第27話 アルとユイリの関係

 昨日の夢はとても気になる内容だった。ウルドの妹であるスクルドが登場したからだ。ウルドの話だとスクルドは現在、魔王復活関連の調査にあたっているので、すぐにお話し出来ないのがもどかしい。


 まあ、それは置いといて今日だ、国王との謁見なんてどう振る舞えばいいのだろう……今から緊張しても仕方がないのだが、どうしても緊張してしまう。


 部屋にいてもなんだか落ち着かないでので、僕は身支度を整えて待ち合わせ場所の大広間に向かった。


「あ、アルおはようごいざます」


 先客が居た。


「おはようユイリ、早いね」


「アルこそ早いですね」


「なんだかあの部屋は……落ち着かなくて……」


「ですよね、私も同じです、広過ぎです」


「あの広さで1人って相当寂しいですよね」


「本当ね」


「ユイリは緊張しないですか?」


「国王との謁見ですか?」


「はい」


「私は何度かお会いしてますので、大丈夫です」


「おーそうなんですね! 国王ってどんな方なのですか?」


「優しくて、強くて、厳しくて理想の父さまって感じですかね」


「父さま……」


「どうかしましたか?」


「い、いや、何でもないです」


 ウルドの父さまの件を思い出してしまった。


「でも……アル程の力があっても緊張するのですね」


「そりゃしますよ」


「あれだけの力を持っていて、物腰も柔らかい……アルならどんな事にでも対処できるでしょ?」


「とんでもない、買いかぶりですよ」


「そんなことないですよ……」


「ほら、力ならユイリだってあるじゃないですか? 物腰も柔らかいですし」


「私はテーブルマナー無いですよ?」

 昨日の件、根に持っていたようだ。


「あはは……」


「でも、私の力とアルの力は根本的に違います。

私は人の限界を超えた存在だって自覚はあります。

勇者にしか使えない勇者専用スキルもありますので」


「勇者専用スキル……あの光やつですか?」


「はい、あれには強力な身体強化の効果があって、私はそれのおかげで人の限界を超える力を使えます」


「なるほど」

 輝きが増すと、ユイリの力は上がった。

 輝きと身体能力が比例しているのか……。

 それなら、もしかして……。


「でも、そんな私もアルには敵いません。アルは何もしなくても、人の限界を遥かに超えてますよね?」


「……それは……」


「今更、取り繕わなくてもいいじゃないですか、いつものトレーニングも威力を抑えてるでしょ?」


「……まあ、はい……」


「そうしないと危険だからよね?」


「はい」


「やっぱりアルとは根本的に違いますよ」


「……そう言われると……」


「別に責めてませんからね! そんな力があるのに、謙虚なアルの事を素敵だと思います!」


「ありがとうユイリ」


「でも、勇者としては正直、寂しい気持ちもあるのです」


 僕はユイリの話も上の空で、別の事が気になって仕方なかった。

 それは勇者専用スキルの聖なる光だ。

 単純に神威と同質だから神威の影響受けるのでは?って話しだ。


「ユイリ、まだ時間もあることですし、一つ実験に付き合ってくれませんか?」


「実験? まあいいですけど」


 僕は早速ゲートをムスタング平原に繋いだ。


「さあ行きましょう!」


「なんかノリノリですね……」


 魔法の時もそうだったが、僕は好奇心が抑えられない人っぽい。


「ユイリちょっとキツイかもしれませんが、耐えて下さいね」


 僕は神威を発動させた


「なっ……何これ」


「これは僕の聖なる光です、ユイリのと違うのは自分だけじゃなくて周りにも影響があります」


「これがアンナが言ってた聖なる光…」


「はい、何か変わったところはあります?」


「うーん、特にないですが、確かにちょっとキツイですね」


「ではユイリ、聖なる光を使ってくれませんか?」


「わかりました」


 ユイリが聖なる光を発動した。


「な……何これ?」


「変化がありましたか?」


「はい、力が湧き出て来ます……」


 神威の出力をもっと上げてみた。


「どうですか?」


「すごい、力がみなぎってくる……」


「アル、この状態で手合わせお願いしてもいいでしょうか?」


「もちろん」


「あ、でも剣が……」


「大丈夫、ユイリの剣は僕が持ってます」


 僕は『神の剣』を顕現させ、そのうちの一振りをユイリに手渡した。


「ア……アル、これは?」


「ユイリの剣ですよ? 僕が預かって……」


 ん……僕は、何を口走っているんだ?……


「……ごめん、なんか変なこと口走ってました……」


 そもそも神の剣を手渡せることすら知らなかった。


「でも、アルこれすごいですよ……自分の剣より手に馴染みます」


「ユイリの剣ですからね、僕はこの2振りを使います」


「アルはやっぱりそれを選ぶのね、相変わらず二刀流に拘るのね」


「え」


「あれ」


「なんか僕たち……」

「オカシイですね……」

 

 これは……もしかして、クロノスの記憶なのだろうか。


「でも、とりあえず始めましょう、考えるのは後でじっくり……」


「わかりました、いつも通り全力でいきますよ」


「はい」


 しかしユイリのいつも通りはいつも通りじゃなかった。


「くっ……」

 初撃をなんとか受け止めたが、いつものようにMAG01だったら死んでいたかもしれない。


「アル! 凄いです! 自分の体じゃないみたい!」


「すごいなんてレベルじゃないですよ……僕も剣じゃなかったら死んでましたよ……」


 ステイタス1万倍の全力でようやく受け止められるレベルだ。


「私、そんなに腕は悪くないですよ、ちゃんと寸止めします!」


「あはは、スリル満点ですね……」


 僕とユイリが打ち合うたびに大気が震えた、この強さはパズズやアバドンを超えている。


「キツイ! ユイリちょっとたんまです!」

「まだ、まだ上げれそうです!」


 ユイリはいつになくテンション高めだ。流石の僕も腕の感覚がなくなってた。


「ユイリ、もう限界です! ここまでにしましょう……」


「わかりました今度、お願いします」


「……は、はい……」


 僕は神威と神の剣を解除した。


「見て下さい、もう手が……」


「あら……真っ赤ね……」


「ユイリ凄過ぎましたね……」


「確かに凄過ぎましたね……」


「アルはいつもあんな力を?」


「はい……」


「ここまで凄くなるとは流石に想像してませんでした」


「アル……聞きたいことが山ほどあるんですけど……」


「それはとりあえず、謁見が終わってからにしましょう」


「そうですね、私たちはじっくり話し合う必要がありあそうですし」


「例の……セリフですね」


「はい」


 僕は、ユイリの剣だと言っていた。

 おそらくクロノスの記憶だ。

 口調がクロノスぽく無かったが、それは一旦置いておこう。

 神の剣についても一度きっちり調べたい。

 調べると言ってもウルドに聞くしか無いのだが……。


「お付き合い、ありがとうございます。戻りましょう」


「あ、謁見でしたね」


「……あ、アル」


「はい」


「その、言いにくいのですが……」


「ん?」


「制服がボロボロです……」


「え」


「ごめんなさい」


 さっきの打ち合いの剣圧に耐えられず、制服がボロボロになっていた。最初に頭に浮かんだのはアンナ先生の鬼の形相だった。絶対怒られるだろうな……。

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