第5話 これがファンタジーだ!

 

 やっちまった。カッとして王子を引っ叩いてしまうという暴挙に出てしまった。

 すぐにお城から呼び出しがくるとビクビクして待っていたけど、来たのは次のお茶会の招待状だけだった。


 お咎めないパターン?それともお茶会の会場で見せしめとして糾弾されたりするの?


「どうなるのよ私は〜」

「集中できないから静かにしてよ姉さん」


 お屋敷の庭の広場。

 およよ〜と嘆く私の隣でクラブがピリピリしていた。


「姉の心配しないの?」

「いや、心配だけど今は魔法に集中しているんだよ」


 彼の手にはコップ一杯分の水が浮いていた。


「いいわよね。クラブはもう魔法が使えて」

「まだ下級魔法しか使えないけどね。姉さんだって魔力に目覚めたんだから使えるはずだよ」

「……魔法ねぇ」


 ヨーロッパみたいな街並みで科学技術的には現代日本に及ばないこの世界でそれなりに快適に過ごせている理由がこの魔法だ。


 魔力あれば魔法が使える。貴族達はその魔法を使って民の生活を守ったり豊かにするから相応の地位にいる。

 その血を、魔法を絶やさないために貴族達は魔法使い同士で結婚をする。だけど、何代も魔法使い同士で交わると濃くなり過ぎるため外部や一般人で魔力を持っている者は重宝される。


 これがゲームの説明。原作主人公ちゃんはこの条件に当てはまっているから目立つし、注目の的になった。

 シルヴィアは魔力に目覚めても家系的には魔法使いの血筋だからそんなに重要視されない。

 一部では後天的に魔法使いになったシルヴィアを魔法の勉強が遅れていると陰口を言うキャラまでいた始末。そりゃあシルヴィアが主人公ちゃんを恨んだりクラブを憎むわけだよ。

 この私はそんなこと思わないし、むしろ魔法使えるようになってラッキー!ぐらいにしか考えていない。


 魔法。これを極めれば私にも人生の幅が広がるかもしれない。

 シルヴィアの強さはゲームだとそこまで強くなくてただ存在が厄介だったけど、それを鍛えて強者になれば

 反逆のクラブやジャックに取り押さえられることなく、追放されても食いっぱぐれない。

 処刑エンドだって魔法による有能性を証明すれば投獄ぐらいで勘弁してくれないかなぁ。

 そもそもそんな悪事をするつもりは無いんだけどね。


「ねぇクラブ。魔法ってどうやって使うの?」

「まずは自分の属性を知らないとね」


 属性。ゲームでの戦闘シーンでもそういうのがあったわね。このキャラには別のこのキャラが強い!みたいなの。

 火、風、水、土の基本四つと珍しいのがいくつかあった。


「クローバーの血筋は風魔法を使う人が多いんだ」


 風魔法。それがあれば髪を乾かすのも暑い夏に涼しくするのも可能になるのか!便利じゃん。


「それぞれどの属性に適性があるかを……ちょっと待ってて」


 クラブはガサゴソと自分のカバンを漁り始めた。


「はい、これ使って」


 渡されたのは中身が透明な水晶だった。


「昔、これを死んだお父さんに渡されたんだ。人より魔力が多いから訓練に励むようにって」

「いいの?叔父様との思い出の品なんでしょ」

「これの用途は魔法の適性を知るためなんだ。道具は使わないと意味ないよ」


 大人びてるわねこの子。最近6歳になったばかりなのに。


「ほら、この水晶を持って魔力を流して」


 落とさないようにしっかりと水晶を掴む。

 魔力を流すってどうやるの?そもそも魔力なんて感じたことないんだけど。


「クラブ……ここからどうするの」

「体の中の熱を手のひらに集中させて。それを水晶に押し込むように」


 熱ね。そういえば転生して目覚めた頃は体が熱っぽかったっけ?

 風邪を引いた時の感覚を込めるの?ジャムの蓋が硬い時みたいに力めばいいのかな。

 私はテレビで見た超能力者やスピリチュアルな人を真似してみる。すると、体の内側からモヤモヤした何かが溢れ出るのを感じた。

 水晶の玉にエネルギー込める……カメハメ的な!波動的な要領で行けばいいのか!


「むむむむっ!!」


 顔を真っ赤にしながらモヤモヤを、魔力を注入する。


「いい感じだよ姉さん」

「これ、まだ続くの⁉︎」


 結構な魔力を込めたのに水晶内部には変化が起こらない。

 シルヴィアの魔力だとまだ魔法が使えないとでもいうの?


「認めてたまるもんですか!」


 快適な魔法使い生活のために!!

 そんな私の不純な思いが通じたのか、次第に水晶に変化が訪れる。


「姉さん。水晶の中で風が、」

「よし!私の属性は風ね」

「違うんだ。風が発生して炎として燃え上がってるんだよ」


 うん、どういうこと?


「凄い!炎を消すように水が!最後には土が!!」

「待って待って。興奮しないで!どうなってるのよこれ」


 止め方わからないまま魔力を込めてると水晶の中が目まぐるしく変化していく。

 これじゃあ私がどの属性かわからないじゃない!


「多分、姉さんは多重属性なんだと思う。二つでもレアなのに四つもあるなんて天才だよ!」


 四つ?シルヴィアって原作だと属性は一つだったよ。確か、風か土のどっちか。弱いから属性関係なしに攻略キャラでごり押ししたけど。

 決して超レアな魔法使いとかではないよ。


「ねぇ。この水晶玉が壊れてるとかないわよね?」

「そんなことないよ。貸してみて」


 魔力を流す作業を止めると、疲れがドッと押し寄せてきた。生命エネルギー的なものだから使いすぎると体が重くなるのか……。初めてだから加減わからないけど、限界値まで魔力を使ったら気絶とかしそうだよ。


「うん。壊れてないよ」


 軽い調子で言うクラブの手の中でぐるぐる風が吹いていた。

 洗濯機のCMとかで見る勢いで凄い回ってる。

 これが攻略対象キャラとしてのポテンシャルだとでもいうのか!


「私よりクラブの方が風の力が強いわね」

「僕の方が先に魔法の勉強してるしね。姉さんだって今後次第で成長できるさ」


 そうかなぁ。

 所詮、当て馬キャラの私じゃあ原作シルヴィアより弱くなりそうだけどなぁ。属性多くても器用貧乏になりそうで怖いよ。


「学園に通うようになったら本格的な魔法や戦闘術を学ぶけど、それまでは魔力のコントロールや基礎の積み重ねだよ。魔力に目覚めたからってすぐ成長したり、強くなるわけじゃないしね。そんなのが出来るのは選ばれた英雄とか本の主人公くらいだよ」


 その主人公とバチバチするのが私なの!

 彼女の取り合いメンバーにクラブもいるの!

 ……なんて言えるわけもなく、とりあえず「頑張ってみるわ」と返すので精一杯でした。


 それと、私が四属性持ちであることを両親に話すと二人とも目をぱちくりさせて、きょとんとした顔で首を傾げた。

 おいこら、そこは自慢の娘の才能に歓喜するところでしょうが!

 お父様はお母様を疑わないでよ。修羅場になっちゃうでしょ。私のこの髪色と高い鼻的にお父様の遺伝でしょ!

 お母様に至っては自分がお腹を痛めて産んだ子なのに取り違え説を提唱しないで。産まれた時のことは覚えてないけど目付きの悪さは絶対にお母様似だから。

 しばらく説得を続けて二人を落ち着かせると、今度は頭をガシガシ撫でられて胴上げをされた。

 これなら爵位が上の貴族に嫁がせれるとか、王家とも太いパイプが!なんて言い始めた。


 やめてください。王子とお近づきになると破滅フラグが立つんです。それが致命傷で死亡もあり得るんです!


「あの、お嬢様」

「何かしらソフィア。私は今、傷心中なのだけど」

「……エース王子からお城に来るようにとのお手紙が」


 ほら!フラグ立ったじゃん!!

 このまま大人になる前に処刑とかお家取りつぶしとかあるんですか⁉︎




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