」


と言った。


「うん、こちらこそよろしくお願いします」


 ルビアは頷いてそう言い、彼の傷を癒した。


 ここに珍妙なパーティが誕生したのである。

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