「どう? 少しは元気になった?」にっこりと笑って女の子は言った。

 よく考えてみると、叶はその女の子の顔だけではなくて、その女の子の声にも、聞き覚えがあった。女の子の声は、叶がどこかで叶が聞いた覚えのある声だった。

「うん。……まあ、少しは」と叶は言った。その言葉は嘘ではなかった。叶は女の子と出会ってから、確かに結構、元気になっていた。(まあ、だからと言って人をいきなり、驚かしていいというわけではないのだけど……)

「ならよかった」本当によかったというような顔をして、女の子は叶に言った。

 ……そのあと、二人はそのまましばらくの間、お互いに相手の顔を見つめ合うようにして、なんとなく黙ったまま、じっとしていた。

 叶は女の子に手を引かれて、地面の上に立ち上がっていたので、(もう足もぶるぶると震えてはいなかった)叶と女の子は深い緑色をした静かな森の中で向かい合うような格好になっていた。

 女の子の背はやっぱり高くて、身長が180センチ近くある叶の胸のあたりに女の子の顔があった。おそらく168センチはあるだろう。最初の叶の予想はだいたい当たっていたことになる。

 長く真っ直ぐな(まるで絹のように綺麗で特徴的な美しい)黒髪は腰のあたりまで伸びている。

 とても大きな黒い目が叶のことをじっと見ている。

 白い綺麗な形をした耳が、長い黒髪の外に出ている。

 細くて整った眉。

 小さい鼻。そして、……小さな赤い唇。

 見れば見るほど、女の子はとても綺麗な女の子だった。

 女の子の言う通り、この女の子に一目惚れをしても全然おかしくはなかった。でも、違う。僕は女の子に一目惚れをしたわけではない。本当に、この女の子の顔に見覚えがあった。叶は本当に、『以前にどこかでこの女の子と会ったことがある』ような気がした。

 そんな風にして、ずっと叶が女の子のことを見ている間、その女の子はずっと叶のことを見て、優しい顔で微笑んでいた。

「どうかしたの? 私の顔になにか付いている? それとも私の顔、どこかおかしい?」と女の子は言った。

「いや、どこも変じゃないよ。本当にすごく綺麗だ」と叶は言った。そう言ってから叶は、自分の言葉にとても驚いた。初対面の女の子に綺麗だなんて言うなんて、本当にこの女の子を口説いているみたいだと思った。

 女の子は叶の言葉を聞いて少し驚いたみたいだった。女の子はその大きな目をぱちぱちとさせた。(長いまつげがとても魅力的だった)

 それから女の子は、顔を赤くして、ちょっとだけ照れながら「どうもありがとう」と叶に言った。

「どういたしまして」と女の子に叶は言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る