第14話 少年A

 これでいいのかと、チラッと顔色を確認すると、スパーンと丸めた台本が頭をヒットした。

「崇範。いちいち自信なさそうに反応を確認するなって」

 新見が嘆息した。

 演技の練習をしている所だが、なかなか難しい。

「それから、照れるな」

 佐原もそう付け加える。

「だって……」

 崇範が困った顔で言うのに、新見がもっと困った顔をする。

「マスクをかぶったらどうって事ないのになあ」

 崇範と佐原が思わず笑うのに、

「笑いごとじゃねえ」

と新見は頭を抱えた。

 全てを、マスク、当たり障りのない笑顔の下に隠して来たので、人に見せるように表情を色々と浮かべたり喜怒哀楽を込めて喋るのに崇範は戸惑っていた。

「無口な役ばかりじゃないしなあ。

 まあ、ちょっと休憩しようか」

「はい」

 新見コーチが言いながらお茶を4つテーブルに並べ、崇範達は椅子に座った。

「学校はどうだ?」

「ちょっと落ち着いて来ました」

 新見コーチに答えると、新見がニヤッと笑う。

「そのうちまた、騒がしくなる」

 衝撃を受けたように固まる崇範に、新見コーチが慌てた。

「大丈夫、落ち着け、な?

 兄さん。深海を脅すなよ」

「事実だ。受け止めろ」

「慣れるしかないなあ。

 でも、体操してた頃はそこそこ騒がれてたんじゃないのか?」

 佐原が訊く。

「昔の事で忘れました。でも、恥ずかしかったりはしてましたよ、試合の時は集中して忘れてただけで」

「そうか。じゃあ、今は集中が足りないって事か」

「え!?」

 新見コーチと佐原が、噴き出すのを堪えた。 

「まあ、冗談はさておき、堂上はその後どうだ?」

 堂上は殺人未遂の疑いで取り調べを受けたのだが、崇範が事故だったと言った事で事故で決着するとこになったばかりだ。

「フレンドリーに話をするような仲でもないし、いつも通りですよ」

 そう。堂上はこれまで通り、東風にアタックを続け、その他の女子にも王子様然として振る舞っていた。崇範的には、自分に関わって来なければ別にどうでも良かった。

「そうか。で、東風さんの方はどうだ。上手く行ってるのか」

「はい。お弁当を一緒に食べてますよ。それからこの前は、一緒に図書館も行きました」

 恥ずかしそうに報告する崇範に、聞いていた3人は曖昧な笑みを浮かべた。

「そうか。良かったな」

「はい!

 あ、お茶、お代わり淹れて来ますね」

 立ち上がった崇範を見送って、こそこそと小声をかわす。

「小学生か、あいつは」

「いや、妙な事になるよりはいいでしょう?」

「でも高校生だろ?奥手すぎるだろうが」

「いや、ファンはそういう所がいいと言ってるみたいですよ」

「草食系男子ってやつか?」

「男ならガツンと行くのがいいだろう?」

 言いながら、パソコンで反応を見てる。『深海崇範』で検索すれば、なかなかの数のスレッドが現れる。

「概ね好意的だなあ。崇範はこれ、知ってるのか?」

 佐原が訊くと、新見は首を振った。

「嫌な目にあったから、こういうのは一切見たくないらしい。SNSとかもしねえし、若者離れしてるよな、崇範は」

 これには新見コーチも佐原も同意見だった。

「ん?これ、例の事件の犯人だったやつか」

 それを見付ける。

 崇範の父を殺した少年A達の現在が暴露されていた。

 それによると、主犯格のAは再犯を犯して少年刑務所に入っていたが、今は出所し、半グレと呼ばれる集団を率いているらしい。ここに、少年BやCも所属していると書いてあった。

 少年Dは、引きこもりらしい。

 少年Eは本当かどうかわからないが、手記を書いているという。

「手記だと?」

 新見の眉が上がる。

「事件についてか?反省とか謝罪なら、遺族に直にするもんじゃないのか?」

 佐原が怒りを抑えながら言う。

「書く方も書く方だけど、出版されるのかな。まあ、酒鬼薔薇聖斗の例もあるか。随分叩かれたみたいだけど」

「売れればOKと考える所はあるからな」

 新見兄弟は苦いものを噛み潰したような顔でその記事を睨みつけた。

「そうなると、またうるさく付きまとうやつも出るか。まあ、現場には俺か新見がついて行けばいいな。

 それよりこっちの半グレ集団のABCは大丈夫か?」

「今更何かして来ないとは思うが、注意はした方がいいか」

「取り敢えず、今のアパートはどうなんだ?セキュリティゼロだろ。何だったら中学生の蹴りでドアでも窓でも壊れるだろ」

「ホームセキュリティー、加入する?」

「家賃よりもそっちが高かったりしてな」

「ははは!」

 3人は思わず笑い出し、「いや、マジでそうかも」と思って唸ったのだった。





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