原点にして頂点。「ドラゴンクエストI」


 母が押入れから出したスーパーファミコンに刺さっていたのは、巨大なドラゴンに立ち向かう男が描かれたシールを貼られた何か。


「ドラゴンクエストI」


 それはわたしの全てにおける原点だ。


 4歳の自分にとっては、それはまさしく大冒険だった。


 世界を脅かす強大なる魔、それにたった1人で立ち向かうカッコいい鎧に身を包む勇者。


 あの勇者のビット姿が、本当にここの底からリアルだと感じた。


 だがそれと同時に作中の至る部分が、わたしにとっては恐怖の対象だった。



 まず最初に、魔物とのエンカウント。


 一瞬白く点滅し、ウィンドウが開かれるまでは完全に無音だが、魔物が映し出された瞬間から鳴り出すBGM。


 これが本当に怖かった。スーファミのドラクエ1はその出始めのBGMがやたらとでかく、そしてどこか恐怖を煽るような……出会ってはならない何かに出会ってしまったような、そんな気がしてしまうほどだ。


 今でもあのBGMを聞くと、身体が僅かに身震いしそうになる。



 次に洞窟のBGM。


 やったことのある人ならば身に覚えがあるかもしれない。初代ドラクエの洞窟は、深層へと行けば行くほどその曲調が変わる。


 その最深層のBGMが本当に恐ろしかった。


 本当に怖かった。


 もう二度と地上へ戻れないのではないかと、幼少の自分は息を呑んでプレイしていた。


 洞窟内では宿屋のような休息ポイントはない。有限であるMPはだんだんと消耗していく。だがどんなに追い詰められようとも、瞬時に地上に帰還できるリレミトが使える分だけは残しておかなければならない。


 それを、ガライの墓にいる「しりょうのきし」に教わった。


 ガイコツの騎士と暗い洞窟ないが映しだされたウィンドウの、あらゆる白は絶望を知らせる赤へと変わった。


 あの瞬間は、今でも脳裏にこびりついている。



 自分なりに最善は尽くしたが、まだ4歳の自分にとってストーリーを進めるのは非常に難しかった。


 ドラゴン1には、いくつもの橋がある。


 それを超えると、いきなり敵の強さが跳ね上がる。


 ギラを覚えていない状態で、「てつのさそり」を倒せるわけはない。


 その仕様を理解していない自分は幾度となく橋を越えては数歩の場所で死にまくっていた。


 だが幼稚園児は知っていた。


 そんな魔物よりはるかに強い存在を。


 それは勇者でも竜王でもない。



 お母さんだ。



 母は偉大である。


「このさきいけないよぉー。」


「こいつつよすぎてかてない!」


 とかほざいているだけで、翌朝には全てが解決していた。


 妖精の笛の存在を知らなかった自分は、狂ったようにメルキドの守護神「ゴーレム」に突貫しては、その数だけ玉砕していた。


 しかしそのゴーレムでさえ、母の前では無力だった。


 翌朝。


 ドラクエを起動し、またもやメルキドへと遠征した。しかし町の入り口にいるはずの石の巨人はすでにいなくなっていた。


 こうして初めてメルキドへと入ったわたしは、バリア床を踏み歩きラダトームへと凱旋した。



 1人で何ごともそつこなす勇者。どれだけ傷つこうとも、ベホイミの掛け声と共に再び戦う勇者。


 そんな初代ドラクエの主人公は、今の自分に大きな影響を与えてくれた。


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